恋の自覚編

第1話「無関心と関心」

 エルフは悠久の時を過ごす。それはもう『死』という概念にすら無関心になるほどに。

 ハーフエルフのミィはエルフの母と人族の父を持っていた。この子は両親の愛を受けられずに見捨てられてしまった。

 エルフの母は子を産んでから数年と経たずして自分の娘に関心を失ってしまった。同時に自分の夫にまで。

 妻に自分と子を残して見捨てられた夫は程なくして、ミィを見捨てた。この子を疫病神だと、そう信じて、一切の戸惑いなく見捨てたのだ。


 ミィは覚えていた。自分を捨て、振り返ることなく歩き去る父の背中を。そんな中、本当に運良くレスターに拾われて孤児院に来たというわけだ。

 もし、父ではなく、母しかいない状態で捨てられていたら森の奥で魔物の餌になっていたことだろう。


 この子はハーフとはいえエルフの血が入っているため、孤児院にきた当初は関心を示すものが少なかった。

 数少ない関心を示したこと、その一つが騎士物語である。たまたまレスターに読んでもらった物語がどうにも心に刺さったようだった。

 何かを守るために、決して何者も見捨てず、困難に立ち向かう姿。まさに自分を捨てた父と真逆の存在。それがミィの心に突き刺さっていた。


 そして、新たにこの子が関心を寄せたこと、それがディルの存在であった。本当の騎士であった存在。迷子になったあの日、自分を見捨てず手を取ってくれた騎士。

 ディルのローブ、つまり私物を所望するくらいには関心を寄せていた。そのローブに包まって眠っている時はとても幸せそうである。






「ミィだけの、騎士様」


 これは本気の恋であるのかもしれない。




◇◆◇◆




「ディルにーちゃん」

「どうしたの?」

「新しいローブはない?」


 ミィちゃんから突然変なことを言われた。以前、ローブをあげたが、ここにきて新しいものをせがまれるとは。


「ローブは一枚しかないんだよね……ごめんね」

「そうなのー……」

「うーん。知り合いに聞いてみるかい?」

「ううん、いいのー。ディルにーちゃんのじゃなきゃいやなの」

「ん、お、おう……」


 俺のじゃないとダメな理由があるのかな。さて、どうしたものか。王国騎士団のときの上着ならあったかもしれない。


「ミィちゃん、ちょっと待ってね」

「うん」


 どこにあったかな。着ることがないから置き場所もあまり記憶にない。


「お、あったあった」

「んー?」

「ミィちゃん、これ王国騎士団のときの上着だよ」


 ぱああ、とミィちゃんの表情が明るくなる。


「それ!! 欲しいの!」

「はい、どうぞ」


 明らかにサイズの大きい上着をミィちゃんに着せてあげる。ぶかぶかで可愛いな。


「やったー!」


 とても喜んでいるので良しとしよう。ミィちゃんは騎士物語が好きだから、その影響で色々と欲しくなっているのかもしれない。

 他の子と比べると、あまりわがままではないほうなので、こうやって欲しいものを素直にねだられるのは俺としても嬉しかったりする。

 主に関心を持っているのは騎士に関連することのような気もするけど、趣味は人それぞれだし、とても良いことだと思っている。


「ねえ」

「ん?」

「ディルにーちゃんは、ずっといてくれる?」


 答えはいつも変わらない。


「もちろんだよ」

「よかったのー」


 そしてこの質問。定期的にされているような気がするんだよね。

 ミィちゃんの場合は目の前で歩き去る父の背中を覚えている。だから、単純に不安なのだろう。

 これはレスターさんにも同じことを言っていたようで、やはり不安のためだろうという結論に至った。


「ミィちゃん、俺もレスターさんもずっとここにいるからね」

「……うん」


 普段は元気だが、この質問が飛んできたあとは少し目が暗くなる。

 俺、いなくならないよ、と毎回言っているけど、他のケアの方法も探さないといけないかな。

 このときばかりは騎士物語を読み聞かせようとしても断られてしまうから。ただ、頭を撫でたりしながら落ち着くのを待つだけだ。


「ミィ、鬼ごっこしよ」

「いくー。あ、部屋にこれ置いてから」

「俺が置いといてあげるよ」

「わかったの」


 良いタイミングでサリーが現れた。上着を部屋に置きたいようなので、それは俺がやっておくことにした。サリーはそのままミィちゃんの手を引いて遊びに行ったようだ。

 リリとミレイちゃんも見えたのでこのあとディーちゃんも合流するのだろうか。

 たまに女の子だけで鬼ごっこをしてるのは見かけるからさ。ギャランとテオは手合わせのようなことをしている。とにかくみんな体を動かしまくっていて、健康的で見ていて安心できる。


「さて、これを置いてこないと」


 俺もミィちゃんの部屋へ向かうことにした。体を動かすと言えば最近はギルドに行く時間がなかったから、明日あたり行ってみようかな。


「あわよくば食材も調達したいな……肉……」


 そんなことを考えながら今日もまた平和な一日を過ごすことができた。




「本読んでほしいのー」


 日課となっているディーちゃんの羽の手入れとミレイちゃんへの回復魔法を終わらせたあと、ミィちゃんが部屋にやってきた。

 あの質問――ずっとここにいるのか、と聞かれた日はだいたい夜に騎士物語の本を読んでと言ってくるんだよね。

 それで、そのまま読んでいる間に眠りにつくという感じだ。


「わかったよ。じゃあ、一緒に部屋に戻ろうか」

「うん! ありがとー」

「いえいえ」


 ミィちゃんの快眠のためならこれくらい安いものだよ。今日は何の話なのだろう……姫を守る騎士の物語か。

 いつもはもっとこう英雄譚のような話が多いが、恋愛系は珍しいな。そんな日もあるか。


 「これは、ある騎士が美しいお姫様を守ることに人生を賭けた、切なくも甘酸っぱい物語である――」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 本話から新しいお話になります。

 いつも読んでいただき本当にありがとうございます。

 先が気になったり、今後に期待いただける場合はぜひフォロー、★レビューなどお願いします。


 近況ノートにキャライメージを載せているのでそれも見ていただけると嬉しいです!

https://kakuyomu.jp/users/popoLON2114/news


 今度とも何卒よろしくお願いします。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る