第5話 精霊
あれから10年が経った。
5年程前から村ができ始め、今では城壁もでき、立派な街と言える規模だ。
比例して冒険者ギルド、商業ギルド、騎士団も大きくなったようだ。
ダンジョンの方も、かなり成長して入口から半径1キロの距離なら外の様子を見れるようになった。
体の方は、人化には至っていないが、思念体のような幽霊のような、触れることはできないけど、前世の姿、形はしっかりと再現した。
今のレベルは2737。冒険者がいる限り増え続けている。
どこまで上がるか楽しみだが、レベルが存在する意味がないように思えてきた。
ランクはAまで上がり、称号に魔の森の支配者がついた。
魔の森の全土を把握しているため、造ろうと思えば、魔の森なら何ヵ所でも、どこでもダンジョンの入口は作れる。
今のところ入口は最初の頃のままだ。
しかし、入口こそ浅層部だが、ダンジョン本体は魔の森の中央の深層部にあり、以前の3キロ地点から空間魔法でダンジョン本体に跳ぶようにしてある。
ちょうどブルースライムがいた所からだ。
そういえばブルースライムはというと、冒険者のマスコットとなっている。
ちょっとした美談になるが、冒険者が重症を負い、倒れていたところを見つけ、思念のようなものを伝えてきたのだ。
他の人にはわからないが、俺はダンジョンマスターのため、なんとなく伝えたいことがわかるのだ。
内容は、ミスリルをくれ!というものだった。
なんのこっちゃと思いながらも、アイテム倉庫からミスリルを与えると、なんと!セイクリッドスライムという聖属性を持った新種のスライムに進化したのだ。
色もブルーから白銀になり神々しさすらある。
それにより回復魔法というか、体内に取り込んで回復させ助けたようだった。
まさか人を取り込んで人化するのかと思いきや、さすがにそんなことなかった。
それ以来、変異種のセイクリッドスライムに食べ物と小瓶を渡すと、小瓶にポーションを入れてくれるようになった。
冒険者ギルドでも討伐しないように推奨されており、もしセイクリッドスライムの魔石が持ち込まれたら、その冒険者の買取や取引を禁止という処置が取られ、他の冒険者からの目もあることから、肩身の狭い思いをするだろう。
相変わらずポヨンポヨン跳ねており、セイクリッドスライムの周りだけは今日も平和なのだ。
話を戻すが、この深層の地下奥深くに魔力層というものがあるらしく、膨大な魔力が発生している。
そのせいでダンジョン外の魔物もSランク級に強い。
そしてその魔力層は俺の魔力にも少し関係してくる。
もし入口を深層に作ったとしたら誰もこれないだろう。
だから入口だけは浅層に残したのだ。
Sランクと言えば最近、守護者の翼を見なくなったと思っていたら、引退して後進の育成をしているようだ。
問題なのは街の名前だ。
今まではダンジョン村やダンジョン支部と呼ばれていて一切「メイグウ」という名前が出ないのだ!
しかし、冒険者ギルドも王国もダンジョンにかかげられている模様みたいなのが、ダンジョンの名前なのだと必死に解読しようとしていた。
ダンジョンによって多大な恩恵を受けていることにみんな感謝しているため、誤った名前を付けるわけにはいかないのだ。
真人のダンジョンの名前が呼ばれるのはまだまだ先だ。
ある日、真人はいつものようにゴロゴロしていた。
しかし
「なんだ?何かダンジョンに入ってきた?」
魔力の塊のようなものがダンジョンに入ってきたらしく、すぐに迷宮掌握で内部を確認した。
すると
『ダンジョンマスター様!いらっしゃいますか!?』
女性の声が念話で聞こえてきた。
だいぶ焦っているようだ。
「これは念話?」
入口付近には、50センチ程の光る球が浮いて右往左往しており、念話を使っていることから、なんらかの生物のようだ。
『ダンジョンマスター様!お願いします!助けて下さい!』
さて、どうしたものか・・・。
悩んだ末に助けることにした。
悪意を感じなかったのと、以前からその存在を感じとっていたからだ。
そこで空間魔法でその存在を、自分の空間に呼び込んだ。
「えっ!?こ、ここは?」
光る球は不思議そうな声をあげた。
「すまんな。人目のつくところには出ないようにしてるんだ」
その光る球は、声を発した真人の方を向き、ハッとなり床に落ちた。
「お初にお目にかかります。ダンジョンマスター様。私は精霊湖を管理している、水の精霊ウンディーネと申します。お会いできて恐悦至極に存じます」
「やっぱり精霊というものか。とりあえずその光ってる状態をどうにかできないか?」
「も、申し訳ありません。すぐに解除いたします」
そこで、スーっと光りがおさまっていき、青髪の2対の羽根をした精霊が姿を現した。土下座で。
どうやら床に落ちたと思っていたのは、土下座している状態だったらしい。
「ん?どうして土下座なんかしてるんだ?精霊というのは上位の存在なんじゃないのか?」
そう言いながら真人はタメ口である。
「確かに私は上位の存在ではありますが、ダンジョンマスター様は神に等しい存在であるとお見受けします。それにこちらはお願いする立場でもありますので」
「か、神?そんなことより頭をあげてくれ。それで願いとは?」
「ありがとうございます」
そこで初めて顔を見せた精霊は、身長50センチ程度のなんともかわいらしい女の子だった。
「話は長くなるのですが・・・」
「大丈夫だ。ここは俺が空間魔法で作った所だ。時間停止はできないが、ある程度なら制御できる」
「く、空間魔法・・・。まさかニュクスリム以外にも使える方がいるなんて・・・」
ウンディーネはブツブツ言いながら、何故かキラキラした目でこちらを見てきた。
「そ、それで?」
真人が声をかけると、ウンディーネはハッとなり話しをし始めた。
「ダンジョンマスター様は精霊湖の役割をご存じでしょうか?」
「いや、わからないな」
「では、魔力層があるのはご存じでしょうか?」
「ああ。それは知っているぞ。触れたこともあるしな」
「えっ?触れた?魔力層に介入したことがあるのですか?」
今度は驚愕で目を見開きながら見てきた。
表情がコロコロ変わって面白い。
「ああ。どうやら俺の魔力の根源はそこらしいからな。最初のうちは制御するのに苦労したよ」
「そ、そうですか。えっ!?魔力層を制御した?やはりあの時から?」
ウンディーネはブツブツつぶやきながら考え込み始めた。
真人がゴホンッと咳払いすると、ハッと我に返ったようだ。
「申し訳ありません。それでですね。精霊湖の役割というのが、魔の森の魔力を少しでも抑えることなんです。その魔力層から溢れ出る膨大な魔力のせいで、毎日のようにダンジョンが発生しようとするのです。まぁ、入口が出来ても魔力が多過ぎてすぐ崩壊するのですが、それで今度は、その魔力で地上の魔物が手に負えない強さになっていくのです。そこで私、水の精霊ウンディーネが精霊湖の水を作り、土の精霊ノームルターが魔の森全域の地中に水道を作り、風の精霊エアリアルが地上の魔力を飛ばし、火の精霊サラマンダーが湖が凍結しないようにと、はるか昔から維持してきたのです。もちろん各上位精霊には中位、下位精霊が200個体ずつ手伝ってもらっておりますが・・・」
「話の途中で悪いが一つ質問だ。このダンジョンが出来た時、魔力を抑えようとしなかったのは何故だ?」
「私たち上位精霊はある程度、善悪が見抜けるのです。このダンジョンは当初から悪意が全くありませんでしたので、私たちは見守ることにしました。しばらくすると人が集まり始め、人間たちも笑顔で、街にも活気があり、日々大きくなりつつありますから、この判断は正解だったと思っております。それにこのダンジョンにも精霊に近い存在がいるようですし」
「なるほど。理解した。精霊に近い存在・・・?あのスライムのことか?今はいいか。話を続けてくれ」
「はい。それで10数年前から魔力が溢れ出ることも、ダンジョンが発生することもなくなったため、私たちは役割を忘れ、穏やかに過ごしていました。今思えば、ダンジョンマスター様が魔力を制御なさってくださったわけですね。私たちも心に余裕ができ、木や植物に水を与え、心地よい風を吹かし、良質な土を作り、落ち葉を燃やし肥料として与えておりましたところ、高品質な薬草や美味しそうな果物が取れるようになり、私たちは味を感じないですが、たくさんの冒険者たちがそれを求めて訪れるようになりました。冒険者たちも高ランクだったのか、全部を採取したりしないので、とてもいい方たちだったと思います。それでも私たちは人の前に姿を見せることのないようにしていました。しかし、ある時下位精霊が見つかってしまったのです」
「ん?それだけじゃ問題にならなそうだが?」
「はい。おっしゃる通りです。セリア王国であれば私たちも安心したでしょう。ですが、見つかってしまったのがイルムド帝国側なのです」
「イルムド帝国か。悪い噂しか聞かない国だな」
「精霊湖は魔の森、セリア王国、ローラ聖教国、イルムド帝国に囲まれています。セリア王国側はダンジョンの入口が近く、魔力が流れ込んでくるので私たちも居心地がよく、素材もよく育ちます。ローラ聖教国には森はありませんが、白い砂浜が広がり、どちらかというと観光名所となっています。対してイルムド帝国側は森はありますが、資源が全く存在しないので人が訪れることもありません。人目につかないようにと下位精霊たちはそちらで遊んでいたところ、セリア王国の噂を聞き付けてやってきたイルムド帝国の軍人に運悪く見つかってしまったのです。その時はすぐに逃げ出して捕まることはありませんでした。ところが後日、イルムド帝国は軍隊を引き連れてやってきたのです。私たちをおびき出そうと、森の木は切り倒され、植物は焼かれ、湖は汚されてしまいました。しばらくして見つからなかったのか戻って行きましたが、どうやら近くに拠点を作ったようなのです。このままでは私たちの居場所がなくなってしまいます!ダンジョンマスター様!お願いします!助けて下さい!」
ウンディーネは涙を流し、土下座しながら懇願してきた。
「ウンディーネ。頭を上げてくれ。セリア王国の冒険者たちはいい人だったか?」
「はい。一度だけ精霊と相性がよい魔術師の方に気付かれたことがありましたが、笑顔で手を振って下さいました。確かジョイナという女性の方です」
「ああ。あの子か。それはよかったな。それでイルムド帝国の人は?」
「・・・。あの人たちはとても同じ人間と思えませんでした。自然を破壊することを何も思わず、私たちも捕まれば物のように扱われると思います。それほど悪意に満ちた心でした・・・」
「そうか。それで俺は何をすればいい?帝国の撃退か?しかし、俺はダンジョンから出れないぞ?」
「いえ。ダンジョンマスター様に私たちを保護していただきたいのです。なんでもしますので、どうかよろしくお願いします」
「そうか。なんでもか・・・」
俺はニヤッとしながら言った。あることを思いついたからだ。
「あのっ・・・。そのっ・・・。なんでもと言いましたが・・・。私のできることでお願いしましゅ」
ウンディーネは何か勘違いしてるのか、ゴニョゴニョ言いながらモジモジし始めた。
そこで何も言わず指で頭を撫でると、顔を真っ赤にしながら頭を伏せた。
冗談だ。と言うと、バッと顔をあげてプクッと頬をふくらませた。
からかいがいがある可愛いヤツだ。
「それで、保護するのはいいとして」
「えっ?そんな簡単に決めていいのですか?」
「ああ。いいぞ。精霊湖に来ていた冒険者はダンジョンも来ているはずだからな。俺も関係しているだろう」
「ありがとうございますっ。ありがとうございますっ」
ウンディーネは深々と頭を下げた。今度は土下座じゃなかった。
「だが、帝国には手を打っておくべきだろう。さすがにセリア王国に手を出せば国際問題に発展するからないと思うが、トラブルが起きる前に何とかしよう。さて。どうしたものか」
考えようと顎に手をやると、そのまま顔を突き抜けてしまった。
ウンディーネはそれをみてビクッとなっていた。
いや、椅子とかには座ることは出来るんだけどな。
ちょっと油断するとこうなるのだ。
決してわざとではない。
そうして、考え込んでいると、急に床が輝き始めた。
「なっ、なんだ!?」
そこから出てきたのはなんと、冒険者のマスコット、セイクリッドスライムだった。
「なんでお前がここに来れる!?」
真人は驚きながら問いかけた。すると
『マスターの気配をたどってきた。転移魔法陣を取り込んで空間魔法を覚えたから』
「これは念話!?前は使えなかったのに念話も覚えたのか?」
『私の半分はマスターの魔力で出来てる』
とどこかの薬のキャッチフレーズのように言い始めた。
たしかにその薬が欲しいような状況だ。
もう半分はなんだ?優しさか?と思いながらも・・・。
もう半分は当然魔石なのだが。
「それで、何の用だ?」
『私が精霊と一緒に行く』
「なにっ!?それは、確かに制限を解除すれば外には出れるだろうが・・・。ダンジョン外でやられれば復活できないぞ?」
『大丈夫。私は強いから。それにいつもの所に分身体を残してある』
そこで俺は鑑定を使った。
セイクリッドスライム(???) LV588
HP――― MP―――
称号 Sランクモンスター、ダンジョンマスターの配下
スキル 空間収納、念話、分身
固有スキル 聖魔法、空間魔法
「強いな!おいっ!まさかと思うが、ダンジョンでモンスターを倒してレベル上げたりしてないよな?」
『・・・・・』
「ま、まぁいいか。それでレベル上げしてるのはお前だけか?」
『私だけ。それは間違いない』
「そうか。ほどほどにな」
そんなやりとりをしていたところで、ウンディーネが一言もしゃべっていないことに気付き、ウンディーネを見ると、セイクリッドスライムを見ながらブツブツつぶやいていた。
「ウンディーネ。どうかしたか?」
「えっと。そちらが精霊に近い存在ですね。正確には半精霊ってとこですね」
「やっぱりか。だから種族が出てないんだろ?ところで半精霊というのは?」
「私たち精霊は、水、風、土、火、闇、光の六つの属性しか確認されていませんので、聖属性とゆうのは新種になります。今は魔物+精霊って感じでしょうか。精霊になるためには、精霊神様に認めてもらわなければなりません。それに認められても下位精霊からになり、今の姿は維持できなくなります。私たちみたいになるには何百年とかかりますよ」
『・・・。私は今のままでいい。それでマスター。行っていいの?』
「そうだな。お前がいいなら俺としては問題ないが、ウンディーネはどうだ?」
「はい。こちらからもよろしくお願いします」
「では、ウンディーネは他の精霊に説明と誘導を頼む。セイクリッドスライムは全滅はさせるな。みせしめとして何人か生きて返せ」
「わかりました。ダンジョンマスター様」
『わかった。マスター』
「よしっ!ダンジョンの入口を精霊湖の近くに開ける。行ってこい」
空間魔法で入口を作り見送ることにした。
「それでは行ってまいります」
『行ってくる』
2体は前を向いて進み始めた。
「今更だが、自己紹介をしてなかったな。俺は
前を向いていた2体はバッとこちらに振り返って詰め寄ってきた。
「えっ?な、なんだ?」
「ダンジョンマスター様!い、今のは!?」
「好きに呼んでいいと言っただけだが・・・?」
「そのあとですっ!」
「えっ?ディーネと」
その瞬間、ディーネがまぶしい光りに包まれた。
『マスター。ズルい。今のは反則』
「な、なんなんだ一体?」
セイクリッドスライムにいたっては足にぶつかってくるほどだ。
「えっ?なんでお前は俺に触れるんだ?」
そこでディーネの輝きがおさまり、そこからは先程より二周りほど大きく大人びたディーネがいた。
「はっ?」
「真人様、ありがとうございます。おかげで水の精霊王に進化することが出来ました。私はあなた様を主と認め忠誠を誓います。それに魔人の加護を得たため強くなることも出来ました」
ちんぷんかんぷんだ。何かしたか俺?
『もう遅い。契約は成り立った。私が1番になりたかったのに。マスター!私にも名前!』
契約?名前をつけたらティムされるみたいなもんか?
それにしても、こいつに名前を付けるとか人化のフラグが立つとしか思えん。
「考えとくから、お前は後からだ。早く行ってこい」
『むぅ。約束。絶対。破ったら・・・取り込む。』
「えっ?何それ。怖い」
真人は2体を見送り、1人になったところで、フーっとため息をつきながら考えた。
ステータスを確認すると、俺の方の称号にも精霊の守護者というのがついていた。
おそらく、上位精霊の名前は代々受け継がれている名称なのだろう。
そこに精霊より上位の俺が名付けしたことによって、一個体として進化したと思われる。
それに魔人の加護を得たとか言っていたことから相当強くなったはずだ。
例えば俺の無限に近い魔力を使えるとか。
「まぁ、保護すると決めたから考えても仕方ないか。外の様子はわかるが、何かあれば念話してくるだろ。人間にどうこうできるとも思えないしな。特にセイクリッドスライムは、物理も魔法も効かない気がするし、攻撃手段はなさそうだが、きっと取り込んで終わりだろうな。それにしてもセイクリッドスライムは一体なんなんだ?半分は俺の魔力で出来ていると言っていたな。それで俺に触れることが出来るのか?そう考えると俺の体の一部なのか?名前を付けたらディーネのように一個体と認められて進化するってことだろ!」
色々と考えてみたものの、結局名前を付けるしかないのか・・・。
と思い今度は名前を考えなければいけない真人であった。
「セイクリッドスライムの名前は後で考えるとして、とりあえず精霊たちの避難場所からだな。3階層追加すればいいかな。フィールドは要望を聞かないとわからないし、草原にしとけばいいか。聞いてから変更しよう」
今のダンジョンは30階で構成されている。
1階から10階をF、Eランク用。
11階から20階をD、Cランク用。
21階から30階をB、Aランク用と設定してある。
5階、15階、25階は魔物が出現せず、植物や薬草が採取でき、また下層に行くほど貴重な物が取れる。
10階層ごとにボス部屋があり、10階がオークキング、20階がオーガキング、30階がキメラだ。
各部屋のボスを倒すと、宝箱と帰還の魔法陣が現れる。
最初のうちはこの魔法陣は怪しまれていたが、帰還用の魔法陣とわかると多くの冒険者が訪れるようになった。
しかし、帰還用の魔法陣は1階から9階までは各階層に設置してあるが、11階層以降は5階ごとになるため、下層に行くほど慎重にならなければいけない。
またSランク用の階層の設定がないのは、未だにSランクの冒険者を1人しか見たことないからだ。
このダンジョンでレベルを上げ続ければSランクの冒険者になる者がいるかもしれない。
その時にはSランク用の階層が追加されるのは間違いないだろう。
フィールドの方も、創造魔法で並列思考と自動化スキルを作り、各階層のレベルに応じたフィールドや魔物が自動で配置される。
真人自身が管理しているのはボス部屋だけになっている。
一回配置してしまえば、たまに様子を見るぐらいだが。
「よし。やるか。31階層に降りる階段はなしで5階層追加っと。31階、32階は精霊たちが使うとして、33階は倉庫やら食堂だな。あとは34階は階層だけで35階に俺の空間を引っ越しして完了っと」
外の様子をみると、新しく開いた入口に精霊たちは集まっているようだ。
「それにしても数が多いな。こんなにどこにいたんだ?ディーネはみんなに向かって演説のようなのをしてるが、説明してるにしては恍惚としてる顔だな。まぁ説得出来てるならなんでもいいか。セイクリッドスライムの方でも見てみるか。・・・うわ。これはひどいな。逃げ惑う人間相手に無双してるな。ポヨンポヨン跳ねてるだけだがスピードが違いすぎる。あれは短距離転移で残像が残ってるのか?レベル差があるとここまで一方的になるのか。しかし、あの取り込んだあとはどうなるんだ?名前を付けないと俺もあんなになるのか・・・。ちょっと不安になってきたな。真剣に考えるか・・・」
『真人様』
『ディーネか』
『はい。あなた様のディーネでございます』
『・・・・・。それでどうした?何か問題か?』
『いえ。ここにいる3属性の上位含む中位、下位精霊、すべて真人様の配下になることを希望するとのことです』
『配下?保護だけじゃダメなのか?』
『はい。真人様のお話をしたところ、是非配下にとのことです』
『俺の話?どういう話をすればそうなるんだ?』
『それはもう!真人様の素晴らしさと凄さをたっぷりと!』
それであんな顔をしてたのか!
真人は念話で注意しなかったのを後悔しながら入口と31階層を繋げ、31階層で出迎えることにした。
31階層の魔法陣の前で待機していると、最初にディーネが出てきた。
その後に上位精霊と思われる3体、その後に次々と大小様々な大きさの光る球が現れ始めた。
どうやら中位、下位の精霊は人の姿をすることができないようだ。
全員が揃うと、ディーネを筆頭に全員が膝まづいた。
「真人様。私たち精霊を配下に加えていただきお礼申し上げます。つきましては我々一同、真人様に忠誠を誓わせていただきます」
「頭を上げてくれ。よろしく頼む。ん?光と闇の精霊はいないのか?」
「はい。あの2体は自由気ままな性格ですので。噂を聞き付ければ現れると思いますよ」
そこで、上位精霊と思われる3体が前に出てきた。
「お初にお目にかかります。ダンジョンマスター様。
「ボクは土の上位精霊ノームルターだよっ」
「俺は火の上位精霊サラマンダーだ・・・です」
「真人だ。みんなよろしく頼む。ところで精霊には女性しかいないのか?」
「いえ。女性というよりは、性別が存在しておりません。性格によってだいぶ変わりますが、むさ苦しい男の姿よりも、愛くるしい女性の姿の方が人間も優しくしてくれるので。例外の国もありますが」
「・・・。意外としたたかなんだな」
「でも安心して下さい。真人様。私は水の精霊王に進化したことにより完全な女性の体になりましたのでっ!これで夜もバッ!チリ!ですっ!フフン!」
ディーネは豊満な胸を張りながらドヤ顔を決めた。
「お前はアホかっ!俺に小さい者の趣味はない!」
「でしたら大きくなればよろしいのですねっ!」
「えっ?」
すると、ディーネが光り包まれた。光りがおさまった所には、身長175センチの俺に対して頭一つ分程低いディーネがいた。
「こ、これは?羽根がない?もしかして・・・人化?」
真人はディーネを見つめながら考えた。
「真人様の魔力と進化したことで出来るようになりました。愛の証ですね。フフッ」
真人は自分より先に人化をされたことにショックを受けながら、にじみ寄ってくるディーネの額を押さえつつ周りに目を向けた。
上位精霊たちにジト目を向けられていることに気付いた真人はゴホンと咳払いしながら
「まぁ、俺は人化出来ないし、思念体のようなものだからそんなこと出来ないけどな」
どうやら先に人化されたことがショックで
「そんなことより真人様。私にも名前を付けていただけませんか?」
エアリアルがディーネを睨みながら言った。
「ボクもっ!」
「俺も・・・ですっ」
「その前に一つ条件がある。ここにいる以上、衣食住は約束しよう。それを補うためにみんなには協力をお願いしたい。どうだ?」
「真人様のお役に立てるのならば喜んで助力させていただきますわ」
精霊たちは深々と頭を下げた。
「よし。では・・・」
と言ったものの、何も考えてなかった真人は頭を悩ませ、なんとなく精霊たちを見た。
そこにはキラキラしている目で見つめてくる精霊たちがいた。
ウッとなりながらもディーネみたいにすればいいかと思いついた。
「エアリアルはアル。ノームルターはルタ。サラマンダーはサラだ」
「「「ありがたき幸せ」」」
ちょっと安易すぎたかと思いつつも納得してくれたことに安心した。
すると、ディーネの時と同じように光り輝き始めた。進化するのだろう。
しかし、3体だけかと思いきや中位、下位精霊の全てが光り輝き始めたのだ。
「えっ?まじで?」
唖然としながらディーネの方に視線を向けると、ニマニマしながら当然ですっ!って表情をしていた。
俺の視線に気付いたディーネは、フンスッ!と鼻息を荒くしながら
「これで大陸を征服できそうですねっ!」
と恐ろしいことを言い始めた。
それを無視した俺は、輝きがおさまった精霊たちを確認した。
ちなみにディーネは身長155センチ程で青髪の碧眼、おっとり可愛い系だがポンコツ感を漂わせている。
会った時はしっかりしてた気がしたんだが・・・。
アルは身長160センチ程で緑髪の翡翠眼、お嬢様って感じだな。
ルタは身長145センチ程で茶髪の琥珀眼、それにてっぺんにはアホ毛が揺れており、活発で落ち着きがなさそうボクっ子だ。
サラは身長175センチ程で赤髪の紅玉眼、しゃべり方からもわかるように男っぽい性格をしているようだ。
容姿はみんな抜群で属性が色濃く出ている。
それに、各属性の精霊王になっており、魔人の加護もついてるようだ。
中位精霊から4体は上位に進化し、他も上位に近い存在になった。下位精霊の大半は中位に進化し、残った下位精霊は生まれてきて間もない個体だそうだ。
「なぁディーネ?精霊ってのはどうやって生まれるんだ?」
「えっ?それを聞かれますか?真人様。ポコっと生まれてくるんですよ」
ディーネは顔を赤らめてお腹をさすりながら答えた。
「・・・。本当か?アル?」
「いいえ。そんなはずありませんわ。精霊はまず精霊神様によって無属性で生み出され、住み着いた場所の魔力系統で属性が決まるのですわ」
「ありがとう。アル」
「「「「!」」」」
礼をいいながらアルの頭を撫でてやると、恍惚した表情になり、残り2人は羨ましそうな顔をした。残りのポンコツ1人はと言うと。
「あのっ?真人様。私も頭を」
と差し出してきた。
そこでゴンッと拳骨をしてやった。
「いったぁ!何するんですか!真人様!」
「信賞必罰だ」
「むむっ。でもこれはこれでいいかも。ムフフ」
ディーネが怪しい方向に行き始めたところであることに気付いた。
「あれっ?そういえばセイクリッドスライムはどうした?まだ戻ってないのか?あいつのことだから、てっきり一番に食い付いてきそうだと思ったが」
「私が見た時は、人間たちを追いかけておりましたわ」
そこで様子を見てみると、何故か3人の人間を正座させていた。
『何してるんだ?セイクリッドスライム?早く戻ってこい』
『マスター。わかった。すぐ戻る』
セイクリッドスライムから解放された3人は、腰が抜けたのか四つん這いで逃げだしていた。
すると、真人たちの目の前にセイクリッドスライムが現れた。
『マスター。ただいま』
「ああ。ごくろうだった。何人いた?」
『多分、51。3人は調教してから返した。あとは取り込んだ。それともう1つ持ってきた』
セイクリッドスライムはペッと男を吐き出した。
「こいつは?」
『多分、指揮官。一番偉そうにしてた。まだ生きてるはず』
「・・・。いらないから元の場所に返してきなさい」
『えっ?でも・・・』
セイクリッドスライムは心なしかシュンとなったようだ。
その時、ふと後ろを振り返ったセイクリッドスライムは、精霊王たちの存在に気付きブルブル震え始め、突然こちらを向き、詰め寄ろうとした所を俺は制した。
「早く返してきなさい!」
『うっ。わかった。すぐ捨ててくる』
「ダンジョンに取り込ませたらわかるからな」
『チッ。バレたか』
ボソッとつぶやきながら消えた。
「あいつ舌打ちしなかったか?にしても転移を使いこなしてるな」
すぐに戻ってきたセイクリッドスライムは
『マスター。なんでみんな進化してる?早く私にも名前!約束した!』
「お、おいっ!落ち着け!」
『待てない。早く!』
「わかったから。ぐいぐい来るな。その前にお前は女なのか?」
『私は女のつもり』
「つもりって。お前がそれでいいならいいが」
さて、どうしたものか。
精霊たちのことですっかり忘れていた。
それを言うわけにもいかず考えてみる。
俺の中でスライムの有名な名前といえばアレなんだよな~。
アレについて皆さんの想像に任せるが、その名前じゃこいつは納得しないだろうし。
セイクリッドスライムだから略せばいいかな。
「・・・・・・・よし。お前の名前はクリスだ!」
『間がすごいあいたのは不服だけど、名前は可愛いから許す』
案の定、クリスが光り輝き始めた。輝きがおさまるとそこには・・・
「あれっ?お前は人化しないのか?」
元の姿のままのクリスがいた。
真人がホッとした表情で問いかけると
『私は時がくるまでこのままでいい。でも。マスター。ありがと。』
クリスは意味深なセリフを言いながら礼を言ってきた。
この時クリスのステータスを見なかったことに、真人は後悔することになるのであった。
セイクリッドスライム(???) LV653
HP――― MP―――
称号 Sランクモンスター、魔人の右腕、聖女(隠蔽中)
スキル 空間収納
固有スキル 聖魔法、空間魔法、創造魔法、人化(隠蔽中)
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