第40話 みんなのちから

「オラァーーーーッ!」


 サラの手にあるのは炎の魔剣。あれは冒険者時代、大陸南西部のウロボロス大迷宮で手に入れたものだったか。俺の結界は容易く粉砕される。


「さあ、凍ってしまいなさい。コキュートス!」


 ディーネの持つ錫杖も大迷宮産だ。あの二つは帝国の宝物庫の奥に隠してもらったはずだけど。本当に女神は困った人だ。俺はディーネの最上級魔法により足元から凍りついていく状態でそんなことを思う。


『でかしましたよ二人とも! トドメを刺すのです!」


 サラが魔剣を振りかぶり、俺目掛けて突っ込んでくる。


「我、汝らの創造主なり。その魂に問う我は何者ぞ!」


「へっ!?」


 俺の言葉にサラの動きが止まる。ディーネも錫杖を落とし固まる。シルフィとノーマはひたすらブツブツと呟くのを止めた。


『ど、どうしたのです、あなた達』

 

「ん? お前知らなかったのか。表層にある意識系に干渉できたとしも深層にある核に直接命令を下せるのは俺だけだ。この子たちは俺の魂を削り出して作り出した娘たちだからな」


『そ、そんなことが可能なはずがない……』

 

「そう、普通ならな。まあ、四度ほど俺の存在も世界から消えるところだったが。これも先代の女神エポナが手伝ってくれたお陰だな。なあ女神様、いや我が弟子ブーディカよ」


『ぐっ!』

 

「ああ、記憶をね取り戻したんだ。君は知っててとぼけてたようだけど。えっと、娘たちにまた変な干渉されても困るから『力』は取り上げておくか」


 ポンっと小さな音がして精霊たちが煙に包まれる。


「うっ、うっ。あれ?」


「むかつくぅ! って、何に怒ってたんだっけ?」


「ころ、ころころん?」


「あっ、みんな。パパだよ! ぱぱぁ、おひさしぶりなの」


 精霊たちは幼女化した。うん、こっちの方が可愛らしいな。

 

『き、貴様ぁ! 糞っ、覚えていろ!』

 

「やっぱり自分では俺に『手をくだせない』ようだね。自分に立てた誓いは千年以上経っても消えないんだね。もうそれはいってみれば呪いか」


 自称女神のブーディカの気配が消えた。どうやら逃げたようだ。


 これでデカラエワタの方に専念できる。スーリンディアとアンクウさんも持ち堪えているようだ。


「パパ?」


 小さくなったサラちゃんが首を傾げて俺を見上げている。


「ああ、お前たちはあの馬車の中の子どもたちと遊んでおいで。子どもの面倒を見るのは得意でしょ」


「うん! あのおチビちゃん、えーっとユキちゃんだ。ユキちゃんと同じように遊んであげればいいんだよね」


「そうだよ。みんなお願いできるかな?」


「はーい!」


 幼女化した精霊たちは元気に馬車へと走り出す。御者台のディニエルが慌てて馬車の扉を開け、アデルちゃんと二人で中へと招き入れる。


 あの四体の精霊は昔、ユキが寂しくないようにと俺が作り出した人工精霊のようなものである。自我を持たせるために俺の魂の一部を分け与えている。あの子たちは俺の分身でもあり娘でもある。簡単に言うと初期化したのであるが、古い記憶は残っているようでホッとした。


「ダーリン、子持ちだったの!?」


「いや、その……」


「ユキちゃんとの間に……」


「違う! 言ってみればあの子たちはユキのお姉さんだ」


「ということはあの女神と?」 


「それこそあり得んわ!」


「いいのよ私は。ダーリンにどんな過去があったとしても……」


 アビにいちいち説明している余裕は無い。


「もういいから、あの子たちの護衛は任せたぞ」


「ええ、もちろんよ。みんな可愛らしいし、私が新しいママになってあげるわ」


 よく分からない勘違いをしたままアビは馬車へと行ってしまった。それを見届けると俺はスーたちのもとへと向かう。


  

「グヌゥ!」


「がっ!」


 スーリンディアとアンクウさんはいいように弄ばれていた。


「ふむ。ようやく登場であるか。もうアレは良いのか?」


 アレとはブーディカのことだろうか。


「ああ、俺を待っていたということか?」


「久しぶりに強き戦士と剣を合わせられるのでな。すぐに殺してしまうのも忍びない。お前が来るまで楽しんでおったのだ。弱き賢者よ」


「ナニッ!?」


「うおっ!」


 二人が離れた場所へと転移させられたように見えた。魔法もとんでもない次元にあることが分かる。


「俺が弱者であると知ったうえで待った理由は?」


「うむ。好奇心であろうな。この千年で何者かに興味を持つなど……、ああ、魔王は別であるな。あれは別格、あれをどうにかしたいと思いはするが上手くはいかぬ。最近は美味いはずの人肉料理も味気なく感じるようになってな。あの魔王を追い詰めたのは我が知る限りお前しかおらぬ。死してなお舞い戻ってくる邪法にも興味はあるが、それはまあいい。お前を喰らってみれば分かることであろうからな」


 コイツ、俺を食うと宣言しやがった。普通に相手をしても瞬殺されるか。俺は自分の身長ほどある魔法杖を空間収納から呼び出す。


「我を相手に魔法戦か? 間合いをつめて貴様の首を刎ねるだけであるがの」


 宣言通り俺の目の前に奴は現れた。これは転移魔法だろう予備動作は見えなかった。完璧な魔法である。振り抜かれる剣。


「たわいもない。……ん!」


 うん。手応えはあったはずだ。首と胴が分たれた俺の死体を見下ろすデカラエワタは違和感に気づいたようだ。すぐに死体は土塊へと変わっていく。


「うふふ、うふふ」


「ぬおっ! 地面が」


 男の足元が急にぬかるむ。


「あはは、あはは」


 あたりに霧が立ち込め始めた。そもそも薄暗かったこともあり視界が白く染まっているはずだ。


「ふざけおって! こんなもの吹き飛ばせばよい」


 デカラエワタを中心に霧を吹き飛ばさんと竜巻が発生する。


「なんだと!?」


 竜巻はすぐに勢いを無くして消えてしまう。再び濃い霧に辺りは包まれた。


「無理だよー。風のあつかいはボクたちの方が上手だからねー」


「妖精か? 羽虫の分際で我に逆らうとは。消し飛ぶがいい!」


 怒りの形相であたりかまわず魔弾を撃ちまくる。


「うふふ、うふふ。私たちのことが見えないのね」


「あはは、あはは。そんなんじゃ当たらないよ」

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