善良なる隣人たちの素顔

冬木雪男

善良なる隣人たちの素顔

 テーブルの上にはお菓子の袋が散乱している。家主は不在。

「にんげんさんのいけずー」

 いたのは指の一関節ほどの小人たち。頭にはカラフルなとんがり帽子を乗せてそろいの洋服を着込んでいる。

 最近、彼女ができた家主は小人さんたちそっちのけ。

「でーとって、すこしはぼくらもかまえー!」

 ぽーんと机の上にあったマシュマロがつまようじビリヤードで飛んで行く。

 得点者は自慢げに仁王立ち。

 人間さんが用意したお菓子はこれで最後だ。

 遊んでしまった彼らは体を震わして叫ぶ。

「がまんなりましぇん!」


 雲が月を隠したタイミングでベッドへと侵入し、こそこそと内緒のお仕事を始める。

(やりぇ!!)

 紙の切れ端を持つと人間さんの指を取り囲んではかりごと

 端が当てられ、皮膚に切れ目が入り、絶妙な紙さばきでささくれだった部分を切り出していく。

 人間さんが寝返りを打った。

 無意識の抵抗との攻防が続く。

 奪われまいと紐を引っ張りホールド、勝機を確信した小人さんたちはもう止まらない。

(かぷっといっちゃうのだ)

 並んだ小人さんたちが目とよだれをきらーんと輝かせる。

 彼らはささくれを立ち上げると湿らせる。

(さいこうでちよ!)

(んまあ、じゅるる)

(おい、きをつけろ、ショウコはインメツ!)

 ぴっ、と小人さんたちは並んで敬礼をする。

 隊長小人さんは確認するとうなずいた。

 思わずげっぷをしてしまうくらいには罪の味を堪能したのだった。


「痛っ」

 早朝からお仕事のある人間さんに不運が襲いかかる。

「にんげんさん、かわいそー」

「ひどいの」

 指に集まった小人さんはうるうるとおめめを濡らして「だいじょばない?」と鼻を鳴らす。

 強がりを見透かしたように、傷薬を運んで患部にばんそうこうを貼ると、一安心。

 かいがいしい手当てに人間さんはでれでれとお礼を言った。


 隠れて心を一つにしていた小人さんたちはその表情をも揃えてみせた。

 したり顔の彼らは、

計画通りけーかくどーり

 と、ほざきながら、ちやほやする手を甘受していた。

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善良なる隣人たちの素顔 冬木雪男 @mofu-huwa

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