第10話「侵入者」

 夜、俺は窓を開けて寝ていた。そして……。


「魔王女はどこだ。言え」


 何者かに脅されていた。まさか侵入者が訪れるとは想像もしていなかった。

 一応、自動反撃は展開してあるので、俺が傷を負うことはないだろう。


「……どちらさまで?」

「そんな話をしている時間はない。教えれば殺しはしない」


 他に気配はない。勘だけど。それに、この程度で殺されるほど弱くはない。


「あぁ、お前一人だな? 教えるも何も俺は知らないけれど」

「クソが」


 狙いはサリーなのか。相手はこの感じだと単独で乗り込んできてるな。

 隠密に複数人での行動はリスクが高い。隠密能力の高い一人に任せる方が明らかに効率が良いのだ。


「仕方ねえ。死ね――あぁ!? 痛ェエ!」

「念のため……拘束魔法」


 対魔法は素人か。俺の自動反撃によって手足を潰させてもらった。意表をつけたみたいで、しっかりと手応えがあった。あとは拘束魔法で完全に身動きを封じておく。


「何があった!?」

「キルトン! 侵入者だ。ここは捉えたから連絡を頼む」


 さすが近衛兵。侵入者に対する動きがかなり早い。


「すまない。ここは頼んだ」

「わかった、さて……」


 俺は問答無用で侵入者の覆面を取り外し、口は指を突っ込む。もし噛んで抵抗してきたは口内で魔力弾がボンっとなる。自動反撃さまさまだ。

 無抵抗ということは命が惜しいタイプか。なのにこんなものを仕込んでやがる。口の奥から毒丸薬と思われるものを取り出した。


「俺はこっちの事情を知らないから、引き渡すまでそのままにしてろよ」

「チィッ!」

「丸薬も噛みきれないやつが悪態をつくな。ダサいから」

「クソ……」


 その後、近衛兵などにより魔王城の警備が強化された。俺の部屋に忍び込んできたやつは戻ってきたキルトンに引き渡した。

 近衛兵の尋問事情を軽く聞いたことがあるのだが、王国騎士団よりエグかった。多分侵入者は嫌でも口を割ることになるだろうな。

 他の子たちの部屋への被害はなかったようだ。それだけでかなり安心したよ。




◇◆◇◆




「キルトンです。よろしいですか」

「入れ」


 魔王の執務室に訪れたのは近衛兵のキルトンである。


「報告します。侵入者は城内で一名捕縛、城外で二名捕縛しております」

「それで」

「所属は反魔王派の組織のようです。具体については尋問中であります」

「わかった。良い報告を待つ」

「は。失礼いたします」


 魔王国も一枚岩ではない。しかし、客人が襲撃されるのはガネシャとしても予想外だった。

 しかし、ディルは王国騎士団にいただけあって対応がスムーズだった。子どもたちの部屋が直接襲撃を受けなくて心底ガネシャは安心していた。


「しかし、俺の娘を……許さない……」


 魔王として、父として、ガネシャは静かに激怒していた。




◇◆◇◆




「よし、寝るか」


 近衛兵たちは今頃バタバタしているだろう。さすがにここで俺が協力することはない。他国の事情に無闇に首を突っ込むことはあり得ないからだ。

 子どもたちの部屋は警備が強化されたので、これで俺も安心して眠れる。

 ちなみに俺は特に警備不要なので、子どもたちの部屋のほうだけをお願いした。


「ふう……疲れた」


 翌日、訓練は中止、俺も午後から出かけることはとりやめた。子どもたちの安全が優先だから。


「ディル!」

「キルトン、おはよう」

「おはよう。昨日はごめんな。煩わせてしまった」


 ほとんど寝てないのだろうな。疲れが顔に滲み出ている。


「いいよいいよ。子どもたちに危害が加えられる前に一旦収拾ついたし」

「そう言ってもらえると助かるよ。それと魔王様にディルを呼んでくるよう頼まれたんだ。執務室に行ってもらってもいいかい?」


 そうなる気はしていた。


「おっけー。すぐ行くよ」

「よろしくな」


 ガネシャさんから話と言えば昨日の件以外はあり得ないだろう。


「ディルです」

「入ってくれ」

「失礼します」

「とりあえず座ってくれ……まず、昨日はすまなかったな。そして、ありがとう」

「いえ、サリーにも誰にも被害がなくて良かったです」


 紛うことない本音だ。俺ならまだしも他の子の部屋に侵入されていればかなり危険だったから。


「あぁ。それで、ディルからすれば他国のことなのはわかっているのだが、一つ協力をお願いしたい」


 まさか内政関連なのに協力を頼まれるとは思わなかった。

 とはいえ、サリーに関わっていることならば俺も関係者だからな。ここは協力を受諾することにする。


「俺にできることであれば」

「ディルだから頼めることなのだが、囮をお願いしたい。サリシャを連れて」


 魔王として、ではなく父としての判断なのか、これは。


「サリーを……?」

「そう怖い顔をしないでくれ。恐らく城下町にまだいくらか残党が潜んでいるはずだ。それをなんとか炙り出したい」

「なるほど。相手に呪術を使うような者はいませんか? 俺の結界で防げない範疇なので」


 情報があれば欲しい。呪いの類には対応できないのが俺の結界魔法の弱点だから。


「私たち魔族は基本的に呪術は扱えない。だから、大丈夫だとは思う」

「わかりました。では、協力しましょう。俺もサリーに虫がつくのは許せませんから」


 サリー自身が囮になるのは微妙な気持ちだけどな。だが、暴力に対してならば守り切る自信がある。


「ありがとう。本当にディルになら娘を任せられるな」

「こんなときに冗談はよしてください。では、細かい話がまとまれば指示をお願いします。一旦失礼します」

「ああ、明日以降にお願いすると思う」

「承知しました」


 今日は一日部屋で休むとするか。と、その前にみんなの様子を見ておかないとな。

 意外とみんな大丈夫そうだった。そもそも何があったかよくわからないみたいだから、不安になるも何もないか。


 俺は俺で準備をしないとな。気を抜かないように最低限の鍛練は欠かさない。楽しい時間をぶち壊しやがって。ガネシャさんではないが、俺も侵入者一行は絶対に許さない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る