第47話 アデルちゃんの告白

「おチビちゃんだぁ!」


「わーい。うれしいのー」


「おらおらぁ」


「ちゅーするのー」


 おチビちゃんって、お前たちの方がちびっ子だって……。精霊ちゃんたちに揉みくちゃにされるユキさん。でも、やっぱり嬉しそうだ。


「お姉ちゃんたちやめてよー」


 ユキの悲鳴を後にして自室に入る。この馬車の中の拡張空間は好きな広さにできるのだが、今世の日本暮らしと出張先でのホテル暮らしのせいであろう狭い部屋がなんとも落ち着く。机とベット以外は何もない。


 アンクウさんの部屋は畳敷きの純和風で、なぜか中庭まであってししおどしまである。竹筒の石を叩くこーんという音が心地いい。精霊ちゃんたちはこのお部屋がお気に入りで、寝るときはちゃんと自分たちで布団を敷いている。女子部屋はリクエストが細かくて苦労した。お姫様仕様の天蓋つきベッドは基本であり。壁紙のピンク系統は何とでもできたが、ぬいぐるみのリクエストはかなりの苦労を強いられた。いつの時代に身につけたのか俺に裁縫スキルがあることがバレたのが運のつきであった。


 ドアをノックする音がした。そんなお上品な文化持ちはこの馬車には居なかったはずだが。ドアを開けるとアデルちゃんが立っていた。


「どうしたの?」


「イオリに大切なお話があるのです。よろしいでしょうか?」


 何かいつも以上に話し方が堅い。何かやらかしたのだろうか、神妙な顔をしている。


「いいよ」


「ごめんなさいなのです。アデルはずっとイオリに隠し事をしていたのです」


 何だ何だ?


「ま、まさか。おねしょの告白?」


「ち、違うのです! アデルはレディなのでおねしょなんてしないのです。それは三年前に卒業したのです!」


 お、おぅ。必要のない秘密を聞いてしまった。


 すーっと息を吸い込むアデルちゃん。


「じ、じつはアデルは女神さまなのです!」


「うん。知ってる」


「へっ?」


「エポナ様って隠し事できない神さまだったし。多分話し方の雰囲気変わってないと思う。それにアンクウさんがこっそりバラしていたからね」


「お、お爺ちゃんが!?」


「そうだよ。エポナ様が世界を渡ったのを心配になって、アンクウさんも世界を渡ったんだよ。俺を探す目的もあったみたいだけどエポナ様が危なっかしくて大変だったって言ってたよ。カワセさんがアンクウさんだったって教えてもらうまで知らなかったんでしょ?」


「うっ、うう。悩んで損したのです!」


 アデルちゃんは恥ずかしそうに部屋を出て行った。アンクウさんに文句を言いに行ったのだろうな。まあ、エポナ様には昔この世界に来た時、随分お世話になったから恩返ししないといけないんだけど。これまで同様アデルちゃん呼びでいいよね。


 しばらくすると再びノックをする音。開いたままのドアのところにまたアデルちゃんが立っている。


「恥ずかしすぎて、もっと大事なことを伝える前に出て行ってしまったのです」


 そう言ってベッドにちょこんと座る。


「もっと大事なこと?」


「そうなのです。【世界の意志】の拠点を発見したのです!」


「本当に! それは凄いじゃないか」


 急遽、リビングは作戦会議室へと変貌する。部屋の壁にはいつの間に作成したのか手描きの大陸地図が貼られ、精霊ちゃんたちはソファに行儀良く座ってそれを見上げている。昨日の晩飲みすぎて二日酔いなのか、アビは寝癖にシャツとパンツのみのラフ過ぎる姿で椅子に腰掛けている。俺が凝視しているとユキのボディブローが俺の脇腹にヒットする。


「ぐはっ!」


「イオリ、見過ぎだよ」


「すいませぬ……」


「静粛になのです!」


「なのー!」

 

 アデルちゃんにも注意された。その頭の上でアカリも俺にビシッと指を差している。アカリさんなんだかカッコイイです。魔王城での一件のとき、潜伏している【世界の意志】の戦闘員の存在に気づいたらしい。いわゆる光学迷彩っぽい装備を身につけていたらしいのだが、僅かな空間の揺らぎにアデルちゃんが気づいたらしい。そこからはアカリの大陸全土に広がる妖精さんネットワークが活躍。数千万はいるだろうあの妖精軍団である。全く気づかれることなく長きに渡り謎だった【世界の意志】の本拠地を特定してしまったのである。


「すごいな……」


 精霊ちゃんたちも『おー』と拍手して讃えている。


「連中の本拠地はココ! ガリバルディ火山の火口にあるのです」


 その火山は毎年噴火しており、滅多に人が近づかない場所である。火竜が住むとも言われるが冒険者ですら危険性を考えると割りに合わないと言っているらしい。たしかにその場所なら気づかれないはずである。魔王がどうやって見つけ出したのかは不明であるが、そこで戦いが行われたのは間違いない。いまだ戦闘が続いているのかどちらかが勝利したのかも分からないが、俺たちは確認せねばならない。


「えっと、そこに行くことはみんなを危険にさらすことになるのだけど。いいのかな?」


 ユキがここで口を開く。


「だってお姉ちゃんは行きたいんでしょ?」


「う、うん。そうなんだけど……」


「魔王のことも、ブーディカ、クー・フーリンのことも俺はこのままにする気はないしな。ユキだけじゃなくてみんなこの世界のために動きたいんだよ」


「そうだね。ボクは自分のことしか考えてなかった」


 俺たちはその日の内にガリバルディ火山へ向けて出発した。

 

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