第8話 反響

 翌朝、俺は涼からの着信で目を覚ました。


「ん……はい……もしもし……」


 俺が眠気100パーセントの状態で電話に出ると、涼が興奮気味に話してくる。


「おい、見たか!?」

「見たって何を」

「ネットニュースだよ! 悠太、凄いことになってるぞ!」

「ネットニュース? なんかあった?」

「いいから見てみろって!」

「……わかった」


 通話を繋いだまま、俺は涼に言われた通りにネットニュースを確認する。

 ネットニュースを見た瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。


 ネットニュースの記事になっていたのが、俺と里香さんの昨日の配信、つまり空星葵と桃田ネルのコラボ配信についての内容だった。

 悪い内容の記事になっていないか心配したが、その心配は杞憂だったようだ。


 記事の内容を読んでみると、俺たちを批判する内容は一つも含まれていないようだった。


 空星葵と桃田ネルがコラボ配信を行い、これからも二人で配信していくことが多くなることを伝えた結果、多くの視聴者がその報告に喜びの声を上げていると記載されていた。


 そして、記事の最後のほうには『空星葵はこの配信終了後、チャンネル登録者数が急増し、現在はチャンネル登録者数約30万人になっている』と書かれていた。


「……30万人!?」


 ちょっと待ってくれ。

 俺が昨日の配信をする前の時点で、俺のチャンネル登録者数は約10万人だった。その10万人も配信を始めてからたった1年で到達し、世間では驚かれていた。


 それが一晩で20万人も増えたっていうのか!?


 そんなことあるのか?

 昨日の配信で俺のことを知ってくれた人たちが登録してくれたのだろうか。


「なあ、涼」

「お、その様子、目が覚めたか」

「これ、夢だったりしないよな?」

「ああ、ちゃんと現実だぞ」


 やっぱり現実なのか。

 嬉しいことではあるのだけど、さすがにこれは想定していなかった。


 本当に人生、何があるか分からないな。


 ネットニュースで嘘を記載しているとは思わないが、一応、自分のチャンネルを確認する。


 ……うん、本当に30万人だ。


「こんなことってあるのか」

「昨日の配信が上手くいったってことなんじゃないか?」

「たしかにそうじゃないとここまでの増え方はしないよな」

「ひとまず、喜んでいいんじゃないか?」

「そ、そうだな」

「それじゃ、俺はこれが伝えたかっただけだから。また後で学校でな」

「おう」


 一晩で20万人増加、か。

 改めて考えても凄いな。


「あ、桃田ネルのチャンネルはどうなったんだろう」


 俺は桃田ネルのチャンネルを開き、チャンネル登録者数を確認する。


「お、こっちもいい感じだ」


 桃田ネルのチャンネル登録者数は約110万人になっていた。

 増えた、というよりは炎上前の数字に戻っているような感じだ。俺はこの数字を見ただけでも昨日の配信をした意味を感じることができ、ホッとした。


 今日はいい気分で学校に行くことができそうだ。


「ん? 学校……?」


 俺は時計を見た。

 その時計は、すでに八時を過ぎていた。


「やっば! もうこんな時間!? 早く準備して出ないと!」


 俺は急いで準備して、学校へと向かった。


 ♢


「あっぶねえ、遅刻するところだった」

「お、やっと来たか」


 教室に着くと、涼がニヤニヤしながら俺に向かって手を振っていた。

 余裕の表情しやがって。


「涼がネットニュースのことを電話で教えたせいでもあるんだぞ」

「まあまあ、落ち着けって。いい報告だったんだから、いいじゃねえか」

「それはそうだけどな」

「俺も昨日の配信見てたぜ。結構いい感じだったと思うよ」

「お、本当か?」

「ああ、二人とも楽しそうに見えたぞ。それに、配信後にSNSでも良い意味で話題になってたからな」


 ネットニュースになっているんだから、SNSで話題になってないわけないよな。


「とりあえず、最初のコラボ配信が上手くいって良かったよ」

「そうだな。姉ちゃんも喜んでたよ」


 里香さんもこのネットニュースの件には気づいているってことか。

 あ、そうだ。配信のアーカイブでコメントを確認するって言ってたけど、大丈夫だったのだろうか。


「そういえば、里香さんがアーカイブでコメント確認するって言ってたんだけど、大丈夫だった?」

「そのことなら問題ないよ。アンチコメントもあったけど応援してくれてるコメントも多くて良かったって言ってたし」

「それなら良かった」

「今日もコラボ配信するのか?」

「いやぁ、どうだろう。今日はしないんじゃないかな。俺も自分の視聴者の反応が気になるからソロ配信もしておきたいからね」

「たしかに、そうだな。暇だったらその配信も見とくわ」

「ちょっと恥ずかしいけど、わかった」


 涼は俺だけの配信も視聴しようとしているらしい。

 嬉しいのだが、やっぱり親友に俺の活動を見られるのはどこか気恥ずかしい。


「帰ったら配信するかぁ」


 どれくらいの頻度でコラボ配信をしていくのかまだ分からないが、コラボ配信のない日はできるだけソロで配信して自分のファンの反応も確かめておくべきだろう。

 恐らく今日の配信では、主に昨日の桃田ネルとの配信内容について話すことになるんだろうな。


 ファンもその話題を聞きたがっているだろうからな。


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