幕間「天狐の想い/エルフの決意」
「あぁ、おにいちゃん……」
リリはディルの実妹であるレスティアの記憶を取り戻してからより愛が重くなっていた。
元々レスティアは病魔に侵されていたため、外の世界を知らず、ディルが世界の全てだった。
そのため天狐族の習性である執着心にさらに拍車がかかっているのだ。
「こんなに大好きなのに……ずっとくっついていたいのに」
それでもリリは一人でディルを独占しようとはしていない。したいけれど、なんとか我慢しているというのが正しいだろうか。
「でも、誰かに取られちゃうかも……そんなのは嫌」
リリが危険視しているのは孤児院の子だとディリー、ミィの二人で、サリシャは少し危ないかも、くらいだ。
そしてディルの後輩であるミリアだ。ミリアは明らかに好意を寄せており、何度も会っているわけではないが、初見でリリの危険人物リスト入りした。
ちなみに同じく後輩のセラフィは除外されている。また、魔王近衛兵であるステラはあまりにも接点がないため、リリのリスト上に存在していない。
「でも、おにいちゃんはこのままだとわたしを恋愛対象にはしてくれない」
リリは理解していた。孤児院の子たちを見るディルの目は、かつての自分であるレティシアに向けられていたものと同じだと。
それは親愛に満ちた優しい目。とても嬉しいことだが、それでは目標であるディルと恋仲になることは叶わない。
それどころかほぼ確実にミリアや他の人に取られてしまうと危惧していた。
「一夫多妻は嫌だけど……わたし一人じゃきびしいかも」
そうしてリリの頭に浮かぶイメージ。例えば自分とディリーとミィ、もしかするとサリシャも、一緒に恋仲になったとすればどうだろうか。
「ぐぬぬー……」
嫌だ。天狐族の本能である独占欲がそれを許さない。しかし、このままディルを失うわけにはいかない。
そうなれば、他の子、テオとラブラブなミレイを除いた子たちと協力してディルを手に入れる方がマシである。
ディルは誰かを贔屓するようなことはしない。だから彼の愛はみんなに平等に向くだろう。それも苦しいが、ディルを失うよりはいい。
リリは悩み続けていた。ただ、できれば自分がレティシアだとはバレたくない。
そうなると、恋仲になるという土俵にも上がれなくなるからだ。あくまで『家族』としての立ち位置が限界になるだろう。
「もう協力するしかないかぁ」
一人でできることには限界があるし、ディルを囲い込むなら人数がいたほうが良いだろう。
「まず、ミィに話してみよう」
こうして、リリは独占欲という本能に打ち勝ち、協力してディルを囲い込むという選択を選び取った。
しかし、目の奥に潜むドロリとした感情は消えていない。
◇◆◇◆
ハーフエルフであるミィはディルのローブや上着に包まれて幸福感を味わっている。
しかし、それだけで満足できなくなってきているのも事実だ。
二人きりで出かけたときや、ディルに抱きかかえられているときの幸福感を知ってしまっているから。
「ディルにーちゃん……」
ミィは少し物足りなさそうな表情でローブや上着に顔をすりつける。
ディルのお嫁さんになるという目標は簡単ではない。
リリやディリーといった強力なライバルがいるからだ。自分以上にかなり積極的にディルに甘え、くっついているのは見ていて妬けてくるが、羨ましくもある。
「どーすればいいのー」
だからミィは悩んでいる。もっとディルにくっつきたい、もっと触れて欲しい、自分だけの騎士になって欲しい。
最近は騎士物語も恋愛物ばかりを読んでいる。ディルはこのことに少し違和感を覚えたが、気にするところまではいっていない。
ミレイに相談すると、最近は『告白しちゃえば!』とアドバイスをされる。
だが、ディルがそれを真剣に受け取らないだろうことは、なんとなく理解していた。
「ミィにはむずかしいの……」
この状況を打ち破るにはどうすればいいか。ミィは自分一人でどうこうできる気がしないのだ。
「……リリに話すかな」
ディルにべったりランキングトップのリリに自分の気持ちを打ち明ける。
その上で一緒に、ちょっと嫉妬しそうだけどディルをみんなのものにする、そんなことを考えていた。
「ねえ、ミィ」
「リリー」
ここから少しずつディルの包囲網が形成されていくことを彼は全く知らない。
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