第6話、始まり、本当はとっくの間に気づいている




(でもやっぱり、そんな肩書きとかじゃない理由があるんだよな)


自分と、彼らの明確な差。

それを理解し、埋める事がマーサーの当面の目標だった。


 

「おや、今日は何かありましたか? マーサー」


そんな風に考え込んでいるマーサーに目ざとく気づいてタカが声をかけてくる。

 

「え? うん。カズって、本当にちっちゃいなあと思ってさ。いや、タカたちがデカすぎるのか」

「何おう、誰がリトクラス以下のちびっこだってぇ!?」

「いや、そこまで言ってないですよ?」

「まあ、もうちょっと飯食って肉付けろよって感じはするけどな」

「いででっ、叩くなよぉっ! 無駄に力つえーんだからよっ、あんまりやると焼くぞこにゃろっ」

 

自慢の友達だけれど、見れば見るほど、近くにいればいるほど感じずにはいられない劣等感。

マーズは、それを誤魔化すようにしてだけどどうしようもない事実を口にすると。

打てば響くとばかりに、反応して詰め寄ってくるカズ。


タカがそんなカズを穏やかに苦笑しつつ宥め、親子ほども違う体格を実感するみたいにトールがちょっかいをかける。


多分、そんなマーズの感情をみんながみんななんとなく気づいている。

気づいていて、何でもないことのように接してくれる。


それが本当に嬉しくて。

やってやろう、頑張らなくっちゃってその度に思っていると。

幻想の世界に相応しいようなそうでもないような、スクールじゅうに響き渡る特徴的な、『金(ヴルック)』の魔力のこもった鐘の音が聞こえてきて。



 

「あ、やばっ。予鈴だっ」

 

マーサーは慌てて走り出す。

覚えてろよーという、お決まりのカズの捨て台詞を聞きながらなだれ込むように校舎に駆け込むと。


そのままマーサーは、また昼にね、なんて挨拶をして三人と別れた。

そう言えば、三人と一緒じゃない授業なんて珍しいなぁと、思いつつ……。

 



そうして、一日は始まる。

物語の始まりとなる一日が。









―――マーサー・ヴァーレスト。


『レスト族』と呼ばれる希少種族だと言うことを除けば、ごくごく普通の生徒。

それが、本人の自分評であり、周りと隔絶した価値観であった。


今も、周りとの齟齬に気づかないままに。

歴史の授業の先生の声を子守唄にうつらうつらしていた。




そんなマーサーが通っている、ユーライジアスクールの授業は大きく二つに分けられる。


一つは、様々な格闘術や魔法の教義といった実践的な授業。

これらの授業は基本的に選択自由だが、今やっているような一般教養を身につける授業の成績などによって取れる数や科目が限られてくる。


さらに、実践的な授業で、いい成績を修めるとその科目の『ユーライジアカード』というものが貰え、それが生徒たちの客観的な「格」を表していた。

つまり、カードが多ければ多いほど卒業後の進路に有利になってくるといった寸法だ。


ちなみに、現在生徒で一番多くのカードを持っているのは生徒会長のタカだ。

天才と呼ばれているだけあってその数はほかの生徒の群を抜いている。

30枚を超えたところで数えるのやめた、との事。


タカに言わせれば「心の教育たる一般授業のほうがよっぽど重要」らしいが。

それこそみんなをまとめ上げるタカらしいセリフだと言えよう。

ただ、マーサーにしてみれば、実践的な授業のほうが、向いているようで。



今やっている授業は、かなり昔の王国の話なのだが。

先にその授業を履修していたカズからその中身を既に脚色された形で聞いてしまっていたので、味気ないというか、もうガッツリ知ってしまっているというか。

つまりは退屈なのだろう。


話の中盤、大昔の勇者が魔王に対抗するために習得した、最上級魔法に相当する三種合成魔法の説明をしているところで、ついには限界が来て。


いつものように夢の世界へと入り込まんとする……その瞬間である。


 


(ふわ、ねむ。もう限界。早起きしすぎたわけでもないはずだけど……ん? って、なんだあれ?)


マーサーの眠気を吹き飛ばしたのは、窓の外から入り込んできた光だった。

窓の外、その怪しげに揺らめく光を追って上空を見上げるとそこには、微かになんだかぶよぶよした怪しい物体が浮かんでいるのが見える。

魔法や格闘術などは平均をうろうろしているが、健康なのと五感が冴えていることは少なからずマーズが自慢できることでもあって。



(どこかの実践授業で、変なものでも召喚したのかな?)


確か、魔精霊を呼び出してパートナーとするための授業をどこかでやっていたはず。

なんて思っていると、おどろおどろしく瞬く光は。

ぶよぶよの怪物めいたものを覆い隠し、太陽もかくやといった大きさになっていくのが、マーサーにははっきりと分かってしまって……。



   (第7話につづく)






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る