第34話 魔改造

「アイツがモレクに化けていたなんて……」


 アビがそう呟く。俺たちが戻った部屋にはユキはもういない。アデルちゃんは部屋の隅で膝を抱えている。側にはアンクウさんが座りその頭を優しく撫でている。あの後、魔族とノーマがいた家の地下からは人骨が発見された。本物のモレクは既に殺されていたようだ。


「それでアビ、あの魔族は何者なんだ?」


「良くは知らないわ。魔王様が城から出られなくなって千年。ひとつに纏まっていた私たちも今はバラバラで好き勝手やってるの。殺しあったりして次の魔王を目指す連中も多いのよ。そんな中で現れたのがアイツ、たぶんあの娘が『黒曜姫』よ。今の魔王様の一番の配下らしいけど詳しいことは知らないの。大体、アイツが出てきたら一人残らず殺されちゃうって言うから」


「そうか女だったか……。でも、アビ。お前魔王を裏切ったことになるはずだが、それで良かったのか?」


「別に。私は自由人だからね。長い間この土地を離れて世界を旅してたの。先代の魔王様には忠誠を誓ってたけど今の魔王のことは何とも思ってないわよ。私よく知らないし」


「ああ、だからお前ほどの魔族のことを俺が覚えていない訳だ。先代のことは噂程度には知っているが人間との融和を目指していたってのは本当か?」


「そうよ。でも賛同する魔族なんてごく僅かだったわ。私もその一人だったの。先代様の命で世界をまわってその可能性を探す旅に出ていたのよ。帰ってきたら知らないヤツが黒曜の城にいるし、なんか全部嫌になっちゃってフラフラしてたの」


「そうか……」


「我ハ先代ノ魔王トハ面識ガアルゾ。強キ武人デアリ人格者デアッタ」


「えっ、死神。アンタお会いしたことがあるの? 立派な方だったでしょ!」


「アア、間違イ無イ。アレハ我ガ……」


 二人の会話が盛り上がり始めたところで俺は外に出た。


「おじさん……」


「うん?」


 アデルちゃんも出てきたようだ。


「ごめんなさいなのです。私何もできなくて、だからお姉ちゃんが……」


「アデルちゃん、大丈夫だよ。これは魔法じゃないんだけど、不思議なことにユキが無事なのを感じることができるんだ。それに攫っていった魔族によると魔王の一番の目的は俺らしい。ユキは無事なはずだ」


「ほんと?」


「ああ、大丈夫だよ。ユキは必ず救い出す」


 俺はアデルちゃんを連れて馬を預けてある厩へ行く。


「お馬さん元気にしてた?」


 彼女が手を伸ばすと頭を差げ鼻先を近づける。人懐っこいお馬さんだ。俺は脇にある荷馬車へと向かう。


「さて、作業をはじめますかね」


 記憶の図書館にアクセス。方法はと……。異空間収納の位置探索、見つけた。座標を特定、認証完了。いわゆるアイテムボックス、空間収納だ。俺の過去の収蔵品がこの中に納められている。


 オーク材に、魔鉱石、魔鉄の金属板に……、必要なものは揃ってるな。


「イオリおじさん、何してるの?」


「この荷馬車を改造しようと思ってね。俺の記憶だと魔王城までは結構過酷なんだよ。先代の魔王の時代に道は整備されていたはずなんだけど、今はどうなっているのか分からない。ちょっとでもお馬さんの負担を減らしたいし、あとアデルちゃんもおトイレやお風呂とかあったら嬉しいだろ?」


「そ、そんなことが可能なのですか? すごいのです!」


「おっ、喜んでもらえるか。なら頑張らないとね」


 これは自分の気を紛らわせるためでもあるのだが、魔法を使い作業に集中した。



「できた。完成だ」


 後ろからパチパチと拍手が起こる。いつの間にかアンクウさんとアビもやってきて俺の作業を見学していたらしい。


「ねえ、ダーリン。中に入ってもいいのかしら?」


「もちろんだとも」


「アデルが一番に入るのです。アビお姉ちゃんはそこを退くのです!」


「ウム、中ハ広イノデアルナ」


 アデルちゃんとアビが言い争っている隙を突いて、アンクウさんが扉を開けた。


「おおーっ、広いのです。不思議なのです」


「凄いわ、空間を拡張しているのね。家一軒分はあるかしら、こんな技術は見たことないわよ。ダーリンは天才ね」


 みんな喜んでくれて嬉しい。入ったところは応接間のような感じになっている。ちゃんとそれぞれの個室も用意してある。もちろんユキのための部屋もだ。


「お風呂も広いのです。これならみんなで入れるのです!」


「みんなで?」


 いやいや、女子たちみんなでということだろう。ユキもこれを見たら喜んでくれるだろうか。たしか日本のお風呂文化を褒めていた。


「トイレのこの穴の先はどこに繋がっているのかしら? ねえ?」


 それは謎空間にです。俺も実はよくわかっていませんけど。


「馬車自体ガ光ルノデアルナ。ホウ、夜デモコノ照明ガ前方ヲ照ラスノカ」


 アンクウさんが御者台に設置されているスイッチを触っている。さすが新し物好き、適応が早い。


「あと、悪路にも耐えられるよう足まわりも大幅に改善してあるんですよ」


 その他にもある機能をみんなに紹介しながら、その日は馬車の中でゆっくりと過ごした。

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