第26話 土の精霊、水の精霊そして……
「えっと、いつまで隠れているのかなノーマさん。そして一緒にいるのは彼氏さんだろうか?」
「ひゃっ!」
「はひぃ!」
アンクウさんが切り裂いた岩の後ろには、土の精霊と麦わら帽子の純朴そうな青年がいた。
「殺スカ? 賢者殿」
「駄目だよ、アンクウさん! もうこれ以上ボクは……」
火の精霊が消滅したのを見て座り込んでしまっていたユキが叫ぶ。
「然シ、此奴ラガ敵デアルコトハ明白デアルゾ」
「お爺ちゃん、アデルからもお願いするのです。ユキお姉ちゃんの言うことを聞いてあげて」
駆け寄ってきたアデルちゃんがアンクウさんの脚に抱きつく。
「ウ、ウム……。賢者殿……」
「まずは話を聞いてみましょう。見たところ敵意はなさそうです」
腰を抜かしていた二人は、俺の言葉に恐る恐る立ち上がる。
「て、敵意なんてこれっぽっちもありません」
「オラもノーマについてきただけさぁ。いい働き口があるって聞いてよぉ」
「冬ちゃん、ちがう。えっとユキちゃん、私がシルフィ姉様やサラ姉様のような野蛮な精霊とは違うってこと知ってるでしょ。この人たちに説明してよ!」
「う、うん。ノーマお姉ちゃんは四姉妹の末っ子で、昔ボクと一番良く遊んでくれたんだ」
「……昔? いえ、ええ。そうよ、良く遊んだわよね。昔は良かった」
「ユキがそう言うなら。でもノーマ、君はどうして俺たちを見張っていたんだい?」
「そ、それはその……。そう、あなたたちに知らせるためよ! 長女のディーネお姉様がお母様を裏切ったの。あの人は魔王側についたわ」
「えっ、そんな……。ノーマお姉ちゃん、それは本当?」
「ええ、姉様が連れてきた男が魔族だったのよ。私たちも殺されそうになって逃げてきたの。シルフィ姉様とサラ姉様にまず伝えるつもりだったのだけど、もう二人とも……」
「ソノヨウナ事態ニナッテ何故、女神デハ無クアノ精霊タチヲ頼ル? ソレニ、アノ火ノ精霊ガ我ラニ勝ッテオレバ貴様ニトッテハ問題無カッタハズ。ソモソモ我ラニソレヲ伝エル気ナド無カッタノデハナイカ」
「えっと、えっと。私あんまり頭よくないから上手くいえないけど。実はお母様のこともちょっと苦手なの……。それに私も彼も弱いし、誰かを頼らなきゃって必死だったのよ!」
そう言ってノーマはしゃがみ込んでシクシクと泣き始めた。オロオロするばかりの麦わらの男。
「お爺ちゃん、弱い者イジメはダメなのです!」
「アア、コレハスマヌ……」
「アンクウさん、問題ないですよ。じゃあノーマ、俺たちに君の知っていることを全て教えてくれるかな?」
俺の一言でピタリと泣き止む土の精霊。麦わらもほっとした顔をしている。
「いいの? 私たち死ななくてもいいの?」
「ああ、そうだよ。安心していいから」
それから俺たちはノーマの話を聞くことにした。
夕方になり俺たちは野営の支度を始める。まだ意識を取り戻さないオゴールはテントに寝かしてある。
「おじさん、雨が降ってきたのです」
気づくと小雨が降り始めていた。
「こ、これはディーネお姉様の魔法だわ! みなさん気をつけてください」
ノーマの言う通り雨にしては何かおかしい。霧も発生し、辺りの視界がはっきりしなくなった。聞いていたより早く追いつかれてしまったようだ。
「イオリ、気をつけて! 敵は複数、数までは把握できない。アンクウさんはアデルちゃんをお願い! ノーマお姉ちゃん、あれ、どこ?」
ユキの言う通りノーマと麦わら帽子の男の気配が消えた。攫われたのか?
「あらあら、みなさんお揃いで楽しそうなこと。冬の妖精、あなたノーマと何を話していたのかしら? まあ、どうせ死ぬ運命ですし、さほど興味もないですけどね」
霧に混じった小雨の中にドレス姿の女性が浮かび上がる。
「ディーネお姉様……」
「どうやってサラとシルフィを倒したんでしょう。そこの死神の鎌は精霊である私たちには通じませんし、そこのくたびれた男? まさかね」
「イオリ!」
霧の中から飛来する無数の矢。アンクウさんが大鎌で切り伏せる。残りは俺の風魔法で方向を逸らした。四方からの攻撃、俺たちは囲まれたようだ。それにこの雨と霧は……。
「ボクの『停滞の力』が弱められてる。お姉様の水魔法だ」
「ほう、冬の。お前にも分かるのですか」
そう言うとウンディの姿が霧の中に消えた。この霧も雨も魔法で生成されたもの。索敵魔法が阻害されて敵の正確な位置が分からない。それにユキの停滞の効果が弱められているのは先ほどの矢の勢いでさほどではなさそうだ。だとすれば遠距離主体で狙ってくるのだろうか。
音が消えた。これまでしていたサーッと言う微かな雨音が消えた。皆気づいたようで警戒度を上げる。
ヒュンという風を切る音。
「あれは、槍か!?」
ユキに向かって一直線に高速で地を這うように飛んでくる。
「きゃっ!」
俺は動けないで固まっていた彼女を突き飛ばす。通り過ぎたはずの槍は上昇し軌道を再びこちらへ向ける。
『炸裂せよ!』
この声は!
槍が輝き光の球になったかと思った瞬間、複数の細い光線となりユキに襲い掛かる。
「させるか! 神技【フェイルノート改】」
俺の放った魔法の矢が複数に分かれて全て迎撃した。光は再び集まり離れた場所に立つ男の手に収まった。
「なんで……、君がいるんだ。セタンタ……、いや、大英雄クー・フーリン」
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