勢い任せの日常
板谷空炉
本文
今日も駄目な日だった。
いやどちらかと言うと、周囲に圧倒されて自分の無力さを痛感した日だった。
周りは出来る人ばかりだ。その一方で、自分は何も出来ない。
「私も出来ないよ安心して!」と声を掛ける人間の八割は、自分より優れていると思ってる。一種の詐欺だ。
だからと言って出来る人の近くに行って学ぼうとすると、場違い感が強い。本当にここにいて良いのか、逆に早く死んで来世に回したほうが良いのではないか。
そう思ってしまう。
まあどうせ、誰も自分の気持ちなんて分かってくれないだろう。
分かると言われても、分かったつもりになっている人間が多すぎる。
もう、そんなのはうんざりだ。
生きる意味も希望も何も無い。
惰性の日々なら、死んだ方が良いのかもしれない。
──夕日が目に染みる。
もしも死ぬんだったら、眩しいくらいの栄光はいらない。でもどうか、太陽の当たるところで死んで行きたい。それすらも贅沢なのかもしれないが、願うだけならタダだろう。
そうして、眩しすぎるオレンジ色の光に手をかざした。手は逆光になっているものの、指と指の隙間から光が漏れる。
あ、ささくれだ。
自分の手にささくれが出来ていたなんて、知りもしなかった。
でも思う。
ささくれって元々は自分の皮膚の一部で身体を守ってくれているものだったのに、皮が少しだけ、ぺろりと剥けただけで邪魔物扱いされて切られてしまう。
なんというか、まあ……。
今の自分を例えるなら、このささくれなのかもしれない。
周りと違っている、周りよりも劣っている。それだけで価値がなくなる。
……人生で初めてだ。ささくれに感情移入したのは。
だからこそささくれ、お前には希望がある。これからがある。夢がある。
早く転生して新しい日々を歩み、今よりも幸せになってくれ。
そうして、勢いでささくれを抜いた。呆気なく取れ、想像よりも痛くなかった。
そっか、怖くないのか……。
ささくれ、待ってて欲しい。
もうすぐそっちに行くから。
勢い任せの日常 板谷空炉 @Scallops_Itaya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます