第44話 銀のペンダントⅠ

✳︎先代魔王視点です。彼が【世界の意志】により討たれる少し前のお話。


「魔王様、こんにちは!」


「ほう、しっかり挨拶ができるとは。精霊王の躾が行き届いておると見える。では褒美をやろう」


 我は懐から紙に包んだ秘蔵の飴玉を取り出して少女に渡す。


「ありがとう。あとでアビゴハサ様と一緒にいただきますね」


「うむ」


「ちょっと魔王様。何カッコつけた言い方してるんですか?」


 背後から呆れ顔のアビが顔を出す。


「お、おい。アビ、せっかく俺が威厳ある魔王様というものをこの子にだな……」


「可愛い女の子だからって、こんな小さなこの前でもカッコつけるなんて。えっ、まさか精霊王様の御息女に手を出そうなんて考えて……。家出された奥様が見たら何と言われるか……。ああ、おいたわしや」


「あ、阿呆! 何を言うか! そんなことしたらあの怖え闇の精霊にボコボコにされる、いや確実に殺されるわ!」


「まっ、それもそうですよねー」


「もういい、この子と物作りに励むんだろ? ちゃんと希少な素材をお前たちのために取ってきてやったから。大変だったんだからな、感謝しろよ」


「へーい」


「お、おい!」


 アビは少女と奥に新設した工作室へと行ってしまった。


「相変わらずなのです。女好きは死ぬまで治らないようなのです」


「げっ、いつの間に! 女神エポナ、てめえ何勝手に俺の城に来てやがる。魔王の城に女神が遊びにきたらいかんだろうが!」


「そんな設定に縛られる魔王なんて仕事、労多くて功少なしなのです。でも、自分で決めたことを守るのは偉いのかもです」


「そ、そうだろ。世界の秩序のためには俺みてえな悪役が必要なんだよ」


「でもそんな仕事、なり手不足まっしぐらなのです。深刻な事情なのです」


「はあ? おめえ何も知らねえんだな。子どもたちの勇者ごっこで魔王役も大人気だって、アビが言ってたぞ!」


「いえいえ、それはアビの優しさなのです。それに気づかないとは本当に駄目な魔王なのです」


「そ、そうなのか?」


「そうなのです。でも勘違いしてはだめなのです。アビにあなたへの恋愛感情はないのです。どちらかというとお父さんって感じなのです」


「し、知ってるわ! それに俺もあいつは可愛い娘だと思ってるんだぜ」


「一応、言っておくのですけど、私にもあなたへの恋愛感情はないのです」


「えっ、ええー。そんなこと言うなよエポナちゃん」


 俺の伸ばした手はあっさりと払いのけられる。


「その呼ばれ方はキモいのです。たしかあの神父のとこの女の子に声をかけてたとかなんとか」


「ぐっ、なぜそれを……。そのあとネチネチとレンブラントに説教されたし……。エセ神父に説教される魔王ってなんなんだよ、本当に」


「私はそんなくだらない話をしに来たのではないのです。新たに活動を再開した【世界の意志】の動きがやはりおかしいのです」


「ああ、それな。俺も【世界の脅威】認定されたらしいし、勇者じゃなくて連中に俺が討伐されるのも時間の問題だな」


「それで以前から相談されていたモノが完成したのです。感謝するがいいのです」


 女神エポナが宙に手をかざすと、五本の歪な形状の剣が姿を現す。


「おおっ、いいじゃねえかまさに暗黒武器。俺の感性にぴったりだぜ!」


「あなたのではないのです。アビのために作って欲しいといったのはあなたなのです」


「そうだったな。これであいつを旅立たせれば俺も安心だ」


「本当に魔王のくせに優しすぎる男なのです。ではさっさとあなたの魂とパスをこの剣に繋ぐのです」


「あいよっ」


 用事を済ませた女神が帰ったあと、アビと嬢ちゃんが工作室から出てきた。


「見てください魔王様、お父さんとお母さんへのボクからのプレゼントが完成しました」


 それは銀色のペンダントだった。少しカタチは歪だったがこの子の心のこもったいいものだと分かる。


「おう、なかなかいい出来じゃねえか。きっとあの二人も喜ぶぜ。この魔王様が保証してやる」


「本当ですか? 嬉しいです」


「黒こそが至高! とか言ってる魔王様に言われてもねえ」


「おい、アビ。し、失礼じゃないのかそれ……」


「まっ、それを理解してあげられるのは私くらいですけどね」


 そうアビが笑って言う。


 俺はこいつを自分が死んだ後でもしっかり守ってやろうと思うのだった。

 

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