第2話東京迷子

 中国で虐められた事がきっかけで、日本へ逃げて来た小香シャオシャン

 小香シャオシャンの祖父母は西遊記の悪役で有名な牛魔王と羅刹女。父は聖嬰大王(紅孩児)。母は人間。


 2023年5月11日。

 今、小香シャオシャンは途方に暮れていた。日本なんてネットと動画でしか見た事なかったからだ。それに小香シャオシャンは9歳の子供だ。

 小香シャオシャンは詰めが甘かった。日本に行くとざっくりした計画で日本のどこに行きたいかなんて考えていなかった。成田空港に着いた際、

「まあ、いいか。東京行こう」

 成田空港から成田エクスプレスで東京まで来た小香シャオシャン

 小香シャオシャンは広い東京駅で迷っていた。

「どうしよう…。日本に知り合いいないし、私…」

 困る小香シャオシャンの目に上野という漢字を発見した。上野の漢字を見た小香シャオシャンは、以前上野の動物園にいたパンダが自分と同じ『香』という漢字を使った香香シャンシャンという名前だった事を思い出した。

 小香シャオシャンはとりあえず、山手線に乗って7分で、上野に到着し、上野恩賜公園に向かった。

 上野恩賜公園に入ると木々が青々と茂っていて小香シャオシャンは思わず深呼吸し、近くのベンチに座り、水を飲もうとしたその時、池の方から悲鳴が聞こえた。見るとスワンボートに乗っていた夫婦だった。叫んでいたのは、妻のほうで池を指差していた。小香シャオシャンは妖術で黒雲を出して乗り、スワンボートに乗っている夫婦に近づいた。

「どうしましたか?」

 小香シャオシャンが尋ねると夫婦は小香シャオシャンを上から下まで見て

「あなたは…」

 妻が不審がっていた。

「私は怪しい者じゃありません。悲鳴を聞いて駆けつけたんです」

 小香シャオシャンは丁寧に話すと

「いや、実は妻が結婚指輪を落としちゃって…」

 夫は自分近くを指差した。

「だいたいこの辺りなんだけど、君、どうするの?」

 夫は不安そうに小香シャオシャンを見た。

「私が探してみせます!」

 と小香シャオシャンは自信満々に言った。

「な、何言ってるの?君みたいな子供が…」

「探せます!お願いします!」

 と小香シャオシャンは夫の言う事を遮った。

 小香シャオシャンは目を大きく見開き、夫が指差した方向を中心に周りを見た。すると自分の真下にキラキラ光る物が落ちているのに気づき、黒雲から池へダイブした。

「おい!君!」

 と夫はスワンボートから覗いた。

 小香シャオシャンはキラキラ光る物を取ろうとするがなかなか取れず苦戦した。

「頑張れ!頑張れ!」

 と夫婦は叫んだ。それにつられて通行人達も皆、応援した。

 小香シャオシャンは周りを見渡し、近くにあった手のひらサイズの石を見つけ、それを何度も叩いた。するとキラキラ光る物は取れた。小香シャオシャンはキャッチして見てみると、それは先程話に出てきた結婚指輪だった。

 池から上がると夫婦に結婚指輪を渡した。

「どうぞ」

「ありがとう!最初はどうなるか心配したよ!」

 と妻が涙を流してお礼を言った。

 それと同時に通行人達から拍手を受けた。

 それから夫婦はタオルに包まった小香シャオシャンに改めてお礼を言うと

「いえいえ。私なんて…」

 小香シャオシャンは謙遜すると

「いや、君凄いよ!どうやって探したの?」

 夫が尋ねると

「え…信じられないかもしれませんが、妖術を使って…」

 小香シャオシャンは言いにくそうに答えると

「妖術?じゃあ、やっぱり妖怪はいるんだね」

 妻が関心していると

「やっぱり?日本は妖怪と人間は共存してるんじゃ?金長牡丹が動画で話してたよ!それに私は父が妖怪で母が人間なんだよ!」

 と小香シャオシャンは興奮気味に言った。

「あのね、皆私らと姿は変わらないから本人からカミングアウトされないとわからないんだ。それに、金長牡丹って牡丹の事か!ていうか、君が妖怪と人間のハーフとかマンガみたいだね」

 と夫が優しく話すと

「そうか…。日本では動画やネットニュースの通り、妖怪と人間は共存してるんだ…。中国からこっちに来てよかったよ」

 と小香シャオシャンはほっとした。

「君、中国から来たの?」

「うん。私が妖怪の血を引いたり妖術使っているから学校で虐められていて耐えられなくて1人で逃げて来たんだ」

 小香シャオシャンはこれまでの事を夫婦に話した。

「よく1人で逃げてきたんだね」

「うん…。親とお祖父ちゃんお祖母ちゃんには探さないでって置き手紙してきた」

「そうか…。でも家族は心配してるよ」

「いいの!訴えても何も解決しなかったし、それに日本に住むの夢だったんだ」

小香シャオシャンは笑顔を作った。

「君がそう考えてるなら私達は応援するよ」

 と夫は言った。

 別れ際に、小香シャオシャンは夫婦の名前を聞いた。夫の名前は長曾我部寛で、妻は長曾我部紅だった。

 長曾我部夫婦と別れた小香シャオシャンは妖術で人の役に立った事を嬉しく思い、胸を張って上野恩賜公園を後にした。

 そこから銀座線に乗り、終点の浅草まで来た小香シャオシャンは人の多さに驚いた。

 上野同様、小香シャオシャンはあてもなく歩いた。

 その間に写真を撮ったりしていると喧嘩をしている声が聞こえ、走ってみると大男が高齢女性から鞄を取ろうとしていた。

 小香シャオシャンは全速力で大男に向かって走り飛び蹴りした。大男は倒れたが、すぐに立ち上がり、

「何するんだ!ガキ!」

 と小香シャオシャンを殴ろうとした。

「やめろ!お婆さん嫌がってるでしょ!」

 小香シャオシャンは大男の攻撃を交わしながら言うと口から芭蕉扇を吐き出し、それを術で大きくすると大男に向けて

「離さないと吹っ飛ばすぞ!」

 小香シャオシャンは脅すと

「ちゃんちゃら可笑しい!そんなことできるはずないだろ!」

 大男が大笑いしたと同時に小香シャオシャンは芭蕉扇を仰ぐと大男は吹っ飛ばされた。大男は、小香シャオシャンを睨みつけると

「クソガキのくせに!」

 と言って逃げて行った。

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