第41話 弱者と侮る事なかれ
妖精さんたちがデカラエワタを翻弄する。
いたずら好きとされる妖精。この世界においても謎の多い存在であり、妖精が自ら姿を見せようとしない限り人も、魔族であっても視認することは叶わない。幼い子どもや妖精に好まれる資質のある者は見える。なぜか俺も普通に見えるのではあるがよくは知らない。
「なあ、妖精というのは厄介な存在だろ? 一人ひとりの力はさほどでもないが、集団で行動されると一流の魔法使いでもお手上げだ。昔、ある国が妖精の怒りを買ったかただの戯れかは知らないが一夜で滅んだと聞いたことがある。そんな妖精たちがお前に腹を立てているんだってさ。覚悟するんだな」
「うふふ、うふふ、うふふ」
「あはは、あはは、あはは」
「たかが妖精を我が恐れるとでも思ったか! 焼き尽くしてくれるわ」
デカラエワタの身体から紅蓮の炎が立ち昇る。それが何本もの大蛇を形成し暴れまわる。
「うーん。そんな弱火じゃ火蜥蜴すら焼けないの。こんがり焼くなら、ボーッよ。ボッボーッ!」
「ぬわっ!」
アカリの声だった。それと同時に火炎の大蛇たちが突如出現した黒炎に飲み込まれていく。
「どうだろうか? 弱者だと蔑んだ者たちに遊ばれる気分は」
「何を! 認めぬ、認めぬぞ! 我は魔王となり世界を統べる者ぞ」
「いやいや。こんな大陸の端っこで偉そうにされてもな……。たしかにお前は強い。でもお前程度の強者ならこの世界にゴロゴロしてるんだよ。知らなかったか。そろそろいいかな。妖精さんたち、もう姿を現してもいいよ」
「……!?」
黒かった空が様々な色を帯びた光の粒で覆われた。幻想的だがあのひとつひとつの小さな光が妖精だと考えると俺でさえ恐怖を感じる。これは集まりすぎではないだろうか? 世界中の妖精がこの場所に集合しているのではなかろうか。
「がっ、あ、あっ! やめ、ヤメロ。ヤメテくれぇーーーー、ぐべっ……」
デカラエワタは天から降りてきたそのお光の渦に飲み込まれる。おおぅ、これは咀嚼音なのだろうか……。馬車の中の子どもたちには見せられないし聞かせられないな。
「イオリ殿、コレハ……」
「賢者様……」
「ああ、何と言うか。まっ、忘れてもらえるかな?」
妖精たちは事を終えると再び天へと向かい四方八方へ飛び去っていった。地面には肉片の一つも残っていない。あのロングソードだけが転がっている。配下の魔族たちの姿は当然ながらもうどこにも無かった。薄情なものだが力による支配なんてこんなものなのだろう。
「ねえねえ。がんばったでしょ、私たち?」
スーの方にちょこんと座るアカリが自慢げに言う。スーの顔が緊張しているように見えるのは気のせいではないのだろう。
「ああ、助かったよ」
「えへへ」
嬉しそうにスーとアンクウさんの上をぐるぐると飛び回ると、アカリは馬車の方へと戻っていった。
子どもたちを村に返し、俺たちは再び魔王のいる城を目指す。
「いいですか、あなたたち! 私がお母さんなのです」
「ちょっと、ちょっと。アデルちゃんはまだまだお子ちゃま。ママになるのはまだ早いのではなくて? ここは大人の女性である私がやっぱりママには相応しいのではなくて?」
「いいえ、アデルちゃんなのです! これから立派なお母さんなってみせるので問題ないのです」
「いやいや、このアビお姉様に任せなさいよ。だってほら。この母性の象徴、これをアデルちゃんに真似できて?」
アビが大きなお胸を強調する。
「むぅ!」
ソファに行儀よく座っている四人の精霊ちゃんたちは二人のやりとりを不思議そうに見上げている。
「アカリもママするのー」
火の妖精さんも加わって事態が収束しそうにないことを俺は確認すると、御者台のアンクウさんの隣へと避難する。
「随分ト賑ヤカニナッタデアルナ」
「ええ、そうですね……」
魔改造された馬車の中は空間の拡張はいくらでも可能であり、人工精霊の彼女たちにそれぞれ部屋を割り当てようとしたのだが断られた。何でも四人ともアンクウさんと一緒の部屋がいいらしい。製作者であり言ってみれば父親でもある俺としては複雑な心境である。パパでなく、じいじの方がいいだと?
シルフィとノーマの調整も問題なく終えた。度重なる消失と再生による損傷度合いは深刻なところまできていたが、『魂の核』の部分は無事であったため事なきを得た。
「スーリンディアとは仲良くなったようですね」
「ウム。彼ハ良キ戦士デアリ、リーダーデアルゾ。昔話ハ興味深イモノデアッタ。イオリ殿ハ良キ師デアッタヨウダ」
「いやいや、俺って何にもしてないんですよ。スーが良くできた弟子なだけで……。本当にブーディカに見習わせたいですよ」
「アノ女神……。マタ何処カデ姿ヲ現スノデアロウナ」
「でしょうね」
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