第3話 成長

 一方で真人のダンジョンは・・・。

 盗賊の根城となっていた。

 ガイスたち冒険者が帰還して1ヶ月後に、フードをかぶった怪しい人物が1人で訪れ、しばらくダンジョン内を確認してすぐに引き返していった。

 真人は10ポイントを取得し鑑定を使ったことにより盗賊とわかっていた。

 そこから3日と立たず、50人以上に盗賊はふくれあがった。

 しかし、真人にとっては大歓迎だ。

 盗賊は日に何人も昼夜問わず出入りするのだ。

 チリも積もればなんとやらである。

 盗賊たちもダンジョンとわかっているらしく、何故魔物が出ないのか不思議に思いながらも使用しているようだ。

 それに中々本格的で水を出し、火をおこし、物資や食糧を運びいれ自炊している。

 真人はちょっと羨ましく思っていた。

 だが時々、武器や貴金属を集めてくることから、やはり盗賊は盗賊だ。

 盗賊が居着いて2ヶ月以上経過しただろうか、ポイントも5000以上貯まった。

 そこで真人は、ダンジョンの拡張と階層を追加することにした。

 まず最奥の壁は取り除かずに、その先から拡張を使い迷路のように右に左に枝分かれさせながら3キロほど拡張させ、一気に2階層、3階層、4階層、5階層まで追加した。

 こちらも3キロ四方で出来上がったため、1回の発動で出来るのは3キロのようだ。

 それに、階層を追加したことによって魔物の種類やフィールドの設定まで選択できるようになった。

 今のところ、1階層洞窟にスライム、ゴブリン。

 2階層森と草原にゴブリン、ホブゴブリン。

 3階層森にフォレストボア、フォレストウルフを配置予定だ。

 4階層に降りる階段はなく、5階層に自分の空間を設置した。

 拡張や階層を追加するたびにゴゴゴッと地鳴りするため、盗賊たちはビックリして出入りを繰り返し、不安を感じているようだった。

 こうして、1階層分間に挟むことによって安心したが、空間魔法があることを思い出し、この世界に転移を使うことができる人物がいるのか悩むことになった。

 さておき、ある日のこと盗賊たちが大きな布袋を肩に担いでかついで戻ってきたのを真人は見ていた。

 動いてはいないが間違いなく人のようであった。

 まさかと思いながら注視していると、案の定盗賊は剣を手に持ちその袋を刺していった。

 袋からは赤い物が流れ出てきた。


 真人はダンジョンになって色んな耐性がついていた。

 状態異常無効、物理耐性、魔法耐性、精神耐性ありとあらゆる耐性、ダンジョンだから当たり前だ。

 しかし、元日本人として嫌悪感、憎悪が感情を激しく揺さぶり、制御を失い、ついに魔力がふくれあがった。

「ウォォォォォォォォォォォォッ!」

 真人の怒りに合わせて咆哮のような音と共にダンジョンが激しく揺れる。

 盗賊たちは、何がなんだかわからず狼狽えうろたえ始める。

 そこで、最奥にいた盗賊の前にいきなりオーガが現れた。

 その後ろにも10匹以上はいる。

 通常のオーガは体色が薄緑をしている。

 だが、現れたのは黒いオーガで、明らかに変異種である。

 そのオーガに盗賊の頭領は一瞬にして命を刈り取られた。

 同時に入口付近にオークが2匹、その後ろにゴブリンが20匹以上現れた。

 こちらも黒い変異種だ。

 入口にいた見張り2人は、奥から聞こえる叫び声でダンジョンに足を踏み入れ、その瞬間にオークの棍棒によって叩き潰された。

 残る60人以上の盗賊たちもゴブリン、オーク、オーガによって、なすすべもなく蹂躙され、血一滴も残さず魔物とともにダンジョンへ吸収されていき、やがて静寂が訪れた。


 俺は、『レベルが上がりました』『ランクが上がりました』という声が聞こえて冷静さを取り戻した。

「俺は・・・。何を・・・?」

 とつぶやきながらハッと思い出しダンジョン内部を見回した。

「そうか・・・。俺は盗賊たちを・・・」

 しかし、耐性のせいか、あの時は激情にかられたが、今はなんともなかった。

「ん?体が光ってる?そういえばさっきレベルが上がったとか言ってたな。久しぶりにステータスを確認してみるか」

 あれから時間が経ち、声に出さずにステータスを表示できるようになった。


 迷宮魔人めいきゅうまじん(???) LV75 Eランクダンジョン


 HP――― MP―――

 

 称号 転生者、ダンジョンマスター

 

 スキル 鑑定(LVMAX)、剣術(LVMAX)、武術(LVMAX)、身体強化(LVMAX)、魔力感知(LVMAX)、魔力操作(LVMAX)、気配察知(LVMAX)、索敵(LVMAX)、暗殺(LVMAX)、隠蔽(LVMAX)、料理(LVMAX)

 

 固有スキル 創造魔法、言語理解、迷宮掌握、生活魔法


「おぉっ!レベルがかなり上がって、ランクもEになってる。スキルが増えてるのはなんでだ?盗賊がダンジョンに取り込まれたことを考えると盗賊から奪ったスキルってことか?水を出したり、火をおこしたりしてたのは生活魔法ってとこだろうな。

 他のスキルは・・・体がないから使えないな。ん?保有ポイントの項目がなくなってる?創造魔法で代用できそうだからいいか。そういえば、冒険者に鑑定使った時には種族が出ていたな。俺の???はてはは種族が不明ってことなのか?」

 ステータスを閉じると、ふと隅にある荷物が目に入った。

「これは?もしかして盗賊たちの持ち物か?」

 そこには物資や武器、貴金属類、それに一番欲しかった知識や情報なんかも頭に流れ込んできた。

 情報によると、魔の森は前世でいうオーストラリアのような形で、周りを海に囲まれてる大陸の中心にあり、北側はセリア王国に面し、ダンジョン入口付近は迷宮樹海と呼ばれているようだ。

 北西に進むとダンジョン側に精霊湖、海側にローラ聖教国、さらに西にはイルムド帝国があり、ダンジョンの南側には幻想の森というのが広がっているようだ。

 ちなみにダンジョン入口は精霊湖の近くだ。

 盗賊たちは精霊湖にくる冒険者や、ローラ聖教国を通る商人を襲い、イルムド帝国に奴隷を流したりしていた。

 また、幻想の森にはエルフがいると噂され、何度も足を運んでいたようだが、発見できなかったみたいだ。

「情報はありがたいが、盗賊のものだからあまり信用しない方がよさそうだ。それに東側の情報がないな。そういえば手に入れた物資や貴金属を宝箱にすればいいわけか!よし。そうと決まれば、最奥の壁を取り除いて本格的にダンジョンの開始だ!」


 それから1ヶ月、何もなかった。

 俺は暇をもて余していた。

 あまりにも暇過ぎて入口に「メイグウダンジョン」と看板をつけたほどだ。

 レベルとランクが上がり、入口付近だけなら外の様子を見れるようになった。

 そうして過ごしていると、ある日入口付近が騒がしくなってきた。

 様子を伺ってみると、馬車が数台停まり、たくさんの人が集まり始めていた。

 騎士のような人物が周りに声をかけ、次々とテントや物資らしき物を降ろしていく。

 俺はその様子を見ながらニヤニヤしていた。

 入口から500メートル程離れた所に大量のテントが張られ、柵が立てられ、見張りもいるようだ。

 どうやらそこを拠点にするらしい。

 1週間程経つと大きなログハウスのような建物が2軒建った。

 魔法で作っていたこともあり、中々の出来映えだ。

 その建物を大勢の人が行き来していた。

 受付のようなところなのだろうか?

 俺は疑問に思いながらも待ち続けた。

 そして、ついにダンジョンの入口に人が集まった。


 ガイスたち冒険者パーティ「守護者の翼」は再度、魔の森のダンジョンを訪れていた。

 Fランクのダンジョンということもあり、ガイスたちの出番はないだろうが、ダンジョンの案内と騎士団との連携が必要として、最初の期間だけ派遣されたのだ。

 ある程度の物資も運び終わり、冒険者ギルドや騎士団の宿舎など拠点の準備ができたところで第1陣として足を向けた。

 メンバーはガイス、ガイア、リード、ジョイナ、副騎士団長ティナ・プリセット、他新人団員4人、Bランク冒険者2人、Cランク冒険者2人、Dランク冒険者2人の15人だ。

 ダンジョンの入口に着くと、守護者の翼の4人は唖然となった。

 以前来た時は、腰の高さの草に覆われていたのは覚えている。

 今は広範囲に渡って整備してある。

 これは真人がダンジョンの外の様子を見ながら昨日のうちにしていたのだ。

 ちなみに盗賊の時は入口を隠すように木々で覆っていた。

 そんなことよりも4人は、入口にかかげてある不思議な模様に目が釘付けになっていた。

 アーチ型の洞窟の上部にこれまたアーチ状にと書かれているからだ。

 この時の真人は、失敗していたことに気づいていなかった。

 真人は言語理解でこの世界の文字は読める。

 しかし、前世のカタカナでと書かれても、この世界の住人には当然読めないのだ。

 以前来た時になかった文字のような物を見て4人は唖然となったのだった。

 このリアクションの様子を見て満足感に浸っていた真人は、彼らが「何が書いてあるんだ?」と声に出していたことが聞こえていなかった。

 この失敗は今からずっとずっと先に出会う人物に言われるまでこのままなのである。


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