第8話「魔人の一撃」
今日も朝から訓練に参加する。孤児院に戻るのは明々後日となった。
当初の予定から少し延びたけど、楽しいし寧ろありがたい。
「おはよう、キルトン」
「おう。おはよう」
「あ、ディル君だ〜! やっと会えた!」
魔人のレディオールさんだ。もうね、あまり良い予感がしない。
「今日さ、手合わせしてみない?」
「……わかりました」
もちろん、予感は当たった。ただ断るほどのことでもないし、受け入れる。それに、何か新しい話を聞けたりもしそうだから。
「手合わせならあっちでな!」
「ありがとう」
近衛兵たちが訓練をしているど真ん中で手合わせをするわけにはいかない。
そのため、場所を移動する。
「本当に今は平和だね」
「そうですね。種族間対立もほとんどないですし」
「それそれ、ほんとに驚いたよ」
レディオールさんの眠る前の世の中は相当酷かったのだろう。いつか詳しく聞いてみたい。
下手な歴史書より本物の歴史が学べるってわけだ。
「よし、それじゃ始めようか」
「結界展開しますね。
「相変わらず凄まじい結界だね。強度がここまでのものは見たことがなかったよ」
そして、手合わせというか結界を破れるかどうかの挑戦が始まった。
レディオールさんに無駄はない。ただその拳に魔力を込めて突撃してくる。
「いっくよー! そぉれぃ!!!!!」
バギィ、と嫌な音が鳴り、結界には見事にヒビが入った。とんでもない力だ。
これも生身で受けたら体が弾け飛ぶような一撃なのだろう。
「ありゃ、やっぱりダメか……僕の負けだ」
「俺ももっと鍛えないとならないですね。ヒビも入らないように頑張りますよ」
「お互いに切磋琢磨ってやつだね!」
「はい」
だが、レディオールさんにはまだかなりの余裕があると思う。拳も綺麗なままだし、本気なら結界を破壊されていたのではと感じるほどだ。
「レディオールさん、聞きたいことがあるのですが」
「どうしたの?」
「俺の結界ってどうすればもう一段上にいけると思いますか?」
「なるほどね、う〜ん……」
ガネシャさんとはあまりこういう話をする余裕がなかったからな。主に女神のことを聞いている感じだし。
「手を貸して」
「は、はい」
レディオールさんが俺の手を握ると、よくわからないがとても暖かい何かが流れてくるような気持ちになった。
「僕が言えるのは、女神の魔力との順応性をさらに上げることかな。まだムラがある。これは日々魔力を使っているからそのうち完全に適応すると思うよ。それと……」
凄い。思ったよりちゃんと回答してくれるじゃないか。
当然のように女神の魔力化とかもわかるんだね。魔人の見てる世界はどんなものなのだろうか。
「女神の力を応用した魔法を創造すると面白いかもね。多分、結界というよりは攻撃寄りの魔法になると思うけど」
どうしてそこまでわかるかは謎だが、レディオールさんのおかげで新たな目標ができた。
「的確にありがとうございます」
「いえいえ。僕もまた手合わせしたいからね。強くなってよ〜!」
「必ず期待に応えます」
「ふふ。楽しみだー!」
女神の力を応用する、か。新たな創造魔法ね。今は二つの創造魔法があるが、やはり俺の魔法は積極的な攻撃に向いていない。
これらに攻撃に向いている魔法が加われば、戦略の幅も広がるし、わくわくが止まらない。
早速リーシアに聞いてみよう。
『なあ、リーシア』
『はい。聞いておりました。私の力は黒刀に依存していますが、二つあります』
あの禍々しい刀か。本当にかっこいいんだよな。本心から使いたいと思うし。リーシア以外は使えないようだけど。
『一つは消滅、もう一つは深淵への扉を開くことです』
あの、リーシアって女神なんだよね。聞いてる感じ殺戮特化すぎないか。
なんだよ、深淵の扉を開くって。
『詳しく教えてもらえるかな?』
『はい。“消滅”については、その名の通り相手を消滅させることです。相手を粒子化させます』
ん? 粒子化させて消滅……? 何か覚えがある気がするけど、いいか。思い出せないならその程度のことなんだろう。
『次に“深淵との扉を開く”ことですが、これは深淵の主が敵対者を深淵に引き摺り込みます。私も深淵がどのようなものかはわかりませんし、引き摺り込まれた者がどうなるかもわかりません』
えぇ、怖すぎる力なんですけど。あの黒刀は一体何なんだ。
『その力を少しでも俺が行使することは?』
『私でも魔力消費が尋常ではないので、貴方様も魔力的に苦しいかもしれません。行使については可能かと……私の魔力が流れているので』
なるほど。え!? 行使可能!?
とうとうまともな攻撃魔法を使えるチャンスということか。
『今日の夜にでも教えてもらえたりする?』
『わかりました。そろそろ常時顕現できそうなので、夜までに準備をしておきます』
『あぁ、よろしく頼むよ』
何の準備が必要なのだろう。顕現するにも色々とあるのだろうし、あまり気にしないことにする。
「じゃあディル君、また遊ぼうね! 僕は散策に出かけるとするよ」
「はい、ありがとうございました。お気をつけて」
レディオールさんってなかなかの自由人だよな。一応、近衛兵ではあるはずだけど訓練をする気は微塵もないようだった。
まあ、その必要性がないほど完成されている気もするけど。
そんなことより、夜が楽しみだ。女神リーシアの力を行使した創造魔法なんてワクワクしないほうがおかしい。
夜のことを考えすぎて、気も漫ろな日中を過ごすこととなった。
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