葬送のゆくえ
ルリア
葬送のゆくえ
人間は死ぬと葬送される。
葬送の方法は国の法律、信仰している宗教、生前の本人の意思によって異なる。火葬、土葬、風葬、水葬が一般的に知られているけれど、どうやら他にも種類があるらしい。
わたしの住む国では火葬が一般的だ。きっとこの国の人たちはみんなひとり残らず「死んだら焼かれる」ということを知っていて、それが自然で当たり前だと思っている。
死後に残される自身の身体の行方に関して、ほかの選択肢が存在しているなんて疑いもしないほどに。
もし生前にほかの選択肢を選ぶことを意思表示したところで、周囲の評判を気にする気質が強いこの国のひとたちのことだ、今後も生きていかなければいけないじぶんたちの醜聞を気にして故人の意思を無視することもじゅうぶんに考えられる。
死人に口なし、とはよく言ったもので、少数派は死んでからも多数派にかんたんに抑圧されてしまう。
わたしは死んだらどうなりたいだろう。
生まれてからずっと変えることができない──お金をかければ変えることもできたかもしれない──容姿を好きになれないままだったとしても、共に生きてきたという愛着みたいなものは少なからず存在する。
残ってしまった傷痕は思い出せるものと思い出せないものの両方があるし、歳を重ねていくなかで増えたしわとか、減った筋力とか、歪んだ姿勢とか、癖でやってしまう指鳴らしで太く見えるようになった指とか。
わたしは意識してなくても、周りにいるひとみんなが知っているわたしの仕草の癖とかもきっとあって。
そういうものを蘇ることなく永遠に葬るとしたら、どのような方法がいちばん似合うだろうか。
ゆっくり朽ちていくとしたらきっと、土葬や水葬、風葬がいいかもしれないけれど、死んでなお意図しない人目にさらされるのは嫌だから、水葬と風葬は選ばない。
土葬だったらその心配は必要ないけれど、いまのこの感覚で「土に埋められる」ことへの嫌悪感はすこしだけあるかもしれない。
火葬だったらすぐにでも「もう戻ってこない」という目に見える変化があるから、結局それがいちばんいいのかもしれない。
もちろん「焼かれる」のは土葬と同じくらい嫌悪を感じるけれど、結局まだわたしが生きているからそう思うだけで、今までのこの国の故人のほとんどがそれを通過してきていると思うと、死者に対する敬意みたいなのをすこしだけ感じる。
いっそのこと大勢に見守られて「葬送される」という考え方から離れて、人目につかない深い深い森のなかでそのまま行き倒れになる方が、わたしにはいちばん似合っているのかもしれない。
よく「ひとは死んだらどこへ行くか」という議論がなされるけれど、それは目に見えない「意識」や「魂」の話であって、葬送されたあとに残される「人間の抜け殻」について議論されているのをあまり聞いたことがない。
あまり、というよりももはや、わたしはいちども聞いたことがない。
この国は火葬が一般的だというのは先ほどの通りだけれど、火葬されたあとに残される、いわゆる遺骨や遺灰は骨壷に収められて墓地に保管される。それは果たして、この世界にとって正しいことなのだろうか。
わたしたちが生きているこの世界に存在する資源には限りがある。
人類が生まれてからきょうまで積み重ねられてきた文化のなかで、たまたまこの時代に生まれたわたしたちが不自由なく、あまりにも当然のように享受しているこれらの資源やエネルギーは、元々存在しているものを便利に使えるよう研究されて実用化されてきた。
人間はそれを贅沢に消費した挙句、死後は大切に保管されるように埋葬される。
死んだあとだって、火葬するために酸素を消費して二酸化炭素を排出する。
そのあと、本来ならこの世界は遺骨や遺灰から資源を得られなければ、割りに合わない気がする。
人間が死ねば死ぬほど、それらを残すために消費している資源を取り戻せなくなる、ということにはならないのだろうか。
もしそこまで被害──という言い方が正しいのかはわからないけれど──が及んでいるとするのなら、生きていても死んでいても結局人間という生き物はどこまでも自分勝手な生き物でしかない。
だとしたらやっぱりわたしは、死んだあとに焼かれて大切に埋葬されるより、深い深い森のなかで行き倒れて、人目につかないままゆっくりと朽ちて世界に還っていくのがいちばん似合っている。
そう思うのと同時に、きっとそれは叶うことがないんだろうな、とも思う。
なにより、本気で叶えようとするためには、わたしには捨てられないものが多すぎる──何も持っていないつもりで生きているはずなのに、捨てられないものが多いなんて、わたしはいったい何をそんなに大切に持っているのだろう。
いずれにせよ、わたしはまだ生きている──どのような最期を迎えるかを具体的には考えられないうちから葬送のゆくえを心配するのはおそらく、まだすこしだけ早い。
葬送のゆくえ ルリア @white_flower
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