第5話、Hello my friend、玉石混合でないことは内からは気づけない
「何だかめっさ言いたそうだけど……まあ、いいか。そういやさぁ」
あまり細かいことを気にしない性格のせいか、そんなマーサーに気づく風もなく。
あっさりと怒りを鎮め、カズ自身の中で意識を切り替えたらしく。
いつものように、今日も今日とてどこから仕入れてきたかも分からないネタをカズは披露しはじめる。
雑談のためのネタ収集と朝一番のおしゃべりはカズの趣味のようなもので。
暇さえあれば喋っている、口が動いていると思われがちというか、マーサーの前ではいつも明るくはしゃいでいる様子だったから。
誰にでもそうなのだろうかと思っていたのだが、周りの話を聞くところによると、こう見えて意外と人見知りな部分があるらしく。
カズがおしゃべりになるのは、ある程度心を開いた……仲のいい人だけなのだと知ってしまって。
マーサーとしてはくすぐったいやら何やらで、そりゃぁ日がな早起きしてまでこうしてカズとのおしゃべりを心待ちにしていたのは確かで。
見た目だけなら、どこの籠の鳥のお姫様といった雰囲気だが。
むしろその激しいギャップこそが、カズの魅力とも言えよう。
そんなカズとは初等部(リトクラス)に入る前からの知り合い、幼馴染……あるいは親友と呼ぶべきだろうか。
マーサーにとって、そんなカズのおしゃべりに付き合うことは、すでに毎日の習慣となっていて。
「……てなもんさ。いやー、真実を知らないってのは恐ろしいねえ~」
「うん、確かに」
「そうだろう、そうだろう」
マーサーの気のいい返事にカズは満足そうに頷く。
「今まで、見た目だけでカズを判断して可哀想な目にあった人たちを何人も見たからなあ」
「っだとう! どーゆー意味だそれはっ」
「どうって、ちゃんと説明する?」
と、マーサーがからかうような声を上げた時。
「おはようございます。カズ、マーサー。今日も元気で何よりです」
「お早う! 今日も凸凹コンビしてるな、お二人さん!」
いつものように、マーサーとカズが来るのを待っていたのだろう。
そう、二つの声がかかる。
「おはよう。タカ、トール」
それぞれの性格が良く出ている、だけど二人共に元気いっぱいで快活な挨拶。
それこそカズにだって負けないくらいに大好きな、自慢の幼馴染二人。
毎度のことであるのに、今日も会えて嬉しいとばかりに、顔を綻ばせてマーサーがそれに答えていたが。
「何おう、お前らこそデカデカコンビじゃねーか! おはよう凸凸コンビめぇっ」
先程の事はもう忘れたかのように、カズはそれでも挨拶しながらそのうちの一人、トールと呼ばれた少年にくってかかった。
「お、ナイスギャグだぜ、カズっ!」
そういってわしゃわしゃと、カズの頭を撫でる。
「ギャグじゃねえって、純然たる事実だろーがっ。って、やめろこのばかっ。ちったあ力の加減しろおっ」
やること成すことかわいいからこそ、カズの言葉をあまり聞いてないのか。
ご機嫌な様子で体を折り曲げながら掛け合いをしているのはトール・ガイゼル。
濃い紺色の髪は彼の性格を現すかのごとくあちらこちらに跳ねており、それを戒めんとするかのように、色とりどりの布で編まれたバンダナでこめかみのところで纏めている。
それはどちらかといえば、鉢巻と言ったほうが正しいかもしれない。
瞳の色も同じ濃紺で、目に入るものをどこまでも真っ直ぐに見つめているようだった。
「ふふ。カズの声を聞くと、一日が始まるって気がしますねえ」
「うん。それは言えるよね」
礼儀正しい口調でそう言うもう一人の少年、タカ・セザールにマーサーはうむうむと同意を示した。
タカは、ブロンドの髪に、落ち着いた智を秘めた太眉の生える銀色の瞳をしている。
いつも笑顔を絶やすことがなく、そこにいるだけで人を惹きつける何か(カリスマ性と言えばいいだろうか)を持っていて。
そんな四人は同学年の同級生で。
ユーライジアスクール初等部(リトクラス)からの付き合いになる親友同士だ。
楽しいことも辛いことも共に共有してきた四人である。
ただ、タカとトールはマーサーでさえも見上げる程に背が高いので。
こうやって、さらに小さなカズを相手にしているのを見ていると、まるで大人と子供くらいに差がある気がして、思わず笑みの溢れるマーサーである。
もっとも、二人が大人に見えるのはそれだけが理由じゃないのは確かであった。
トールはユーライジアスクールの治安を維持する風紀委員会の委員長として恐れられているし。
タカは、天下の生徒会長さまなのだ。
見た目はちみっちゃいカズにしたって、見た目はともかく一人で働きながら生活して自立していて。
(でもやっぱり、そんな肩書きとかじゃない理由があるんだよな)
自分と、彼らの明確な差。
それを理解し、埋める事がマーサーの当面の目標で……。
(第6話につづく)
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