SIDE 冒険者ギルド
俺はガイス・ダンパ。
今いるのは冒険者ギルド、ダンジョン支部のギルドマスターの一室だ。
数十年前に新たにできたダンジョンを調査し、攻略を進めてきた。
しかし、未だに最下層にたどりつけず、年齢的にも体力的にもそろそろ引退を考えていたところ、ギルド側から後進の育成を打診され、ギルドマスターに就任することになった。
元々、Sランクだったこともあり、経験豊富で人脈もあり厳しい状況でも後輩たちはついてきてくれた。
今では立派な街となったが、まだまだ発展していくだろう。
それだけこのダンジョンの恩恵には素晴らしいものがある。
足を向けて寝れないほどだ。
そのためにも、あのダンジョンの入口にかかげられている不思議な模様を解読して名前を付けなければならない。
そんな考えをしていた時、ノックをして副ギルドマスターとなったクレアが入室してきた。
どうやら報告があるようで、内容を聞いた俺は眉根を寄せた。
「なにっ?精霊湖の様子がおかしい?」
「はい。精霊湖での薬草採取の依頼から戻ってきたCランクの冒険者が報告してきました」
「具体的には?」
「薬草類は萎れ、森の木も枯れ始めており、水も濁っているような感じだと言っていました」
「それは確かにおかしいな。聖教国からは何も連絡はないか?あそこも精霊湖の恩恵を受けていただろう?帝国に行くよりこっちにくるはずだが」
「そうですね。聖教国は帝国には行かないでしょう。もしかしたらこちらに向かっているのかもしれませんね」
「そうなると、先に少し調べておくか。その前にジョイナを呼んできてくれるか?」
「わかりました」
ジョイナは魔術師ギルドというのを独自で立ち上げた。
これも後進の育成であるが、騎士団や冒険者ギルドに人員を派遣して連携しており大変助かっている。
おそらく今回のことはあいつも興味を持つだろう。
冒険者ギルドと魔術師ギルドは近いこともあり、すぐ来たようだ。
「ガイス。入るわよ~」
「おお。早かったな」
「ええ。私の方もなんとなく予感してたもの。精霊湖のことでしょ?」
「そうだ。さすがに耳が早いな」
「と言っても私も知ったのは昨日だけどね。それで?調査するんでしょう?」
「ああ。調査するが今日のところは、付近の確認だけにとどめようと思ってるから2人だけで十分だと思う」
「そうね。でも精霊湖の異常の原因は分かってるわよ?」
「なにっ!?もう調べたのか!?」
「調べてないわ。でも間違いなく精霊がいなくなったせいよ」
「以前ジョイナが見たと言うヤツか?」
「あの子1体とは限らないわ。上位精霊だったけど、中位や下位の精霊もいるはずよ。それに・・・」
「まだ何かあるのか?」
「精霊湖はおそらくダンジョンに繋がってると思うわ」
「ダンジョンにか・・・?本当か?」
「ええ。前はブルースライムがいたところに、今は新種のスライムがいるわよね?ブルースライムの頃は少し感じただけだったけど、おそらくそのブルースライムが進化・・・じゃなくてこの場合は変異種かしら。その変異種のスライムはブルースライムの時より精霊の気配が強くなってるのよね」
「なるほど。それで精霊湖と関係があるってことか。それにスライムが精霊湖の影響を受けて進化するってことか?」
「そこまでは私もわからないわ。だからまずはダンジョンに入ってみましょ。何かわかるかもしれないわ」
「そうなるとリードとガイアと他にも誰か連れていくか?」
「いえ。正確にはあのスライムに会いに行きましょ。2人で十分だわ」
「あのスライムに何かあるのか?」
「うーん。理由はないけど勘かしらね」
「そうか。冒険者にとって勘ってのは以外と大事だからな。それで調査は今日でもいいか?」
「ええ。大丈夫よ。1時間後でいいかしら?」
「ああ。1時間後に城壁前の門で落ち会おう」
「わかったわ」
それからガイスとジョイナは1時間後に合流し、今はダンジョンの入口に着いたところだ。
「ここにくるのも久しぶりだな」
「そうね。私も半年ぶりだわ」
「中の様子は知ってるか?」
「ええ。ここからスライムまでは昔と変わらないわ」
「そうか。行くとするか」
2人は久しぶりのダンジョンに、緊張した様子で足を踏みいれた。
「「!!!!」」
「こ、これは・・・。また成長したか?」
「ええ。そのようね。入口付近は変わってないようだけど、魔力が濃くなってるわ。新人冒険者は大丈夫なのかしら?」
「魔石の数も増えてるし、問題の報告も上がってきてないから大丈夫だと思うぞ?基本的に冒険者ってのは自己責任だしな」
「それもそうね。私たちは問題が起きた時にフォローすればいいだけね」
「そうだな。よし、このへんでいいか」
「?何するのよ?」
10メートル程進み、ちょうど転移部屋の前で立ち止まったガイスは、気合いをいれるような仕草をした。
するといきなり大声で叫んだ。
「精霊湖について聞きたいことがあって来た!誰かいるか!?」
ジョイナは耳を押さえてガイスへと詰め寄った。
「ちょっと!?何考えてるのよ!?びっくりするじゃない!」
「ははっ。悪い悪い。ダメで元々ってヤツさ。少し待って何もなかったら先に進もう」
「全く!そういうのは先に言いなさいよね!」
「先に言うとお前は反対するだろう?」
「・・・そうね」
ジョイナは身に覚えがあったのか、渋々食い下がった。
10分程経っただろうか
「そろそろ先に進もう」
「いえ。ガイス。どうやら来たようだわ」
「何が来たんだ?魔物か?気配はないぞ?」
「あのスライムよ。精霊の気配に近いから、あなたにわからないのも無理ないわ」
「なにっ!?ほんとか!どこかで見てた?言葉がわかるのか?」
「今はそんなこといいわ。それよりどうするのよ?」
「・・・・・」
「はぁ。何も考えてなかったのね。とりあえずここに来た理由を言いましょ」
「わかった。しかし相変わらず神々しいな。精霊ってのはみんなああなのか?」
「いえ。あの子だけは特別ね。それより」
「ああ。わかってる」
どうやらスライムは2人の5メートル程手前で止まったようだ。
「私はこの街の冒険者ギルドのギルドマスター、ガイスと申します。こっちは魔術師ギルドのギルドマスター、ジョイナです。精霊湖の異変について何かご存じないでしょうか?」
2人は敵意を見せないようにしながら頭を下げた。
頭を上げて少し待っていると、スライムは1メートル程手前まで近付いてきた。
すると、どこから取り出したのか手紙のような物をポイッと投げ渡してきた。
ガイスは、それを慌てて受け取りスライムを見た。
スライムはその場から動かず、ガイスが手紙を読むのを待っているようだった。
そこで、ガイスが手紙を開くと、そこには何も書かれていなかった。
「えっ?何も書いてない?」
「ガイス?どうしたの?」
「いや。何も書かれてないんだが・・・」
ジョイナも手紙を覗き込んだその瞬間、スライムが魔力を発した。
「「!?」」
すると体の芯に響くような念話が2人の頭に届いた。
「「!?」」
『人間よ。精霊湖の異変が知りたければ、帝国に行くがよい。責任を取らせなければ精霊湖は衰退の一途を辿るだろう。以上だ』
念話はそこで終わったが、2人は冷や汗と震えがとまらなかった。
気を抜けば腰を抜かしそうにしてると、またスライムが魔力を発した。
今度は聖魔法を使ってくれたようだ。
ガイスはまだ呆然としてるが、ジョイナは落ち着きを取り戻して、しゃがみこみスライムを撫でた。
「ありがとう。私はジョイナよ。あなた、名前はあるの?」
『・・・・・クリス』
「っ!?しゃべれるのね。ふふっ。いい名前をつけてもらったわね。そうだ。リーンは食べれるかしら?」
リーンは手のひら程の甘酸っぱい赤い果実だ。
ジョイナは収納袋からリーンを5個取り出した。
クリスは上下に弾み嬉しそうにリーンを取り込み、今度は先程とは比べ物にならない膨大な魔力を発し始めた。
ガイスはドサッと尻もちをついた。魔力がおさまると、クリスはジョイナに虹色に輝く液体が入った瓶を投げ渡してきた。
ジョイナは驚愕で目を見開いた。
「こ、こ、これは!?ま、まさか!?エ、エリクサー!?」
驚き過ぎて叫んでしまったが、クリスの方を見ると、すでにクリスの姿はなくなっていた。
しばらく呆然としていたが、気を取り戻して帰ることにした。
「ガイス!帰るわよ!」
「あ、ああ・・・」
そして心ここにあらずのガイスを連れて引き返していった。
それから、ローラ聖教国から派遣された聖騎士団と合同でイルムド帝国へ行き、散々脅したあげく、帝国側に面した精霊湖付近の領土を奪い取った。
帝国側も精霊湖には資源もなく、不気味なスライムがいるということからすぐにあけ渡した。
これを機に徐々に精霊湖の状態は回復していくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます