第13話「いつもの日常へ」

 今日の夜は飲み会だ。というのも孤児院に戻る予定が明日であり、そのため忙しいにも関わらず、キルトンたちが飲み会をまた開いてくれることになったのだ。

 午前中の訓練は相変わらず城内警備の強化優先により中止で、午後は子どもたちと城下町を散策、夜は――


「お待たせ!」

「よし、いくぜー!」


 今回もキルトンにステラさんとハイラさんが参加する。前回と同じメンバーだ。

 俺は飲み会に焦がれていたので、もちろん快諾した。

 侵入者の件は城内の警備が強化されているし、現在は何もなく平和であることから、外に出ても大丈夫だと判断した。

 ちなみに、お店は前と同じところである。


「明日でディルは帰るんだよね?」

「そうですね。寂しくなります……キルトンやハイラさんの剣術指南はとてもわかりやすかったので」


 俺の剣術指南は主にキルトンとハイラさんが担当してくれていた。この期間で自分が強くなったと錯覚するくらいには教え方が上手で、とても丁寧だった。


「剣術は継続だからね。向こうでも続けてくれると嬉しいよ」

「もちろんです!」

「ディルは筋が良いからな」


 今後、結界魔法だけではうまくいかないことも出てくるだろう。特にサポートがない中では。

 孤児院のみんなを守るためには剣術の向上が必須なのだ。

 こちらで指南された流派は俺が王国騎士団のときに訓練していたものよりすんなりと体が受け入れた気がする。

 だから、今後の剣術鍛練はこちらのものでしていこうと思う。


「本当、ディル君には近衛兵に入ってほしかったな〜」

「わかるぜー。結界魔法でディル水準のものは見たことなかったからな」


 ステラさんには毎回近衛兵を勧められていた。いっそ孤児院の子たちもこっちに来たらいいのに、なんてそんな綺麗な顔で言われた日には一瞬揺れちゃったよ。


「俺には孤児院があるので……もしフリーだったなら近衛兵を選んでいたと思いますよ」

「私がいるからかな? 嬉しいな〜!」


 ちょっとそれもあるかもしれない。ステラさんは見てて癒されるんだよな。訓練のときは別だけど。


「ステラ、きもいぞ」

「ハイラ君! そうゆーことは事実でも言っちゃダメだよ?」

「ははは! 事実って言ってるじゃねえか!」


 本当に愉快だ。緊急に備えてお酒の量は少なめとはいえ、キルトンとステラさんはなかなかの量を飲んでいる。さすがお酒に強い人は一味違う。


「それにしても、あの件あっただろう? ディルが囮になったとき、一人消えたやつ」


 唐突にキルトンが口を開く。これはサリーと囮になったときの話だ。

 反魔王派の二人に挟み撃ちにされたが、本来はもう一人いたはずで、逃げられたというか結局見つからなかった件である。


「何かわかったの?」

「なんて言うか、三人目が確かにそこに“存在していた”痕跡があった。逃げた様子も何もなくてな、結論は“何かに消滅させられた”ってことになった」

「まじか。なにそれ怖い」


 キルトンによると、間違いなく三人目はいた。しかし、それは表舞台に出ることなく裏で何者かに処理されたという。

 捉えた二人の尋問結果で判明した、有事の際に集合場所としていた潜伏場所にも戻った形跡がなく、そもそも三人目は『その場から動いていない。その場で消滅した』という調査結果になったようだ。

 そんな消滅なんてヤバいことが裏で起きていたが、原因は不明。血痕もなし、証拠となるのは魔力の残滓のみで、これ以上詳しい調査は行われないようだ。


「世の中不思議なこともあるものですね」

「そうだな……自分に降ってこなくて本当に安心できるわ」

「消滅とかまじで洒落にならないよね〜」

「キルトン、ステラ。声のトーンは落とせよ。個室とはいえ万が一があるからな」

「へいへい!」

「はぁーい!」


 この二人、だいぶ酔っていないか? 冷静なのはお酒控えめのハイラさんだけだ。顔はかなり紅潮しているけど、まあ大丈夫だろう。なにせ、お酒、美味い! 止まらない!


 その後は雑談で盛り上がった。衝撃だったのはクールな感じのハイラさんが実は可愛いもの大好きだったということだ。

 コレクションに大量の動物のぬいぐるみがあるらしい。

 変な暴露をされて、慌てていたハイラさんが一番可愛いと思えた。

 そこから謎の暴露合戦が始まってしまった。まず、キルトン。かなりのマザコンらしい。俺は別に良いと思うが、本人は死ぬほど照れていた。子に愛されるかなり良いお母さんなのだろう。

 次にステラさん。実は超絶面食いで、理想の男性がいないため、交際経験ゼロ。暴露したキルトンに殴りかかっていた。なぜかちらちらと俺を見ていたが、気付かないフリをしました。

 それからも暴露合戦が止むことはなく、被害がなかったのは俺だけだった。ちょ、ちょっとだけ寂しいかもね?

 ただ、みんなのことをさらに知れたのは嬉しいよ。持つべきものはやはり友人だな。


「今日はありがとうございました!」

「おう、またいこうぜ」

「おやすみ〜」

「明日は見送りに行くからね」


 こうして飲み会は終わった。俺は改めて飲み会にメロメロなんだと実感しました。


「さて、明日の準備もするか〜」


 少し酔いが回っていたが、明日の準備はしないといけない。なぜか俺のベッドでミレイちゃんとディーちゃんが寝ているのだけど。


「気にしたら負けか」


 とりあえず寝てしまったあとに効果があるかはわからないが、ミレイちゃんには回復魔法を施した。


「お兄ちゃん……」

「ディル様ぁ……」

「はは、可愛いな。俺は帰ってきてるよ」




◇◆◇◆




 翌朝、俺たちはこれから孤児院に戻る。帰りもガネシャさんの転移で送ってもらうことになっているので安心だ。見送りにはキルトンたちも来てくれていた。

 ちょっと今生の別れじゃないのにグッときたよ。同年代の友人っていいな。本当にありがとう。


「本当にお世話になりました」


 レスターさんがガネシャさんとサリエンテさんに挨拶をし、とうとう孤児院へ帰還だ。

 そういえば久々にギルドも行かないとな。ちなみにサリーはここに残ることはなかった。俺たちと孤児院へ一緒に帰る。心底安心したよ。


「では、行くぞ。転移」


 ここからまたいつもの日常がまた始まる。

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