第9話「女神の力と創造魔法」

 その夜、俺はガネシャさんにお願いして闘技場に来ていた。


『リーシア』

『はい、顕現します』


「おおう……」


 直後、目の前に少女となったリーシアが現れる。こうやっていきなり出てくる感じはびっくりするよ。


「貴方様……」


 そして急に抱きつかれるという現象に見舞われていた。どう対応するべきなのだろうな。

 年齢的には子どもだし、とりあえず撫でておくか。


「ああ、触れていただいています……私はとても幸せです」


 兄が妹を撫でるような感覚というか、俺とリーシアの場合は父と娘みたいなものだろう。

 やましいことは何一つとしてない。


「午前中に話していたことなんだけど」

「私の力を行使するという話でしたね。まず今日のところは黄泉への誘いリーシエルから始めましょう」


 黄泉への誘いリーシエル、これは相手を粒子化し、消滅させる魔法のようだ。ダンジョン産の魔物と同じような感じに相手をしてしまうのか。


「私が手助けしますので、一度魔法を行使してみてください」

「わかった。黄泉への誘いリーシエル……。うぐっ……」


 なんだこれ。発動はしたみたいだが、魔力の消費量がおかしい、一発で頭痛がしてきた。よくてあと一発が限界だろう。


「やはり魔力消費が大きすぎますね。ここがクリアできれば問題なく行使は可能だと思います」

「なるほどな……」


 あとはこの魔法を今のように直接行使するか、結界と組み合わせるか。拘束魔法と合わせると面白いかもしれないな。

 基本のイメージは拘束魔法、そして抵抗してきた場合は魔力弾、ここまでは従来と同じだが、拘束を破壊するところまで抵抗した場合は黄泉への誘いリーシエルが発動するよう混ぜ込む。

 非常に有用そうだ。問題は魔力量だけど。拘束の力を今までより緩めるとかはアリかもしれない。ちょっとでも魔力節約って感じで。


「これを俺の拘束魔法に混ぜた場合は魔力消費的にどうなると思う?」

「ベースが貴方様の結界魔法なので、それだけで魔力消費は節約できるかと思います。ただ、それでも現状は二者程度の拘束が限界でしょう」

「そうかー……まずはさらなる魔力量の底上げが課題になってきそうだな」


 あ、そうだ。他にも確認することがあったんだ。


「なあ、リーシア。例えば黄泉への誘いリーシエルって腕『だけ』とかを対象にすることはできるのか?」

「可能です。ただ斬り落とすのと異なるのは、黄泉への誘いリーシエルで対象となった部位は消滅するので、回復魔法で接合することがそもそも不能になることでしょうか」

「ふむふむ。魔物相手だとして、再生は?」

「不可能です。消滅し、元々なかったものになるので、再生するものは何も存在しない、ということになります」


 有用すぎませんかね。乱発はできないが、使いようによっては討伐もかなり楽になるよな。

 例えば魔龍の尻尾をピンポイントで潰すとか。拘束した手足を潰すとか。それだけで実質討伐成功になるほどに強力だ。

 まずは黄泉への誘いリーシエルを使えるようになるまで、二つ目はお預けだな。たしか『深淵との扉を開く』だっけ。


「深淵との扉を開く魔法は俺の魔力的にどうだ?」

「現状では明らかに不足しています。魔力欠乏を起こし、魔法も発動しないでしょう」

「想像通りだな。わかった」


 よし、黄泉への誘いリーシエルから実用化していこう。

 二つ目はそのあとの楽しみということで。モチベーションが上がるな、本当に。


 その後、早速訓練用のカカシを相手に魔法を行使してみることにした。これもガネシャさんから許可を得ている。

 うーん、創造魔法名はどうするか。いや、ここは悩むより直感だな。


黄泉へ誘う女神の拘束レスト・エル・リーシア


 拘束魔法の色がドス黒く変化していた。カカシの腕に狙いを定めたが、それも問題はなさそうだ。


「んー……」


 ただ、もうこれ以上は発動できないな。今の魔力量では実用性に欠けるかもしれない。

 それにカカシは抵抗してこないので、実際の効果を確認することができない。

 人相手に練習で使うものでもないしな。


「貴方様、問題なく消滅の効果は付与されていますよ。あとは魔力量だけですね」

「そこまでわかるのか。そうだね、魔力量を底上げするように鍛練するか……」

「二回発動しても余裕ができると実用的になるかもしれませんね」


 ほえ〜。今は一回の発動で余裕がなくなり、二回目でほぼ魔力枯渇、三回目は確実に魔力欠乏になるだろう。

 ただ、俺にも攻撃性の色濃い魔法が、と思うとモチベーションは高まるばかりだ。


「今日はもう休もうか」

「わかりました」




「寝るときは魔力化するのか?」

「そうなりますね。ただ、今日は貴方様のお隣で寝かせていただければと……」

「色々教えてもらえたかね。わかったよ」


 俺は未婚どころか恋人すらできたことがないのだが、どうもリーシアを娘みたいな感覚で見てしまう。

 魔力化だって言ってしまえば四六時中一緒にいたことになる。

 そこに自分が生み出した女神って要素が加わると見た目も相まって娘としか思えない。

 ということで一緒にシャワーを浴びてから寝ることにした。これはリーシアの希望で譲らなかった。


「ほら、おいで」

「はい……貴方様……」


 疲れていたせいか寝つきはとてもよかった。

 朝起きたときにすでにリーシアが魔力化しており、少しだけ寂しい気持ちになったのは秘密だ。

 常時顕現することはできても、体の成長のために魔力化していなければならないらしい。

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