女神顕現編
第1話「常時顕現」
魔族領での小旅行が終わって今は孤児院に戻っている。今回は二度目の飲み会が近衛兵の任務と被っていたため、開催されることはなかった。次回に期待だ。
そして夜、俺は顕現しているリーシアを目の前にしている。姿は相変わらず子どものままだ。
「リーシア」
「はい」
「俺のことはディルって呼んでいいからな」
今更だが、『貴方様』とか『主様』とか呼ばれるのは少しむず痒い。普通に名前で呼んでもらいたいものだ。
「すみません。貴方様に不敬を働くわけにはいかないものですから」
「えぇ……」
いやいや、不敬も何もないんだけどな。むしろ女神にタメ口をきいている俺の方が不敬なのではと思ってしまう。それもまた今更だけど。
「お許しください。こればかりは私も譲れないところです」
「そうか。わかったよ。じゃあそのままにしよう」
「仰せのままに。ありがとうございます」
そういえばリーシアの力はどれほど回復したのだろうか。
「力はどれくらい戻ってるんだ?」
「この姿であれば今のところ日中の常時顕現は可能です。貴方様の就寝に合わせて魔力化さえできればですが」
「そうなのか。ならもう孤児院の子たちと顔合わせしてもいいかもな」
「そうですね。早めにご挨拶はしておきたいと思います」
ということで、レスターさんにこのことを伝え、明日にでもみんなに紹介することにした。
あまり女神とかそういうことは言いたくないが、夜になると魔力化で姿もなくなるし、ここは素直に女神だと話すことにしよう。
信じるも信じないも子どもたち次第だ。
「今日は寝るか」
「では、私は魔力化しますね」
こうして今日のところは寝ることにした。リーシアは魔力化して俺の中に溶け込む。
「シロ、おいで」
「きゅい♪」
リーシアに慣れていないのか微妙に距離をおいているシロを呼んでやる。
「おやすみな」
「きゅっ♪」
◇◆◇◆
翌朝、ディーちゃんとリリが一緒に起きてきた。
リーシアはすでに姿を現している。
「ディル様〜、おはよ……う?」
「おはよう。おにいちゃ……え?」
「おはようございます、ディリー様、リリ様」
「おはよう」
そういう反応になるよね。朝起きてきたら少し年上の知らない女の子がいるのだから。
とりあえず紹介はあとにすることを伝え、顔を洗ったり朝のルーティンをやるよう二人には話した。
幻でも見ているかのような反応をしながら、二人は洗面所へ姿を消す。
「驚いてたな……予想通りだけど」
「そうですね。可愛らしい反応でした」
その後、ミィちゃんとミレイちゃんが起きてきて、目を丸くしていた。何か訳アリなのだろうと思ったのか、この二人はあまり声に出して驚くことはなかった。
そしてテオ、ギャラン、サリー。寝坊常習犯の三人は騒いでいた。
「あ、兄貴! 新入りか!?」
「ディルにい、この子は!?」
「ディルよ! 何があったのじゃ!?」
「あとでね。まず顔を洗ってきなさい」
「「「は、はーい……」」」
さて、俺は朝食の準備を手伝うとするかな。ちなみにミレイちゃんはそわそわしいたよ。
レスターさんも含め、全員が食卓に揃った。みんないつもより静かだ。原因はリーシアにあることはわかりきっているけど。
「みんなに紹介するね。この子はリーシア。子どもみたいな姿だけど、俺がみんなを守る力を貸してくれている女神様、かな」
「リーシアです。これからよろしくお願いいたします」
『よろしく!』
新しい仲間が増えたような感覚なのだろう。ここの子たちの受け入れはとてもスムーズだった。
「一応、普段はこの姿だけど、もう少ししたり大人になるからね」
「え? お、おとな?」
いち早く反応したのはリリだった。
「リーシア」
「はい」
『消えた!?』
その前にまず、女神っぽいことをしてもらう。魔力化だ。これにはみんなもかなり衝撃を受けているようだった。
「リーシア、戻ってきて」
そして再び姿を現す。
「女神様だから、こういうこともできるんた。今はまだ力がちゃんと戻っていないから、子どもの姿だけど、本当は大人なんだよ」
「そ、そうなんだ……」
また、ライバルが増えるの? というリリの呟きは俺の耳に届くことはなかった。
「そういうことだから、もちろん一緒に遊んだりもできるからね。これからよろしく頼むよ」
『わかったー!』
「よし、それじゃ冷める前にご飯を食べようか」
こうしてリーシアの紹介は終わった。リーシアは食事も普通に摂れるようで、力の回復に役立つのだそう。
美味しそうに食事をしているリーシアを見ていると、女神というよりやっぱり普通の子どものようで可愛らしい。
今日からまた新たな仲間が一人増えて、孤児院での穏やかな生活が始まる。
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