第48話 銀のペンダントⅡ

✳︎アデルちゃん=女神エポナ 視点です。これは遥か遥か遠い昔のお話。


 

「精霊王、すごいのです。まさかそんなことが可能だなんて驚きなのです」


「いや、ほとんど妻の研究の成果だよ。僕なんてちょっと助言しただけだし、もともとは【我が友】の遺した資料からの着想だからね」


「ああ、【あの御方】の……。それなら納得なのです」


「ちょっとエポナ! もっと私のことを褒めなさいよ」


 闇の精霊が何か言っているけど放っておけばいいのです。彼女は精霊王にいつも甘やかされているからこれくらいで丁度いいのです。


「妖精から精霊への進化の逆、精霊から妖精への退化? そんなことを本気で考えていたなんて【あの御方】はやはり変人だったのです」


「そうだね。僕も知識では彼に負けないつもりだったけど、彼の突拍子のない発想にはよく驚かされたものだ。【我が友】が言うには『何か必要な気がするんだよね』って。もしかしたら未来のことが見えていたのかもしれない」


「うーん。未来が見えていたらあんな悲劇は起こらなかったのです。もし見えていたのなら【あの御方】は変人というよりただの大馬鹿者なのです」


「それは僕も否定しないかな。でもエポナ、発言には気をつけないといけないよ。【世界の意志】は彼や側近のレンブラントの手を離れてからは全く別の組織になってしまった。僕や魔王の創設メンバーですら『世界への脅威認定』するくらいだし。君までそんなことになってしまったら誰に可愛い娘を託したらいいのか……」


「精霊王、私に任せるのです。あの子を預けられる者はすでに見つけたのです。ちょっと頼りなさげに見えるけど信頼できるのです」


「その頼りないっていうのが気になるけど……。君がそこまで言うのなら間違いないんだろうね。あとは妻が子離れできるかどうかか……」


「そっちの方が大変なのです」


「何が大変ですって! わ、私だって覚悟は決めたわよ。失礼ね!」


「だってこの前は世界を滅ぼさんとする勢いだったのです。アンクウと私で説得するのは大変だったのです」


「いいじゃない。森のひとつやふたつ消し飛ぶくらい」


「い、いや。それは僕も駄目だと思うけど……」


「ご、ごめんなさい」




✳︎精霊王視点。『精霊の城』陥落の少し前のお話。



「お父様どうしたのですか? そんな顔をされるとボクまで悲しくなります」


「ああ、すまない。笑顔で行う約束だったね。これは、世界がお前を受け入れてくれるやさしいものになるまでの一時的な別れ。だから笑顔でっていったのは僕だったのに」


「そうですよ、あなた」


「そういうお母様も……」


「そ、そうかしら。おかしいわね……、うっ、うぅ」


 僕も覚悟を決めなければ。精霊から妖精へと進化の逆行を進める魔導装置の隣には女神エポナが何も言わずに立っている。僕たちの様子を見ていた彼女が装置へと誘導する。


「そうだ、お父様! これを渡しておかなくちゃ。お母様にはもう渡したんだけどね。魔王様のところのアビゴハサさんに手伝ってもらって作ったんだ」


 彼女のちいさな手から渡されたのは銀色のペンダントだった。


「これは素晴らしい」


「お母さんとお揃いだよ。ボクの記憶はすべて無くなっちゃうけど……。お父さんとお母さんは絶対にボクのこと忘れないでね。絶対だよ……」


「あたりまえじゃないか。心配しないでおくれ、すぐに迎えにいくから……」


 妻が彼女を強く抱きしめる。もうこれが最後の別れになるかもしれない。この子は賢い。実は僕たちの気持ちもすべて分かっているのかもしれない。


 彼女が装置のベッドに横になると扉がゆっくりと閉まっていく。起動音がして、彼女は白い光に包まれていった。

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