第11話「夫婦は止まらない その2」

 今日の予定も午前中は訓練に参加、午後はみんなと出かけることになっている。

 明日も同じようなスケジュールで、明後日には孤児院に戻ることになっている。


「ディル君、今日は私と一緒に!」


 珍しくステラさんが俺の剣術を見てくれることになった。

 大抵実戦的な訓練をしているのだが、今日は何かあったのだろうか。


「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね。最後に手合わせもいいかな?」


 手合わせとは結界を破れるか挑戦することだ。剣術できちんと手合わせらしい手合わせをするには俺はまだまだ実力不足だ。


「うん、ディル君はやっぱり筋が良いね。もうそろそろ少し実戦的な動きもやってみようか?」

「まじですか? やりたいです」

「じゃあ基本的な打ち込みからやろう」

「お願いします」


 やはり実戦的なやりとりをするのは面白い。まだまだ基本的な部分をゆっくりと確認する感じだが、満足感が違う。

 時より構えの確認などでステラさんの胸が背中に当たるのが気になるが、そんなことを気にすることは失礼だろう。


「ディル君、やっぱり近衛兵いいんじゃない?」

「ははは。俺は孤児院一筋ですって」


 魔王近衛兵に誘われるくらいには信頼してもらえていると思うと嬉しい。

 もちろん、俺は孤児院が一番なので正式に加入することはないだろう。というか、所属国が王国なので無理なんだよな。

 たしか王国と魔王国では協定があったはずだ。


「もお〜、つれないなぁ」

「それでもここは本当に良いところだと思いますよ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいな」


 俺としてはキルトンたち同年代の友人がいるし、本当に心地良いんだよな。

 王国騎士団のセラフィやミリアたち後輩とも引けをとらないと思っている。

 同年代との飲み会だって初めてはここでだし、付き合いはまだまだ短いけど思い入れがある場所だ。


「よーし、最後にいいかな?」

「結界ですね。オッケーですよ」


 ステラさんは抜剣術という剣術を主体としている。

 正直、俺が見た剣術で一番かっこいいと思っている。

 鞘から剣を引き抜いた瞬間に視界から消え、気付いたら背後やら真横から斬撃が飛んでくる。

 もちろん俺は目で追うことができないし、寧ろキルトンやハイラさんのように目で追って対応しているのは意味がわからない。

 どんな動体視力をしているのやら。その目に映る世界を見てみたいよ。


「抜剣――血染め」


 瞬間、俺の背後と右側から同時に剣戟が飛んでくる。

 対人保護結界で耐えられるが、毎回ビクッとなってしまう。


「あー、ダメだったか。ガチガチだね〜」

「俺も鍛練してますからね!」

「ううー……。次こそはっ!」


 ただ、抜剣術を受けるたびに威力が上がっている感じはするので、俺もうかうかしていられないと思う。

 こうやって高め合うのも理想だったんだよな。王国騎士団ではセラフィがそんな感じだった。

 今日の訓練も満足度の高いものだった。日々のモチベーションに繋がるんだよね。




◇◆◇◆




「母上、どうしたのじゃ?」

「ディル君のお嫁さんになりたいと思う?」


 サリエンテはど直球でサリシャに問いかけた。


「ふえっ?」


 サリシャは『お嫁さん』という言葉に反応して顔を赤らめる。

 常日頃からリリを筆頭とし、ディリー、ミィがディルのお嫁さんになりたいと言っているからだ。

 サリシャは照れ臭くてこのときに『我も……』とはっきり言えないままいたのである。

 ちなみにミレイはお姉さんぶるのでその様子をにこにこ眺めていることが多い。


 ただ、やはりお嫁さんになりたいというのは親愛からか恋慕からかは理解していない。

 リリは明らかな恋慕で、ミィは自覚は薄いけど恋慕寄り、ディリーはシロの件もあってもはや夫婦が既定路線のように考えている。


「わ、我は……ずっと一緒にいれるなら……なり、たいのじゃ」

「あらあら」


 サリシャは恐らく自分の気持ちを恋慕か親愛かわかっていない。ただ、ディルと一緒にいたい気持ちはある。

 それならもういいじゃないか、とサリエンテは納得する。

 サリシャの気持ちはもう問題ない。あとはディルのことをどのように説得するかだ。


「サリシャ、お嫁さんになりたいのなら沢山ディル君にくっつかないとダメよ? 他のお友達もそうじゃない?」

「むぅ……たしかに」


 サリシャもそれなりにディルにくっついているが、それ以上にベタベタなリリたちを思い出す。


「少しずつでいいの。頑張りなさい」

「ん! わかったのじゃー!」


 これからはもっとディルにくっついてみよう、と決意をしたサリシャであった。


「これからお出かけなのよね? いってらっしゃい」

「うん! またなのじゃ〜」




◇◆◇◆




「ディルよ、手をつなぐのじゃー」

「ん? 珍しいね。わかったよ」

「あ、わたしもー!」


 サリーが手を繋ごうって言ってくるのは珍しいな。

 リリはいつも通りだけども。

 さて、そんなことより今日の昼食は何にしようかな。


「何か食べたいものはあるかい?」

「ボクはラーメン!」

「みんなもおっけーかな?」

『おっけー!』


 今日は妙にサリーの距離感がいつもと違う感じがした。

 気のせいだろうか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る