第7話 弟の親友
俺の紹介を終えたところで、桃田ネルは何故コラボ相手が俺なのかという話を始める。
恐らく、視聴者が一番気になっている部分だろう。
「なんで葵くんがコラボ相手に選ばれたのかっていう理由なんだけど、それは、葵くんが私の弟の親友なんだよね」
その発言の直後、コメント欄の動きが早くなる。
【ライブコメント】
:あの件の男の声、本当に弟だったの?
:俺はあの声の正体がネルちゃんの弟だって信じてたよ!
:偶然、弟の親友が空星葵だったのか
:そんなわけねえだろ
:嘘つくのうまいねぇ
桃田ネルの発言を信じている者もいれば、信じていない者もいた。
信じていない者のほとんどは、あの件をきっかけにファンからアンチになってしまった人たちだろう。
配信のコメント欄を見た感じだとアンチコメントよりも信じてくれている人たちのコメントの方が多いように感じる。
俺自身も桃田ネルの弟の親友であることを配信を視聴しているみんなに向けて話す。
「俺も初めて知ったときはビックリしたんですよね。ネルさんの弟の方から直接聞いたんですけど、マジでビックリしましたよ」
「さすがにビックリするよね。私も葵くんが弟の親友だって初めて知ったときはそんなことある!? って感じだったもんね」
コメント欄で、「ネルちゃんは元々、葵くんのことを知ってたの?」という質問が目に入った。質問の内容的にアンチコメントではないようだったので、この質問があったことを伝える。
「コメントで、元から俺のことを知っていたのかを聞いてる質問があるっぽいんですけど、どうなんですか?」
俺は、答えを知っていたが
その方が配信の流れ的にも最適だという判断をしたからだ。
それは、桃田ネルも察したようで、答え始める。
「実は、弟の親友だって発覚する前から知ってたよ。めっちゃ葵くんの配信見てたし」
「そうなんですね、嬉しいなぁ」
「そういう葵くんはどうなの?」
桃田ネルも俺と同じように答えを知りながらも俺に質問をしてきた。
「俺も同じですよ。親友のお姉ちゃんだって発覚する前から知ってましたよ。結構ネルさんの配信見てましたから。というか、俺がVTuberになる前から知ってました」
「そうだったんだ。そんなことあるんだね」
「というか、VTuberでネルさんを知らない人なんていないでしょ!」
「そうかな? いると思うけどなぁ」
「いや、いるわけないでしょ」
コメント欄でも俺と同じように「VTuberでネルちゃんを知らない人は絶対いない」という俺に同意するコメントが多く見られた。
その後も俺たちは細心の注意を払いながら約30分ほど談笑してから、配信を終えた。
初のコラボ配信としては悪くない出来だったのではないだろうか。
「ふぅ、疲れた~」
「お疲れ様です、里香さん」
配信を終えたので俺は呼び方を「里香さん」に戻した。
里香さんも発言に気を付けながら今日の配信を行っていたのだろう。一気に疲労を感じ始めているのが通話越しの声からでも分かった。
「悠太くんもありがとうね。これからも一緒に配信することが多くなるとは思うけど、改めてよろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「あ、そうだ。配信中、言われた通りにコメント欄は見ないようにしてたんだけど、どんな感じだった?」
「あー、聞きます?」
「その反応、いい反応ばかりじゃなかったんだね?」
「でも、応援してくれてる視聴者の方が多い感じでしたよ」
やはり見ないようにしていてもどういう反応があったのかは気になっていたのだろう。
「いい反応が多かったならよかった。後でどんなコメントがあったのか配信のアーカイブ確認してもいいかな?」
「うーん、こういうときってどうしても良くないコメントに目が行ってしまいがちになると思うんですけど、大丈夫ですか?」
「それは確かにそうだけど、やっぱり視聴者の反応をちゃんと受け止めるのもVTuberとして必要だと思うの」
「分かりました。それなら俺は止めないでおきます。もし、アンチコメントのせいで辛くなったらいつでも俺を呼んでください。すぐに駆けつけますから」
「それは頼もしいね。それじゃあ、その時はよろしくね」
「はい、もちろんです」
里香さんは疲れていると思ったので、俺たちはここで通話を終えた。
里香さんの話を聞いていて、やっぱりすごい人だなと感激した。
どんな状況であっても視聴者の意見を受け止めようとするその姿勢がとてもかっこよく見えた。
「これが俺の憧れたVTuberなんだ」
自然とその言葉が口から出ていた。
俺も里香さんの助けになれるように頑張りたい、と心の底からそう思った。
今回の配信が桃田ネルにとっていい方向に進んでいってくれるといいな。
それに、俺にとってもメリットが大きい。
桃田ネルと一緒にコラボ配信をしていくことで、俺の配信の幅も広がっていくことにつながるだろう。
そう考えると、俺は不安はあるがそれ以上に楽しみで仕方がない。
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