第31話 痴女アビゴハサ
アンクウさんの言っていたあれが魔剣なのだろう。五本の歪な形状の剣が空中に浮かび眼球からの光線を弾き返している。数はこちらの方が上回っているので防戦一方。しかし確実に全ての攻撃に対応している。
「凄いな……」
思わず声が出てしまった。五本の魔剣を自由自在に操る魔族の高い技量、それに感心したのではない。彼女の格好にである。
紐。あの魔族は黒い紐を着ているのか? 俺の記憶にアクセスしてみるがアニメでのものしか無く、実際に本物を見たことはない。おそらく真面目なアンクウさんはあの姿にやられてしまったに違いない。俺はひとり納得がいってしまう。
何とか平常心を保つことに専念するが、起動中の八つの目が大きく揺れる双丘に釘付けとなり攻撃の精度が鈍る。
「糞っ! これは魅了系の魔法なのか……」
「はあ!? 何言ってんのアンタ。もういいわよ! 降参、こうさんでーす。ねえ、聞こえてる? もうやめ、やめてくださーい」
魔族の女は降参のポーズなのか両手を挙げる。
俺は攻撃を中止するが、罠かもしれないと眼球たちを空中に待機させておく。もちろんあの危険なおっぱいからは目を離してはいない。いかん、こんな俺をユキたちに見せられないではないか。ユキは『仕方ないねイオリは』とか言ってくれるだろうけど、アデルちゃんの糾弾はきっと厳しいはずだ。早く仕留めねば。
「今更降参とは何だ。死んでいった子どもたちへのお前の罪は消えない。ここで自害しろ!」
「はあ!? 何言ってんのアンタ。馬鹿なの! 子どもたちって私が連れて行った子たちのことでしょ。みんな楽しく元気に暮らしてるわよ。ご飯だっていっぱい食べさせてあげてるのに」
「えっ!?」
「何よ。自分の領地の子どもたちの未来を考えることは領主の務めでしょ。人間は違うの?」
「い、いえ。仰る通りですけど……」
「まあ、魔王様にアンタを殺すように言われてるから敵なのは間違いないけどね。あと冬の精霊だっけ? そっちはここから見たところ呪われてて死にそうじゃないのよ。何やってんのよアンタ。駄目な旦那ね」
「ぐっ……」
何故だ。俺が勝負には勝ったはずなんだが、この精神的なダメージは回復できそうにない。
「でも、あの男の槍でしょ。アイツは昔の大戦で私も見たことあるから覚えてる。でもアンタは前もそうだったけど、姿が変わって一段と頼りない感じになったわね。えっと、馬鹿にしてるわけじゃないのよ。私は駄目男が好きなの、アンタの勝ちだから私のこと好きにしてもいいわよ。というか、好きにしてちょうだい」
「へっ!? い、いや。俺にはユキという可愛い奥さんがいますので、それはですね……」
「ああ、本当に。どうしてバシッと男らしく断れないのかしら。でも、そんなところが堪らなくいいわ」
変態だ。変態さんに絡まれてしまった。
「あ、あの。子どもたちはどこに?」
「私の居城にいるわよ。さあ行きましょ!」
俺は変態魔族女子に腕を絡まれ半ば強制的に連行されるカタチとなってしまった。
「アビ、ご苦労」
「はぁい、ダーリン」
「あの、その呼び方は誤解を招くんだけどさぁ」
「はい、だーりんっ!」
「ううっ」
変態魔族の名前はアビゴハサという。言い辛いのでアビと呼ぶことにした。俺の目の前には拘束されたノーマとモレクが転がっている。
「ごめんなさい。助けてください」
「オラが悪かっただぁ」
「はぁ? 聞こえないわねぇ、何だってぇ?」
怖いんだけどこの人。容赦なくモレクの頭をヒールのかかとで踏みつけている。心なしかモレクの顔が嬉しそうなのは気のせいだろうか。
子どもたちは総勢25人。みんなアビが城内に作った遊園地のような巨大な子ども部屋で楽しそうに遊んでいた。彼女は無類の子ども好きで扱いも上手いことは見てすぐに理解できた。さすがに数ヶ月も親元を離れるのはどうかと思ったが、村には無い子どもの喜ぶ最高の料理やお菓子、そして遊具でうまく手懐けていた。期間を空けて連れてくる新しい友だちも気持ちをこの場に繋ぎ止めるイベントのようなものだった。夜は魔法で寝かしつける。彼女は変態だが最強の保母さんのようなものであった。
「さあ、みんなぁ。お家に帰るわよぉ」
「えーっ!」
子どもたちはまだまだこの空間で遊んでいたいようであった。
「大丈夫よ、いつでもここに遊びに来ていいんだからねぇ」
「ほんと!」
「やったぁ」
「アビお姉ちゃん、大好き!」
うん。間違いなく人気者である。魔族にしておくには惜しい人材だ。
「だーりん、ユキちゃんを救う方法は分かってるんでしょ?」
「ああ、まあね」
「ふーん。駄目男に見えて実はやる時はやる男……。ああ、ステキっ!」
いかん、変態さんの高感度がなぜか爆上がりしているんだけど……。あのスケルトン兵たちはアビによってあっという間に再生させられた。さすが魔族といったところか、魔力量の底が見えない。コイツが本気を出せば物量押しで俺を倒せるんじゃ無いかとさえ思える。だが何を考えているのか正直分からない。
目の前で骸骨兵たちが子どもたちと仲良く手を繋いで俺の目の前を行進している。もちろんあのロクでもない二人は鎖でぐるぐる巻きにされて運ばれている。アビは俺の腕にその豊かな胸を押しつけて離れてくれない。ううっ、どう説明すればいいんだろこの状況。村へ向けての道中俺はおっぱいの柔らかさに耐えながら、悩み続けるのだった。
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