第4話 ダンジョン
入口でいいリアクションをしている冒険者たちだったが、ようやくダンジョンに足を踏み入れたようだ。
それに以前来た時と同じ顔ぶれがいることから前回は調査、今回は本格的な探索のようだ。
名前を覚えていなかったが、全員に鑑定を使い思い出した。
「おっ!副騎士団長は女性のようだ。これはクッコロが期待できるかな?」
そうならないことを祈るばかりだ。
「しかし、あの4人はずっと口が半開きのまま進んでいるが大丈夫なのか?」
列はリード、ガイア、ティナ、団員4人、冒険者6人、ジョイナ、ガイスである。
先頭の2人組は、これでもかというぐらい目も見開いて先を凝視している。
最後尾の2人組も周りをキョロキョロしている。
まるで田舎から都会に出てきた
真人はいいリアクションに満足しながらも、中々進まない一行に、徐々に心配になってくるのだった。
4人が驚くのも無理はない。
以前は壁にランタンのような物に明かりがつき、ひたすら真っ直ぐの道のりだったが、今は若干水気で湿気があり、ヒカリゴケという植物がランタンの半分程度の光量で天井から照らしているだけで、温度も高くはなく、冷や汗が出る雰囲気すらあるのだ。
歩くスペースはあるものの、岩が張り出し奇襲されそうな数多くの障害物も存在している。
これでは連携することも難しそうだ。
4人の表情に騎士団も他の冒険者も驚きながら心配しているようだった。
10メートル程進んだところで、身をひそめる場所を発見し、全員で話し合うことにした。
そこでようやく落ち着いたのか、やっと先頭を
『入口も含めてだが、以前とは全く作りが変わっている。ここまで急成長するダンジョンは見たことない。案内よりも新規のダンジョンと考えた方がよさそうだから警戒をおこたらないでくれ。場合によっては撤退も視野にいれておきたい』
『そうだな。これだけ急に地形が変形してるということはダンジョンのランクも上がってるかもしれん。ヘタしたら階層も増えてるだろう。俺たちの手に負えない魔物は出てこんと思うが、先に進めば疲労も出てくるはずだ。余裕はあるが、1日で終わることを想定していたから物資も心もとない。判断が鈍る前に撤退も考えておこう』
ガイスが言うとティナが問いかけてきた。
『ガイス殿。そんなにこのダンジョンは前回来た時と変わっているのか?私には普通のダンジョンのように感じるが・・・』
団員や他の冒険者も同じことを思っていたのか頷いていた。
『ああ。全く参考にならん。リードも言ったが、ほとんど新規と考えた方がいいだろう。それに気配もなく魔物が現れたこともあった。今も魔物の気配は感じないが、この得体のしれない雰囲気のせいでわからんのかもしれん』
『そうなのか。しかし、それなら一度立て直した方がよいのではないだろうか?』
『いや。このメンバーならそうそう遅れは取らんだろう。ある程度把握しておかなければ無謀なヤツらが突っ込んでいくからな』
『ガイアとかだわっ!』
『なんだと!?俺は脳筋じゃねぇ!』
『どうだかねぇ~』
ジョイナとガイアも調子を取り戻したようだ。
今後の方針を決めたところで、一行は先に進むことにした。
それから歩みは遅いものの、ときおり出てくるスライムやゴブリンを倒しながら順調に進んだ。
いきなり現れることなく、しっかり感知も出来たため、一行は安心していた。
2時間程歩き、そろそろ休憩をしようと考えていたところ
『みんな魔物の気配がある。警戒してくれ』
どうやらリードが魔物を感知したようだ。
『よし。戦闘が終わったら一息つける場所を探そう。周囲も警戒しておけ!』
『『『『了解!』』』』
ガイスが言うとみんなも了承した。
そこで1匹のスライムが現れた。
いや、現れたというよりいたと言った方が正しい。
『なぁ?あのスライム、なんか色が濃くないか?』
『そうか?俺にはよくわからんが・・・』
リードが疑問に思うも、ガイアはわかっていないようだ。
スライムはこちらに気付いているはずだが、その場でポヨンポヨン跳ねているだけだ。
まさか「ボク悪いスライムじゃないよ」とでも言うつもりじゃないよな?
真人はその様子を見ながら期待しつつ不安になっていた。
さすがに異世界では通用しないだろう。
ちなみに今は真人自身が魔物を呼び出したりしてない。
呼び出すのがめんどうになり、階層ごとに数の上限をもうけ、倒されたら別の場所に
迷宮掌握である程度わかるが、冒険者が増えることを見越して設定した。
そして把握はしているが、魔物たちも群れを作ったり、進化していくことも当然であり、その辺に関しては放置することにした。
例外として、真人の制御が外れた時だ。
魔物は膨大な魔力にさらされ進化する。
これは、盗賊の時もおこったが、魔力が多ければ多いほど強力な魔物となる。
そして上限を無視して増え続け、ダンジョンの外に溢れ出す。
いわゆるスタンピートだ。
このダンジョンは、真人の規格外の魔力と精神力によって支えられているのだ。
リードはスライムが気になりジョイナを呼ぶことにした。
『ジョイナ。あのスライムは変異種か?』
『いえ。違うわね。ただのブルースライムよ。この洞窟の水系統の魔力にあてられて進化したんだと思うわ。強さも他のスライムと変わらないわよ。普通は進化する前に倒されるから見かけることはほとんどないわね。ただウォーターボールが使えたはずよ。でも少し不思議な感じがするのも確かね。ほんのわずかに精霊っぽい気配があるかもしれないわ。それより私は、スライムの後ろで魔力が歪んでるのが気になるわ。何かを守っているのかしら?』
『付近に精霊がいるってことか?確かにスライムばかり気になっていたが、後ろに何かあるな。ガイスどうする?』
『スライムを倒したら発動する罠の可能性があるつもりで動こう。ティナたちもそれでいいか?』
『ええ。私たちはあなたの判断に従おう』
他の冒険者も元からガイスたちに従うつもりだったので頷いていた。
『よし。ジョイナ。仕留めてくれ。他の者は警戒だ!』
『・・・わかったわ。魔力を集いて敵を穿て!アイスアロー!』
ジョイナはブルースライムに不思議な感覚を覚えながらも手をスライムにかざし、簡略詠唱を唱え中級魔法のアイスアローを発動させ、スライムを凍り漬けにして砕いた。
特に罠などもなく魔石に変わった。
リードは魔石を拾い、ジョイナの方に体を向けた。
『ジョイナ。ブルースライムの魔石はこんなに純度が高いものなのか?』
『私もブルースライムは一度しか倒したことがないけど、あまりよくなかったわ。ここのダンジョンの魔力が高すぎて魔石の純度も高いようね。冒険者にとってはいいことだわ。スライムの魔石の純度がここまで高いといい稼ぎになるもの。でもこれでここのダンジョンがEランク以上なのは確実になったわ。やっぱり精霊のような気がしたわね・・・。敵意もなかったし倒すのは失敗だったかしら・・・』
最後の方は考えるように小さくつぶやいたため、誰にも聞かれることはなかった。
『そ、そんなに純度が高いのか?』
ガイアは相変わらずわからないようだ。
『ええ。と言っても低ランクの冒険者の稼ぎにしてはってとこよ。あくまでも今のところの話であって、この先がどこまで続いてるかわからないし、先に進めば当然魔物も強くなっていくはずよ』
『そうだな。この場所で休憩した後、あの先を調査してから戻ろう。それに見通しがつかないから次は物資も増やしておきたい。第2陣でサポートにマッピングと、それに冒険者ギルドの職員にも立ち合ってもらおう。騎士団の方はこのままお願いしたい。ただ陛下の方に報告できるようにしておいてくれ。冒険者たちはギルドに指示してもらうように言っておこう』
一行は、休憩を終え、先に進もうと準備していた。
列は今まで通りだ。
そしてついに魔力が歪んでいる所へと全員が足を踏み入れた。
すると景色が一変した。
『なっ!?こ、これは!?』
全員が呆然と立ち尽くす。
そこは先程までのアーチ型ではなく、灰色で表面がツルツルした明らかに材質不明の長方形型をした通路になっていた。
『こ、これは。転移したのか!?』
リードが焦ったように叫ぶ。
そこで最後尾側からジョイナが声をあげる。
『みんな落ち着いて!おそらく空間魔法よ。今は失われた古代魔法だけど書物で読んだことがあるわ。ダンジョンが成長する時に空間を大きく広げるそうよ。魔力の歪みがあるのはそのせいね。普通に戻れるから安心して』
と言って、一度出てまた戻ってきた。
一行は、ホッとしながら周りを見渡す。
『なぁ?ほんとにダンジョンが成長してこんなのが作り出せるのか?古代遺跡の間違いじゃないのか?それにあの天井で光ってる不思議な棒はなんだ?』
今までずっと黙っていたガイアがみんなの考えを代弁するように言った。
しかし、ジョイナは
『いいえ。間違いなくダンジョンよ。漂ってる魔力の質が同じだわ。それに遺跡なら魔力はないもの。あの光りついては・・・私も見たことないからわからないわね』
『それでガイス殿・・・。この先どうするのだ?』
ティナは不安そうにガイスに指示を仰いだ。
『そうだな。リード。近くに魔物の気配はあるか?俺も気配察知は使えるが、リードの方が広範囲でわかるだろ?』
『いや。この周辺には気配はないが、あまり自信はないな』
『そうだな。過信しすぎるのもよくないな。よし。少しこの周辺を探索してから撤退しよう。みんな、気を引き締めて行くぞ!あと、深追いしないように!』
『『『『了解!』』』』
その後、右に左にと通路が入り込み、中々探索が進まないものの、前回と同じスライムやゴブリンを倒し、ある程度探索した所で引き返した。
これまでの様子を見ながら真人は満足げに頷いていた。
やはり以前、最奥だった場所から拡張した空間の繋ぎ目はわかるようだ。
「しかし、あのスライムは何だったんだ?あそこで誘導役でもしてるのか?いくらリポップするからってやられ損だろ。かわいそうに」
その頃、ブルースライムはダンジョンマスターで、主でもある真人の感情が流れてきて感動で体を震わせていた。
もっと強くなろうと心に決めた瞬間だった。
そんなスライムの気持ちは知らずに真人は、次に冒険者が来た時のために対策しようとしていた。
今は灰色の通路が3キロ四方にわたって右に左にまさしく迷路のごとく張り巡らされており、2階層に降りる階段はない。
ガイスたちは材質不明だと思っているが、正体はただのコンクリートで、光りも蛍光灯を創造魔法で作り、魔力で光らせているだけだ。
こちらの世界でいう魔道具というやつだ。
そこで、モンスター部屋や宝箱部屋、休憩部屋を各4部屋ずつ追加した。
モンスター部屋は魔石の純度が少し高いゴブリン20匹が出るようにした。
強さは普通のゴブリンと同じだ。
普通は魔物のランクがFなら、魔石のランクもFになる。
しかし、ここは真人のダンジョンだ。
当然そうはならない。
魔物に魔力を多くやれば強くなる。
魔石に魔力を多くやれば純度が高くなる仕組みだ。
宝箱部屋の宝は、真人の空間に保管されてある盗賊たちの以前の持ち物からランダムに送り出される。
当たり外れもあるが、1階層のためレアアイテムは除外してある。
休憩部屋も他のダンジョンとは違い、扉を開けると広い通路があり、さらに4つの扉がある。
その1つ1つの部屋は、大人20人が寝ても十分な広さがあり、中央には10人掛けの長机と椅子が置いてある。
ちなみに中に人がいると、内側からしか扉が開けられないという万全のセキュリティだ。
また、部屋が空いていない時は、通路を利用できるように広くした。
もちろん魔物も出ないようにしてある。
肝心の2階層に降りる階段は1階層の中央に設置することにした。
迷路状の通路を抜けると、20メートル四方の広い空間に出てきて、その中央に階段があり、その横にはダンジョンの入口に帰還できる転移魔方陣も設置し、一度踏み入れたことのある転移魔方陣には跳ぶことができる。
これは罠設置の転移を利用したものだ。
本来なら追放モノのようにダンジョン下層に跳ばされるのだろう。
間違っても下層に跳ばしてはならない。
下層には核である真人がいるからだ。
そして、ダンジョン入口付近に10メートル四方の部屋を追加し、転移魔方陣2つを設置した。
1つは各階層に跳ぶ用で1つは帰還用だ。
「大体1階層は終わったな。あとは2階層、3階層だな。4階層、5階層以降は冒険者次第で増やしていけばいいか」
2階層の階段は右奥、3階層の階段は設置せずに、左奥に帰還用の転移魔方陣のみだ。安易すぎだろうか?
休憩部屋は設置し、モンスター部屋、宝箱部屋はない。
その代わり、2階層には薬草類、3階層には果物類が採取できるようにした。
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