第2話「久々のギルド」

 今日は久しぶりにギルドへやってきた。


「ディルさん、お久しぶりです」

「おはようございます。最近はなかなか時間がなくて」

「魔龍にスタンピードとドタバタしていましたからね……お話は聞いてます。お疲れ様でした」

「ありがとうございます」


 魔龍もスタンピードもギルドでの調査が絡んでいるから、俺が王国騎士団に混ざって参戦していたことも知っている。

 それはさておき、依頼だ依頼。珍しく指名手配がされているのか。えっと、奴隷売買かよ。


「これは最低だな……」


 現行犯で売買されそうになった子は保護、買おうとした者も捕縛、問題は指名手配されているやつか。

 奴隷商なのか単独なのかわからないが、見事に逃げられたらしい。新たな被害が生まれる前に捕まることを祈るだけだ。

 今日は依頼は少なめな日だった。討伐系が一切ない。この高級薬草の採取なら行けそうだからこれにしておくか。

 場所が魔物の出る地域だから報酬が高めに設定してあるし。帰りにチーズケーキとクッキーをお土産にして帰ろう。


「これでお願いします」

「採取ですね。よろしくお願いします」


 さて、出発しますか。多分片道一時間くらいだからサクサク動かないと帰りが遅くなってしまう。

 薬草採取のため、運び屋も必要がないから身一つで今日は気楽だ。道中はちらほら魔物がいたがこちらに反応しないため無視。実に都合よく目的地に到達した。


「気楽すぎる……」


 自動反撃結界を展開して、黙々と薬草採取に励む。この高級薬草は見た目がわかりやすいから俺でも簡単に探せるのだ。

 毒草と見分けがつきにくいものとかは厄介だからパスしている。あれをサクサク見分けて採取する人は素直に凄いと感心できる。


「あれは……ライオネルホーン……いや、ダメか。運べない……」


 少し遠くにライオネルホーンを見つけたが、今回は運び屋を雇っていないため諦める。

 自前で肉を調達できればかなり食費が浮くし、何より沢山食べさせてやることができる。


「次は狩りたいな……ちくしょー」


 ちょっぴり悔しいがどうしようもない。俺は黙々と薬草を採取する。買い取り上限がないからこの一帯でちまちまと採取できるだけするのだ。

 単価に危険手当も上乗せされているから本当にラッキーな依頼だと思うよ。


「すみませーーーん! 助けてください!!!」

「はえ?」


 狼人種の女の子がこちらに向かって走ってくる。その後ろにはライオネルホーン。おいおい、まじかよ。薬草を踏み抜かれるじゃないか。

 しかも、他人に魔物を擦り付けるような救援依頼は焦っているのだろうが常識としてダメだ。

 万が一、俺に一切戦闘の心得がなければ下手すれば死ぬ。そうすればこの子は生き残っても晴れて殺人罪で裁かれてしまうだろう。


「とりあえず俺の後ろにいて。拘束魔法」


 ライオネルホーンは図体が大きいので拘束しやすい。あとはなるべく苦しまないよう首を剣で突き刺す。一撃で仕留められなければ申し訳が立たない。


「よし、これで薬草も大丈夫か……」

「あの、すみませんでした……。本当にありがとうございます!」

「大丈夫だよ。でもね――」


 今回のこの子の動きの誤りを一応指摘しておいた。自分が助かったとしても最悪犯罪になりかねないということでかなり青ざめていたね。

 ただ、新人らしく、自分の許容範囲外の討伐依頼を受けていたようだ。それも対象はライオネルホーンではなく、こいつより上位の魔物。今回のようにライオネルホーンから逃げるようでは討伐もなにも死にに行くようなものだろう。

 それなれば討伐依頼、俺に譲って欲しいよ。制度上、そういうことは不正防止でできないけどさ。


「ということで、今回は諦めた方がいい。当日やむなく断念したくらいならペナルティもないはずだからさ」

「そうさせてもらいます……あたし、調子に乗りすぎてました……」


 最初は塩梅がわからない部分が多いだろうからね。ギルドの受付で止められないということは実力はあるのだろう。

 今回は単なる経験不足か。


「まあまあ、勉強になったと思って。あのさ、もしよければそのライオネルホーン運べたりする?」

「少し重いですけどあれくらいなら大丈夫かと」

「本当? それならさ、肉分け合わない?」


 これは思わぬ収穫だ。良い返事を期待する。


「……ぜひ、お願いします」


 超ラッキーだ! 力のある子だとは思ったが、ライオネルホーンを運べるとは。さすが狼人である。

 腕力は俺より明らかにあるし、戦闘も経験を積めばすぐにライオネルホーンなど瞬殺できるほどには成長するだろう。


「あと少し薬草を採取するから、血抜きしてもらっておいていいかい? あと、俺ディルっていうから。よろしくね」

「あたしはカリンです! よろしくお願いします。血抜きはしておきます!」

「頼んだよ」


 こうして、俺は薬草採取を終え、ライオネルホーンの肉にわくわくしながらカリンと王都へ戻った。

 ちなみに今回の救援依頼の仕方はギルドからペナルティが課せられるかどうか際どいところだったので、内容は俺が適当に問題ないよう報告しておいた。


「本当にありがとうございます。お肉までいただいてしまって」

「運んでくれた対価だよ。まあ、無理しないで少しずつ頑張ってね」

「ディルさん、もしよければ今度一緒に依頼とかお願いできたりは……」

「基本日帰りができるならオッケーだよ。カリンのことも心配だからな……」

「ありがとうございます!」


 せっかく知り合ったのに、気付いたら亡くなっているなんてことは避けたい。

 それに未来の冒険者の芽をここで摘ませるわけにはいかないからたまに依頼に同行することにした。いつとは言えないから会った時にでもね。

 とりあえず今日は肉を分け合って解散した。それなりの量が手に入ったので気持ちが晴れやかだ。あとはお土産を買って帰るだけかな。






「ただいまー。お土産たくさんあるぞー!」


 大量のお肉にチーズケーキとクッキー。美味しくいただきました。

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