第7話 「屋上の女の子」
「隼くん、こんな話知ってる?」
急に話し掛けて来たのは、同じクラスのはなちゃん。僕が見上げると、「――屋上にね、女の子がいるって話」と神妙な顔付きになって話して来た。
僕が困っていることに気付いたのか、はなちゃんはちょっと首を傾げて健太を見た。
――健太は、相変わらず僕と一緒にいて、『学校の怪談』をちょっと小馬鹿にしながら楽しんでるみたい。僕は真剣にさきちゃんの行方を捜してるのに、和文はそんな目的も忘れちゃったみたいで。
「屋上?」
僕が訊き返すと、はなちゃんは頷いた。そんで、
「うん。屋上ってさ、誰も入れないんだよね?」
って逆に訊き返して来たんだ。
「確か――」
――屋上は昔解放されてたんだけど、ある日クラブだか何だかで遊んでいた女の子が転落して死んじゃったとかで、立ち入り禁止になっちゃったって聞いたことがある。随分昔の話だけど、勝手に屋上には行けなくなっちゃったし、いつも鍵がかかってるって聞いたけど、誰も確かめた人はいない。
そうはなちゃんに言うと、はなちゃんは頷いた。
「でね、その屋上に、女の子がいるって噂があるんだって」
って僕に言うんだ。僕が見上げると、「ウソじゃないよ。学童で学校にいる子達がね、みんな見たって言ってるもん」って力を込めて言ってきた。
――学童って、具体的に持ち出して来たけど、本当に見たのかな?
「ほんとに見たの?」
健太が訊く。とっても胡散臭い目付きで。
はなちゃんは思いっ切り――首が折れちゃうんじゃないかと思うくらい――頷いて、そんで、
「さきちゃんに似てるってみんなが言ってたよ」
なんて言うんだ。「校舎って高いから、見間違えちゃったのかも知んないんだけど、でもみんなさきちゃんじゃないかって」
――さきちゃんが校舎にいるはずがない。だって、僕が最後にさきちゃんを見たんだ。僕が、さきちゃんと学校の前でバイバイしたんだ。だから、さきちゃんのはずがない。
――結局、また健太に押し切られて、夜の校舎を探検することになっちゃった。
健太は両親が仕事で忙しくて、いつも家には1人でいるって言ってた。帰ってくるのも遅いから、お外に出ても怒られないんだって。
だから、こんな話があったら率先して僕を巻き込んで、何故か意気揚々と学校まで行くのに、そこから先が進まなかったりする。
何だかよく分かんない奴だ。
――非常灯がチカチカしてる。
何だかこの間と同じ。先生は気にならないのかなって思うけど、気になんないんだろうな。
夜の学校って結構恐いんだけど、非常灯があるだけで少し落ち着くのにな。
――なんて思ってたら、健太が屋上に向かった。
階段を慎重に上って、そんで屋上へ続くドアに手をかけて、ごくり、って唾を飲み込む。
緊張してるのが分かるけど、僕らまで巻き込まなくたって――。
「――」
声をかけようとして、健太が僕を横目で見たことに気付く。「どうかしたの?」って小さな声で訊いたら、
「鍵――、開いてる」
なんて言ったんだ。
確かに、鍵は掛ってなかったらしくって、簡単にドアが開いた。
――突風。
ドアが勢い良く開いた。
僕と健太――とはなちゃん――が目を閉じてまた開いたら、そこには女の子が立っていた。
「誰――?」
って声をかけたら、その子はニッコリ笑って首を振ったんだ。そんで、僕らに帰るようにって階段を示して、再びドアを閉めた。
静寂が戻って――。
僕らは大きな音を聞いて駆けつけて来た先生に見付かった。
「またお前らか」
って先生は言ったけど、僕らは屋上にいた女の子の話は出来なかった。
何も見てないだろうねって聞かれて、ただ頷くだけだった。
後日、その屋上にいた女の子の正体を知った。
――その子は、屋上から落ちたんじゃないんだって、先生が重い声で話してくれた。
「あの子は自殺したんだよ。屋上には金網があって、そんなに簡単に事故なんて起こらないんだ。だから、部活動なんかでどうしても必要な時は使えるようになってるんだけど、本当は立ち入り禁止なんだよ」
って。僕らが先生を見ると、「彼女は部活動の最中にその金網に上ってね、そこから飛び降りたんだ。事故死ってことになってるけど、本当は自殺なんだ。遺書もあったから間違いはないよ。でも――」って。
――まだ、迷ってるんだな。
そう先生は言って、ちょっと淋しそうに笑った。
「その子な、先生が担任をしてたんだ」
って、そう言って――。
その先生も、ある日突然姿を消した。
僕らは知ってる、先生は罪に耐えかねて屋上から飛び降りた女の子の後を追ったんだって。
女の子が死んだ1ヶ月後に、同じように屋上から飛び降りて死んだ先生がいるって聞いてた。
その先生は、きっと今でもその子の魂を見守るために学校にいるんだなって思った。僕らみたいな物好きに、その子のことを話すために存在してるんだなって。
そして、いつかその子の魂が天に昇ったその時に、彼も解放されるんだろう――って、そう思った。
そう思ったら、何だか泣けてきちゃって――。
泣いてる僕を、お母さんは何も言わずに抱き締めてくれたんだ。
お母さんも、その子のこと知ってたのかな――?
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