第5話 個人勢の強み

 翌日。

 俺はいつものように教室の自分の席に座り、涼と話をしていたのだが、やはり落ち着かない。


 今でも夢なんじゃないかと思ったりする。


 昨日、桃田ネルを炎上から救う策を見つけ出すために涼の家で話し合った。

 解決策は見つかり良かったのだが、俺が男性VTuberとのコラボを提案したら、まさかの俺がコラボ相手として指名されてしまった。


 もちろん、推しとコラボができるのは嬉しい。

 だけど、本当に俺でいいのか不安になってしまう。


「なあ、本当に俺でいいのかな?」

「おいおい、まだ言ってるのかよ。もう決まったことだろ? それに、お前以外の男性VTuberとコラボしても上手くいかないぞ」


 他の男性VTuberとコラボしても上手くいかない?

 いったい何を言っている。俺よりも凄いVTuberはたくさんいるだろう。その人たちとのコラボが上手くいかなくて俺とは上手くいくなんてことがあり得るのか?


「どうして俺以外の男性VTuberとのコラボは上手くいかないって分かるんだ?」

「そりゃあ、俺の姉ちゃんは男が苦手だからだよ。もちろん、悠太と俺は大丈夫だ」

「……え? どういうこと?」

「そのままの意味だよ。姉ちゃんは元々男の人と絡むのを嫌がるんだ。だから、コラボ相手に悠太を指名したんだと思う」


 そうだったのか。

 男の人との絡みを苦手としていたのか。


 それなら、俺はとんでもない提案をしてしまったかもしれない。だけど、俺ならいいんだな。

 それは、俺のことを推してくれているからなのかな。


「俺とコラボするのは大丈夫な理由って、俺を推してくれているからか?」

「もちろんそれもあるんだろうけど、一番の理由は別にあると思う」

「別の理由?」

「ああ。これは、俺からは言わない方がいいかもしれない」

「なんでだよ」

「まあ、そのうち姉ちゃんが教えてくれるよ。それに、悠太はVTuberの事務所に所属していない個人勢VTuberだろ?」

「そうだな」

「だから悠太がコラボした方が良いのは事実じゃない? 他事務所に所属しているVTuberとコラボしたらそれこそ炎上のリスクが上がる」

「たしかに……」


 涼はよく見ているな。

 たしかに、俺は個人勢のVTuberだから良いが、もし桃田ネルが他事務所に所属しているVTuberとコラボしたらコラボした相手だけではなくその人の所属している事務所のほかのVTuberにまで火の粉が降りかかってしまうかもしれない。


 桃田ネルは日本で一番大きなVTuber事務所の『ぶいすとりーむ』に所属しており、その事務所のファンたちの中には他事務所とのコラボを良く思わない人たちも当然いる。

 それどころか、コラボ相手の事務所のVTuberをネット上で叩き始める人までいる。もちろん、そんなことをするのは少数派だが。


 そう考えると、個人勢VTuberの俺は桃田ネルのコラボ相手としては適任なのかもしれないな。

 もし叩かれるとしても俺だけになる。事務所に所属していないから事務所に所属しているVTuberよりは悪影響が少ないだろう。



「俺も姉ちゃんがコラボ相手が悠太なら何の心配もないな」

「なんだ涼。実はシスコンだったのか?」

「なっ! ち、ちげぇよ! ただ、男との絡みを嫌がる姉ちゃんが心配だっただけだ。悠太なら別にいいんだけどな」

「そういうことにしとくか」

「信じてなさそうだけど、まあいいや。それで、いつコラボ配信をするんだ? 早い方が良いだろ」

「一応、今日帰宅後の予定だよ」

「なるほどな。俺も配信見ながら応援しとくよ」

「ありがとな。でも、コメント欄は見ない方が良いぞ。多分、最初はアンチコメントをする人が出てくると思うから」

「りょーかいっ」


 俺は昨日、涼の家を出る直前に里香さんとメッセージアプリの連絡先と、ゲームをしながら使用できる通話アプリの連絡先を交換した。

 帰宅後にメッセージアプリで話し、今日、コラボ配信を行うことに決めたのだ。


 というか、涼も今日のコラボ配信を見るんだな。

 親友に配信を見られるのは少し恥ずかしいのだが、まあ良しとしておこう。涼も今回の配信が上手くいくことを願ってくれているのだろう。


「頑張るか」


 俺は一言だけそう呟いた。


 ♢


 学校を終え、帰宅した俺はすぐに自分の部屋のパソコンを起動し、配信の準備を始めた。


「里香さんはまだ帰宅してないかな」


 ほぼ毎日、配信をしているので準備にそう長くは掛からなかったため、俺はスマホでSNSを確認する。


「今日はどんな話題で世間は盛り上がっているんだろう」


 SNSのトレンドランキングの欄を見る。

 そこには、驚きの内容があった。


 トレンドランキングの1位の部分に、『桃田ネルの重大配信』というワードが書かれていた。

 なんでもうバレてるんだ。


 俺は普段、配信を行っているサイトの『YooTube』を急いで開き、桃田ネルのチャンネルを確認する。


「そういうことか」


 桃田ネルのチャンネルにはすでに今日行うコラボ配信の枠ができており、サムネイルには黒い背景に白色の文字で『重大配信』と書かれていた。

 これを見た多くの視聴者がSNS上で呟いたことでトレンドランキングの1位に載っていたのだろう。


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