Dragon knight《ドラゴンナイツ》~聖女様の竜騎士~
福山典雅
Dragon knight《ドラゴンナイツ》~聖女様の竜騎士~
俺はルク・リアス17歳、現在、猛ダッシュで逃げながら絶賛絶対絶命中である!
「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ここは竜の聖域『シャルナ』。広大な北の漆黒魔の森を越え、トリプルS級魔獣達が生息する険しくも恐怖なウォールマウンテンズと果てしないログレイクをさらに抜けた先、伝承レベルで謎多き場所、それがこの竜の聖域『シャルナ』だ。
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
どうあがいても殺す勢いで、逃げ惑う俺の周辺には破壊された巨大な岩石が流星群の如き物量でどんどん降り注ぎ、有り得ない速度で瞬く間に地形が変わっていっている!
「なんでだぁあああああああああああああああ!」
ちなみに、このロックキャニオンを含む聖域の切り立った岩場には、圧倒的高額で取引される虹色の
「もういやだぁあああああああああああああああああ!」
俺が何から逃げているかと言うと、体長200メートルを超える原種古竜『アウレリーナ』からだ。奴は怒り狂って俺を追いかけている。というかその周辺の岩石が沸騰し溶けるレベルの高濃度な魔力殺意を出しまくっていた。
「冗談じゃねぇぞぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
もはやこの世の終わりみたいに天空には黒雲が幾つもの竜巻を帯び暴嵐と化し、大地を引き裂かんと眩い雷槍が幾つも荒れ狂い、どう見ても絶望的な状況だ!
「ゴァグルルルルルルルルルルルルルルルル、ゴラァ!」
「だから、さーせんってんだろうがぁあああ!」
「ゴラァアアアアア! グラバルゴァアアアア!!!!!」
駄目だ、高知能な原種古竜の癖に、聞く耳を持ってくれない!
もはや話し合いの余地もないのか! ちなみにさっきワンチャン謝って見たのだが、誠意が足りなかったのか、どうも火に油を注いだみたいだ。
「ちっきしょおおおおおおおおおおおおおおお!」
だがお怒りになるのもごもっとも。実はとあるトラブルのせいで、約2000年振りに神竜たる原種古竜『アウレリーナ』は起こされたのだ。二度寝はしない主義なのか、ご機嫌斜めどころか怒髪天を突く勢いで超怒り狂っている!
と、そんな絶体絶命が進行中の中。
「ねぇ、ルク、おなかすいた! す・い・た!」
「…………」
まるで緊張感なく、この忙しい時に俺の頭の上から呑気な声が響いた。が、それどころではない、当然無視だ。
「す・い・た! す・い・た! もう、無視しちゃヤダ! えい、ぽこぽこぽこだぞぉ、やぁ!」
死んだ魚の様な白目で完全無視を決め込んだ俺の頭を、擬音を含んだ間抜けな声で太鼓みたいに叩く素っ頓狂なこいつ、大陸7聖に数えられる聖女『クレハ』16歳だ。王都でも大人気で有名な《慈愛の聖女》とはこの馬鹿の事だ。
大体、肩車されて逃げてる状況なんですけど!
「もう、ぽこぽこぽこぽこぽこぽこぽこぽこ、ついでにえいえい、ストンピング、ストンピング、たぁー!」
「もぉお、やめんかぁああああああああああああああ! なんで蹴りまで出してんだよ! しかもかかとで痛いし、ぶっとばすぞ、ごらぁ!」
「やっぱり聞こえてるんだ、もう、私の事は無視しないいで!」
「うっさいわぁ! この状況がわかんないのかよぉ!」
「やだ、ちゃんと目を見て話してくれないと、本当に君が伝えたい事も私には伝わんないんだからね!」
「だ――――っ! めんどくさ! ロマンス小説のセリフか!」
と、ツッコんでる場合ではない。
ドガガガガ――――ン!
「うおっ!」
「きゃっ!」
突然、荒れ狂う天地の影響で、俺達の目の前の岩場が崩れ落ちて来た。
あぶなっ! なんとか寸での所でジャンプしてかわせた。すると……。
「あの、ルク殿、ちょっとよろしいですか!」
凄まじい勢いで隣を同じく全力で並走している武人・聖帝騎士団女団長・蒼き閃光の『ノルン』18歳が挙手して聞いて来た。思わず「はい、どうぞ!」と言いそうになり堪えたが、ノリのいい自分は好きだ(笑)。
「なんだよ、ノルン! 今は全力で逃げなきゃ死んじゃうんだぞ!」
「いや、ルク殿、僭越ながらご注進申し上げますが、今の場面は『大丈夫か、クレハ!』と一旦立ち止まって聖女クレハ様を降ろしてですな、『見ただけじゃわからんな、おい、もっと良く見せてみろ、もっとだ!』と恥ずかしがる聖女クレハ様の服を無理矢理まさぐり、あんな事やこんな事をした挙句、さらに乱暴に揉みしだき、『おい、どうしたんだ、顔が赤いぞ、なんだその息遣いは、とんだほしがりさんだな!』と煽り、さらに『ふん、このだらしない双丘はなんだ、なんか言って見ろ! おいおい恥ずかしがるんじゃないぞ、こっちを向け、このけしからんメス豚め!』と、せずしてどうするんですか! ここは大切で大事なおスケベ様を起こす場面ですぞ。貴方は何を考えてるんだ、私は見損なったぞぉおお!」
「長いわぁああああああああ!、しかも、アホかぁああああああああ!」
男女に容赦のない俺は、速攻でノルンの脇腹に蹴りを入れた。
「はうううっ、ああ、いい! その無慈悲な鬼畜さ、最高ですぅ、ご、ご指導ありがとうございました!」
「……もうさぁ、頼むから、真面目に逃げろよぉおおおお!」
突然だが、俺は苦労性である。
かいつまんで言えば、俺は帝都の竜騎士学校で見習い騎士をやっている。そこでこのアホな聖女クレハから「私の竜騎士になって!」と言われ、断ったらしつこくストーカーされた。困り果てて学校にハラスメントで訴えたら、逆に学園長から「聖女様に逆らうな! イエスかはいと答えろ!」と無理矢理承諾させられ、国から聖帝騎士団女団長ノルンが監視役としてやって来た訳だ。
「もう、ルク、おなかすいた! す・い・た!」
「ルク殿、今一度蹴りを是非! はっ、いや、その刺すような冷たい視線も最高ですぅ!」
そして現在、こんなアホな二人に付きまとわれる日々。さらに今日は「竜騎士になるんだから、竜を見に行きましょう!」とアホの聖女クレハが、国宝の瞬間移動魔道具『キプロイアの扉』を勝手に起動、信じられない事にこの竜の
「大体、お前が悪いんだぞ!」
全速で走りながら俺がそう叫ぶと、聖女クレハはキョトンとした。
「えっ? 私?」
わかってないのぉおお! 俺は思わず力なく地に屈しそうになったのを懸命に堪えた。
「あのなぁ、良く聞け。お前が気持ち良さそうに寝ている原種古竜『アウレリーナ』を見て、『あっ、竜にもささくれがあるんだぁ! 面白ーい!』ってひっこ抜いたから痛くて起きちゃったんだろうが! あんな1メートルもあるささくれ(逆鱗)を引っこ抜くとか、どんな力だよ! 筋肉派の聖女なの! もう血がどぼどぼ流れ出て来るし、『アウレリーナ』がマジでお怒りだろうが!」
「だ、だって、抜きたくなるもん! 私、悪くないもん! 知らないもん!」
「もんもんもんもん、うっさいわぁああ! 困ったら『もん」を使う癖なおせ!」
俺はこの肩車している聖女様を、そのままフルスイングで投げ捨てたい衝動を辛うじて堪えた。そんな自分を褒めてあげたい。
と、その瞬間地面が今まで以上に激しく隆起し揺れた。
「ゴァグルルルルルルルルルルルルルルルル、ゴラァ!」
まずい、今のやり取りの間に原種古竜『アウレリーナ』がすぐ側まで迫っている。すると女団長ノルンが、再び挙手をした。
「ルク殿! もはやこうなったらルク殿が倒すしかないですぞ。ルク殿は剣聖様を父に持ち、大魔導師様を母に持ち、スキルマスター様を祖父に持ち、竜破爆裂一撃流バトルマスター様を祖母に持ち、絶界盾王様を叔父に持ち、最強アサシンクイーン様を叔母に持ち、更にはスナイパー、探索、呪術師、賢者に隠者、エクソシストに占い師、果ては商人、鍛冶職、魔道具師、薬剤師、錬金術師、もうありとあらゆるその分野の最高峰の達人方を輩出した最強一族の嫡子でしょう? ここはひとつその実力を発揮すべきです!」
そう俺は物凄い人達を身内に持つ。だけど……。
「無理だ、お前も知ってるだろう! 俺は『めっちゃ虚弱』なんだぞ!」
「それは確かに聞き及んでおりますが、ルク殿は全ての技を継いだ『継承者』の資格をお持ちだとも聞いておりますが?」
「ああ、技は全部受け継いださ、でもな、ただの『継承者』じゃなくて『虚弱の継承者(仮)』だからな!」
そう、生まれた時の鑑定で、俺は身内の才をすべて引き継いだ奇跡のお子様と呼ばれたのだが、残念な事に魔力がほとんどない。大人になるまでに全ての技は覚えたが、それらは魔力があって初めて生かされる。
そして、大魔導師である母が「あら? へんね?」と魔術分析を試みた結果わかった事がある。それは俺が5歳の時だった。
「安心して、ルクちゃん! 魔力はママよりすごく多いわ。でもね、才能を引き継ぎ過ぎて魔術源泉がこんがらがっちゃってるから、ちゃんと魔力が流れてないみたい。もう、面白いんだから、うふふふふ」
と軽く言われた。グレなかった自分が好きだ。
つまり俺はめっちゃ貯水量のあるダムだけど、設計ミスでほとんど排水出来ないという悲しい状態なのである。実際に俺が使える魔力は、ほとんどない。
「ルク!」
不意に聖女クレハが顔を下げて、俺を覗き込んだ。
「私、知ってるよ! ルクが少ない魔力をどうにかして効率的に変化させて、少しでも長く魔力を使える様にって毎日特訓しているの!」
「クレハ……」
そう、俺はあらゆる魔術式を自分なりに再構築して、どうにかして魔術の使用量と稼働時間を延ばせないか、魔力枯渇寸前の危険な状態を何度も繰り返し、常に限界までこの体を使って日夜研鑽を積んでいる。
「見てたのか、お前……」
「うん、だから、こんな凄い努力家だから、私の竜騎士になって欲しいって思ったんだよ! だから、ルク! 良く聞いて、私の大好きな言葉を貴女に贈ります!」
そう言った瞬間、姿勢を戻した聖女クレハの身体から祈りの光源『シリウスの涙』が溢れて来て、俺を祝福する様に天から光が降り注いだ。
「貴方に聖女の祈りと祝福を捧げます。
『努力はなにがあろうと、絶対に裏切らない!』
この言葉を貴女の誇り高き意志へと贈らせて頂きます」
カチリ!
瞬間、俺の中で何かがはまった気がした。
なんだか魔力が極僅かだが増えた気がする。クレハはアホだが、真面目にすれば出来る子なんだと少し見直したのは内緒だ。なんか、嬉しいな。
「ありがとうな、クレハ!」
俺は素直にお礼を言い、走るのをやめ肩車していたクレハを降ろした。そして気休めだが結界魔術の魔道具を渡して、二人には岩陰に隠れてもらった。
やるぞ! 覚悟を決めた俺は、目の前に接近している凶悪な原種古竜『アウレリーナ』と睨んで対峙する。
物凄い迫力だ。獰猛な山が接近しているみたいで、凄まじい凶悪な圧力で空気が震えている。
だけど、やってやる。俺に様子見なんかはない。
「いくぞ!」
素早く全身に魔力を薄く伸ばし一気に纏う。その瞬間、周辺に淡いライムグリーンのエフェクトが広がり、小さな黒い雷がチリチリと手足を這う。ばあちゃんの技を使わせて貰うぞ。
ドン!
俺は低い体勢から地面を大きくえぐって蹴り、常軌を逸した最大速度で瞬時に原種古竜『アウレリーナ』に迫る。200メートルを超える巨大な肉塊、その全身を覆うのは世界最硬度を誇る原種古竜の鱗、さらに天候をも変える膨大な魔力、すべての魔物の頂点に太古より君臨する竜種の中でも、最も偉大で、最も強き個体。この地上で並ぶものなしと言われるその暴虐の化身が俺と言う獲物に牙を剥く。
「ゴァグルルルルルルルルルルルルルルルル!」
放たれたのは、ブレスなどという生ぬるいモノではない。
空間が歪み、大地が悲鳴をあげる。
メキメキと原種古竜の周辺がたわみ、すべての生物を滅せんとその威容が惜しげもなく狂気を生み出した。
『Hurricane annihilated ー暴竜のあぎとー』
幾度も大陸の文明を灰燼に帰したという伝説の滅びが、目の前で始まろうとしていた。
だが、そんなの知ったこっちゃない!
「竜破爆裂一撃流改、『黒紫電』! 参る!」
攻撃完全無効化で爆殺する暴虐な破壊光を突っ切り、その巨体を一気に駆け上がった俺は、全力でこの拳を竜のテンプルに思いっきり叩き込んだ。
「おらぁああああああああ!」
「グルァァアアア!」
ドン!
その瞬間、大気に亀裂が生じ、広大な大地をも揺るがす咆哮をあげた原種古竜『アウレリーナ』の防御壁がぶち破れ、圧縮された魔力が解放される様に巨大な爆風が巻き起こった。
「ゴルァァアアア!」
「うおおおおおおおおおお!」
爆裂する兇悪な雷撃と化し、俺の拳の衝撃波が巨大な波となって聖域『シャルナ』一帯を震わせた。
ドッゴォォオオオン!
刹那、200メートルもの巨体が乱暴に吹っ飛んで、勢いのままに頑強な岩場に深々とめり込むと、その雄大なしっぽがくたりと倒れた。
竜破爆裂一撃流改、『黒紫電』。魔力を超高速で振動させ本来の身体バフ効果の数千倍以上の一撃を可能とする。俺はさらにその倍加術式を加速効率化させ、その上で接触した瞬間、魔力の少ない俺を触媒に、相手の全魔力を破壊力に転換する極上のカウンター機能を術式に追加している。
黒き稲妻を奴は最後に見ただろう。
俺はなんとか一撃で、凶悪な原種古竜『アウレリーナ』を屠った。
「あっ、だめだ、こりゃ!」
同時に俺はバタンと大の字にぶっ倒れ、もう死んじゃうんじゃないかって苦しみで、荒く呼吸をする。
「はぁ、はぁ、はぁ、ぐっ、ひぃいいいいいいいいい、しんど!」
まぁ、苦しいのは当然だ、俺は虚弱だ。こんな手加減無用で攻撃すれば、魔力枯渇でぶっ倒れちまう。まったく、不便だな……。疲れちゃったぜ、こんちきしょう!
と、思ったその時だった。
原種古竜『アウレリーナ』が虹色の魔素原石の様に煌き始め、眩しくて直視出来ない輝きを放ち始めた。そしてその眩さが薄らいだ時、俺はしんどいがなんとか起き上がり、そして「そいつ」に驚愕した。
「ちょっと、君! わ、わたしは怒ってるんですよ! ああ、まだ頭がくらくらする。あの、わたし、アウレリーナです」
「へっ?」
俺は驚きの表情を浮かべ、唐突に目の前の現れた女の子を眺めた。
まさか人間体になったのか、確かにその竜種のその能力は知っている。美しくも均整が取れすらりとしたその姿、だけど、だけど……。
「な、なんですか! 私の人間体がおかしいんですか、処しますよ!」
「いや、だって! なんでおさげの眼鏡っ子なんですか! しかも服装が地味子だし!」
「い、いいじゃないですか、ほっといて下さい!」
追伸、俺は地味な眼鏡っ子が好きだ(笑)。
と言う訳で、ワンパンKOされた原種古竜『アウレリーナ』から、「わたしを汚した責任を取ってもらいます、あなたを竜騎士として認め、生涯連れ添わせてもらいますからね!」と言われた。
それを聞いた聖女クレハは、
「えええええっ! ルクは私の竜騎士なんですけど! 面白い展開、宜しくね!」
と明後日な事を言い、
女団長ノルンは、
「こ、これはヨメですか、ヨメなのですね! くっ、私達のプレイの幅が広がるぅ、ありがとうございます!」
と喜んだ(なんでだ!)。
そんな訳で、竜を従えた俺はDragon knight『ドラゴンナイツ』の資格を手に入れたけど、虚弱体質である事は変わらない。ゆえに、
「えーと、結構です、お疲れ様でした」
とお断りした。
to be continued?
するのかな……なかったら、すいません( ;∀;)
Dragon knight『ドラゴンナイツ』~聖女様の竜騎士~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます