第3話小香と久保村家

 2023年5月11日。

「クソガキのくせに!」

 大男は小香シャオシャンを睨みつけ、逃げて行った。

 その様子を小香シャオシャンは芭蕉扇と交互に見た。

 また、高齢女性は小香シャオシャンを唖然と見ていた。

「あなた、一体…」

 と高齢女性が尋ねると

「私は通りすがりの妖怪と人間のハーフだよ!」

 小香シャオシャンは、ニッと笑った。


 この小香シャオシャン、西遊記の悪役で有名な牛魔王と羅刹女を祖父母に持ち、聖嬰大王(紅孩児)を父に、人間の母を持つ齢9歳の少女だ。


「妖怪と人間のハーフ?」

 高齢女性は首を傾げた。

「そう!私は中国からここ、妖怪と人間が共存する日本に来たの!」

 小香シャオシャンは高齢女性に手を差し伸べると高齢女性は小香シャオシャンの手を繋ぎ、立ち上がった。

 小香シャオシャンは芭蕉扇を小さくし、口に戻すと

「私は、小香シャオシャン!」

「久保村悦子です」

 とお互い自己紹介した。

「そうだ。小香シャオシャン、よかったらうちに来ない?」

「うち?」

「ここから5分ほど歩くんだけど」

「ありがとう」

 小香シャオシャンはお礼を言うと悦子の自宅へ歩いた。


 悦子は息子の虎太郎夫婦と孫娘の希子と暮らしている。

 自宅に到着すると息子の虎太郎と嫁の伊代、孫の希子が暖かく迎えてくれた。

 小香シャオシャンはこれまでの事をこの一家に話した。

 久保村一家は悲しそうにしていた。

「ママがいたら殴ってたね」

 希子が言うと

「やめなさい!」

 伊代は恥ずかしそうに言った。

「でも、小香シャオシャン、今後どうするの?よかったらうちに…」

 虎太郎が提案すると

「そんな!悪いよ!」

 小香シャオシャンは首を振った。

「大丈夫だよ!客間があるからそこ使いなさい!」

 悦子が勧めると

「わかった。使うよ」

 小香シャオシャンは素直に返事した。

「けど、学校はどうするの?日本語ペラペラだから近くの学校か私が勤めている学校に通うの問題なさそうだけど…。妖怪と人間のハーフならやっぱり妖怪みたいに、学校通うか会社で働くかになるか…」

 虎太郎は千代田区の小学校の教師のため、学校の事で小香シャオシャンが心配だった。

「私…妖怪として生きるよ。お祖父様とお祖母様、父上みたいに妖怪として生きたいから」

 小香シャオシャンは言いにくそうに言った。すると、

「そうなるわね…。私の図書館は妖怪の採用枠はまだ作ってないし…」

 近くの図書館で司書として働いている伊代は勤め先の採用枠に妖怪がないため、困っていた。

 久保村家と小香シャオシャンは悩み、暫く沈黙が続いた。

 突然、希子が立ち上がり

「じゃあさ、バイトでいいんじゃない?」

「バイトは高校生か大学生からじゃないとダメだってところが殆どだし、妖怪のバイトは募集してるけど、小香シャオシャンはお母さんが人間だから難しいよ」

 悦子は冷静に言った。

「じゃあ、どうするの?」

 希子が大声を出した。

 それからも沈黙が続いたが、悦子はある妖怪の事が頭に思い浮かんだ。

 その妖怪は何でも屋を経営してる鬼塚清志郎という牛鬼だった。鬼塚は幼少期に人間に育てられた牛鬼で、ある依頼で唯一の妖怪の政治家・金長牡丹と知り合いたまに連絡を取り合っていた。

「私、鬼塚さんに相談してみるよ。鬼塚さんなら何かいい知恵を貸してくれるかもしれない」

 悦子が言うと

「お祖母ちゃん、それいいよ!あの人変だけど、知恵はすごいから」

 希子は指を鳴らした。

「こら!希子!鬼塚さんはパパの学校の運動会か学芸会の手伝いで来るし、お祖母ちゃんのお花の手入れをしてくれるから助かってんだぞ!」

虎太郎は叱った。

「でも、鬼塚さん驚くよ。牛魔王と羅刹女の孫って聞いたら」

 と希子。

「そうだよな〜。中国の有名な妖怪だからね。あの孫悟空と戦ったし」

 と虎太郎。

「しかも西遊記のドラマでは必ず出てくるよね。パパ」

 と希子。

「そうだな。毎回悪役だけど」

 と虎太郎。

「あのさ、孫悟空ってマジであのドラマの通りだったらしいよ。後、沙悟浄も猪八戒もそのまんまだったみたい」

 小香シャオシャンは淡々と言うと

「え!マジで!?」

「誰が孫悟空演じてた時だ?」

 希子と虎太郎が尋ねると

「堺正章」

 小香シャオシャンが言った。

「あーなるほど」

 虎太郎は納得した。

「それはいいから鬼塚さんに相談するんですよね?お義母さん」

 伊代は悦子に尋ねた。

「そう。明日聞いてみるよ」

 悦子が言った。


 翌日、悦子は鬼塚の何でも屋へ行った。訳を話すと鬼塚はちょうど人が足りないから小香シャオシャンに是非会いたいと答えた。


 帰宅した悦子は、小香シャオシャン

「鬼塚さんがどうしても人が足りないって悩んでいたんだ。どうだ?やってみるか?」

「そうだな。私、お祖父様達みたいに妖怪として生きていくって決めたから働かなきゃだし…。わかったよ!婆さん、その牛鬼に会ってみるわ!」

 そう小香シャオシャンは答えた。

「わかった!明日から行きなさい!」

 悦子が言うと

「え?明日?大丈夫なの?」

 小香シャオシャンが不安そうに言った。

「大丈夫よ。鬼塚さんは早く人材を欲しがってるから」

 と悦子が言った。

 こうして、小香シャオシャンは明日から何でも屋で働く事になった。だが、鬼塚は久保村家曰く変人だが話してる内容が正しい事が多いそうだ。

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