第4話 救う方法
「そろそろ本題に入ってもいいんじゃないか?」
涼は俺と里香さんの顔を見てそう言った。
たしかに、色々と話したことで少しは緊張が和らいできたので、本題である里香さんを炎上から救う方法について話し合ってもいい頃だろう。
俺は涼にむかってこくり、と頷いた。
そんな俺たちを見た里香さんは俺たちが何のことを言っているのか分かっておらず、困惑しているようだ。
里香さんは俺がここに来た理由が炎上から救う方法を見つけるためだとは思ってはいないのだろう。
「実は俺がここに来た理由があるんです」
「え、私と話せば私の気が楽になるからでしょ?」
「いえ、それ以外にもあるんです」
「そ、そうなの?」
一度だけ深呼吸をしてから、俺は本題について話し始める。
「俺がここに来たのは、里香さん、つまり桃田ネルを炎上から救う方法を見つけるためなんです!」
「……っ!?」
俺の言葉を聞いた里香さんは驚きのあまり言葉を失っているようだ。
「里香さん、大丈夫ですか?」
「え、う、うん。今言ったこと、本当?」
「はい、本当です。俺は里香さんを助けたいんです」
「でも、それは悠太くんに迷惑が……」
「そんなこと気にしないでいいんです。それに、桃田ネルは俺の推し、ですから。推しが傷ついている姿は見たくないです……」
「推し、か。涼から悠太くんが桃田ネルを推してくれているって聞いたことがあったけど本当だったんだね」
「はい、桃田ネルの配信を見て、憧れて、俺もVTuberの活動を始めましたから」
「そっか。もう一度だけ聞くね。悠太くんは本当にいいの?」
俺の話を聞いた里香さんは改めて俺の本心を確かめようと聞いてきた。
何度聞かれたとしても俺の気持ちは変わらない。推しの辛そうな姿を見たくない。だから、絶対に助ける。
俺はその気持ちをもう一度伝える。
「俺の気持ちは変わりません。必ず助ける方法を見つけ出します」
「そっか……。悠太くん、ありがとう。本当は私が一人で何とかしないといけない問題なのに、ありがとうっ……」
やはり、本当は辛かったのだろう。
里香さんは涙を流した。
一人で抱え込もうとしていたんだ。
「大丈夫ですよ、里香さん。里香さんは悪いことをしたわけじゃないんですから。絶対に大丈夫」
「うん……、そうだよね。ありがとう、悠太くん……」
隣に座っている涼の方を見てみると、涼も里香さんと同じように涙を流していた。
涼は自分のせいで里香さんが炎上してしまったと感じていたからな。
解決策を見つけて、二人を救いたい。
「それじゃあ、解決策を考えていきましょう」
「う、うん」
解決策を見つけるにはまず何故この件が炎上したのかを考えてみる。
もし、別のVTuberなら同じことが起きたとしても炎上していなかった可能性はないか?
例えば、普段から恋人がいると公言しているVTuberなら炎上しなかっただろう。
まあ、これは当たり前だな。
今回の件と同じことをして炎上するか、しないかの差は、恐らくファン層の違いにある。
桃田ネルはよく歌を歌う配信をしたり、雑談の配信をしたりしている。もちろん、ゲーム配信もするのだが、ファンからはアイドルのような扱われ方をしている。
アイドルのような扱いをするファンが多いため、少しでも男の声が配信にのったら彼氏だと断定し、叩く。
さっきまで応援していた推しをネット上で叩きまくるのだ。過剰なほどに。
恐らく、桃田ネルのファンは男性が多い。
桃田ネルの今までの配信スタイルが男性に好まれやすいものだったのだろう。
一応、確認してみるか。
「一つ気になったんですけど、視聴者の男女比率ってどのくらいですか?」
「えっ、男女比率?」
「はい」
「たしか、男性が9割以上で、女性は1割以下だったと思う」
「やっぱりそうですか」
「それがどうかしたの?」
男性9割以上、女性1割以下、か。
やはり、予想は正しかったな。だが、これを少し見直す必要があるかもしれない。
桃田ネルの炎上で叩いている人の多くは男性だったはず。女性でそういうことをSNSに投稿している人はほとんどいなかったからな。
俺が気づいてないだけで、いるのかもしれないが。
とりあえず、これは見直す必要があるかもしれない。だが、それには本人の意思確認が必要だ。
男女比率を見直すには配信のスタイルも多少変える必要があるからだ。
だから、本人の意思を無視することはできない。
「配信のスタイルを少し変えて男女比率をできるだけ男性5割、女性5割に近づけるべきだと思います」
「なるほど。でも、どうすればいいの?」
男女比率を変えるには、最も適切な方法か。
それは、恐らく男性のVTuberとのコラボ、もしくはコンビの結成だな。
VTuberの世界では、仲の良い男女VTuberが頻繁にコラボして人気を得ていたりする。だが、俺の記憶が正しければ、桃田ネルは今まで男性VTuberとコラボ配信をしたことがなかったはずだ。
「男性VTuberとコラボの機会を増やすべきだと思います」
「そんなことしたらまた叩かれない?」
「最初のうちは何かと言ってくる人はいると思います。でも、続けていけばそんなこと言う人はほとんどいなくなると思います。だから、最初のうちはあまりコメント欄を見ずに配信した方がいいかもしれないです」
「なるほどね。わかった、悠太くんの提案を受けるよ!」
「本当ですか?! ありがとうございます!」
「ただ、条件がある」
「条件……ですか?」
里香さんは俺の提案を受け入れてくれた。
これで、里香さんを助けられるかもしれない。正直、実行してみないことにはどうなるか分からないけどな。
でも、条件ってなんだろう。
里香さんはにっこりと可愛らしい笑顔を見せながら俺を指差した。
「そのコラボ相手は、悠太くんにしてね!」
「……え!? 俺ですか!?」
「うんっ! これからよろしくね!」
何故かは分からないが、里香さんはコラボ相手の男性VTuberに俺を指名してきた。
俺は訳が分からずに混乱していたが、隣にいる涼はニヤニヤしながら俺の顔を見ていた。
予想外過ぎる展開になってしまった。
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