第4話 「テケテケ」


 

  「隼くん、さきちゃん捜してるって本当?」

  隣りの席の、のりちゃんが話しかけてきた。頷くと、「あのね、さきちゃんに『学校の怪談』の話聞いたことあるんだ」って言ってきた。

  僕が訊きかえそうとしたら、のりちゃんはちょっと笑って、後で話してあげるって言ったよ。

  授業始まっちゃうから、それも仕方がないんだけどね。


  ――結局、ゆいちゃんは異常犯罪者っていうの? に殺されたんじゃないかって話で落ち着いたらしいんだ。

  詳しい話は分からないけど、警察が来てそんな話になったって言ってた。先生は

  「学校で怪談話なんかするんじゃない」

って言ってたんだけど、でもさきちゃんがいなくなっちゃったのが心配だし、僕だって怪談のこと知ってみたい。


  お母さんは「馬鹿なことしてないで、勉強もしなくちゃだめ」って言ったけど、それよりも何だかワクワクするんだ。

  だから、このさきちゃん捜しは1人になってもやろうと思った。絶対に見付け出したいんだもん。


  休み時間になって、のりちゃんが椅子からはみ出るようにして僕の方を向いた。

  「隼くん、テケテケって知ってる?」

って訊いてきたから首を振ったよ。のりちゃんは少し笑った後、「あのね、テケテケってね、下半身がない子なんだって」って言った。

  「下半身がないの?」

って訊き返したら、真面目な顔で頷いたよ。「どうして?」

  「あのね、北海道で知られてるんだって」

  のりちゃんが声を潜めて言う。「――ある寒い日に、踏切を渡ろうとしていた女の子が、急いでたのか電車が来たのに踏切の――、棒だっけ?――を乗り越えたんだか潜り抜けたんだって。その時に、運悪く電車が来ちゃって――」

  のりちゃんは、一度そこで区切った。

  僕ら――僕と友達――が真剣に聞いているのを見て、

  「その子が撥ねられちゃったんだって。――うぅん、転んで上半身が線路から出ちゃって、下半身が線路に取り残されちゃったんだったかな? そんでね、上半身――この部分から上だけ残して、すっぱり切れちゃったんだって」

とお腹の上の部分を示して話す。僕らが声も出ないのを見てちょっと眉を顰めると、「寒いって、水がすぐに凍っちゃうくらいの寒さだったから、、切られた部分が凍って血管も凍っちゃったんだって。だから、その子は即死できなくてずっと苦しんでたんだって。そのあと、その子が発見された時の死因がね、「凍死」だったんだって」と一気に話す。

  「いたそー」

  「凍死って、そんなんありかよ」

って、友達が口々に話す。

  のりちゃんは少し笑うと、

  「そのあと、その踏切を通ったら、上半身だけの女の子がいてね、追い掛けられちゃうんだって話が広まったんだって」

って言った。僕らが驚いてるのを見て満足したのか、「――その話が嘘だって思った人が、試しに夜――その子が撥ねられた時間に踏切に行ったんだって。そしたら――」って一旦区切った。


  「電車が通った後に、下半身がない女の子がいてね、その子と目があった時に追い掛けられたんだって。怖くて逃げたんだけど、ものすごいスピードで、こうやって手で地面をかき分けて進んでくるんだって。だから、その人も怖くて怖くて、電柱に登ったんだけど降りられなくなっちゃって、見付かった時には凍死してたんだって、電柱の上で」

  早口で一気にのりちゃんは話して、それから「その人が最後に『追い掛けられる、助けて』って携帯にメール残してたから、みんな不思議がってたんだって言ってた。何に追い掛けられたんだろうって」と再び眉を顰めたんだ。

  「どういうこと?」

って訊いたら、のりちゃんは少し首を傾げた。そして、

  「それから3日ぐらいたったある日、その話を聞いた人が同じように上半身しかない女の子に追い掛けられたんだって。その人の家は近かったから、逃げ込んで助かったんだけど怖かったって言ってたんだって。両手で普通の大人と同じくらいの速さで追い掛けてくるから『テケテケ』っていう名前が付いたらしいんだけど」

とにんまり笑った。僕らがぞーっとしてると、「この話を聞いた後、3日くらいで『テケテケ』が現れるんだって。あたしは『テケテケ』が逃げるって言う言葉を教えてもらったから、何も来なかったけど」って自慢げに言ったよ。


  「追い掛けられるの?」

  「そうなんだって」

  「逃げられないの?」

  「嫌がる言葉があるって言ってたけど、教えてあげない」

  尋ねる僕らに、のりちゃんはそんなことを言う。「ママに訊いてみたら?」って酷いことを言った。

  「ひでー、そんなんありかよ」

って叫んでる友達を尻目に、のりちゃんは僕を見た。そんで、

  「隼くんはどう思う? 怪談って言うくらいだから、本当にあった話だと思う?」

って訊いてきたんだ。


  僕は答えられなくて、のりちゃんから顔を逸らしちゃった。

  その日はそれで話が終わったんだけど、のりちゃんは何とも言えない顔をして、家に帰って行った。


  翌朝――、のりちゃんが死体で発見されたって話を先生から聞いたよ。

  のりちゃんは、家の自分の部屋で凍死してたんだって。何か怖いものを見たような、そんな驚いたような顔をして、凍ってたんだって。

  みんなは『テケテケ』にやられたんだって言ってたけど、僕は信じられなかった。

  だって、そんなの都市伝説だってお母さんが言ったもの。

  お母さんは、『学校の怪談』に詳しかったんだ。『テケテケ』のことも調べたって言ってた。

  「そのくらいの交通事故の記事も調べたんだけど、そんな事故に遭った子もいなかったし、都市伝説で話されてるだけなんだよ。だから、怖がることなんてないんだよ。怖いって思ってるから、誰かが追い掛けてくるって錯覚しちゃうんだ。母さんは『テケテケ』の話をもう何年も前に聞いたけど、こうして生きてるでしょ? ね、変だと思わない?」

って。


  もしかしたら、のりちゃんも誰かに殺されたんじゃないか――って。

  ゆいちゃんも、のりちゃんも、『学校の怪談』にかこつけて殺されたんじゃないかって、お母さんは言ってた。

  もし、そうだったとしたら誰がそんなことしたんだろう? 僕らが話してること、知ってる人かな? 

  そうだとしたら、学校でもうこんな話はできないよね……。

  でも、さきちゃんを捜したいから、話は聞いていくつもりだけどね。

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