第7話「説得と納得」

 今日は訓練を少し早めにあがってサリーと話をしようと思う。

 俺もやることはやらないと。ガネシャさんの誤解の件だ。


「サリー、部屋に来れるかい?」

「ん」


 廊下でサリーを見つけたのでそのまま部屋へ呼ぶことにした。


「まだガネシャさんと会っていないのか?」

「あんなやつ知らないのじゃ」

「……あぁ」


 サリエンテさんの説明はどこまで響いているのだろう。この様子だと全く響いてない気もするけど。


「ガネシャさんはサリーを捨てたわけじゃない。たしかに、いきなり知らないところに飛ばされて怖かったと思うけど」

「うん……」

「でも、おかげでみんなと出会えて、俺とも出会えたよね」

「ん……」


 とりあえずガネシャさんのやらかしたことの結果、良かったことを全面に押し出す作戦だ。


「俺はサリーと会えて嬉しいよ。それも考えてみたらガネシャさんのおかげだと思うんだ」

「あいつの?」

「お父さんの、でしょ?」


 いい加減、親を『あいつ』呼ばわりはやめさせないとな。


「ち、父上の……」

「うんうん」


 いつまでも『あいつ』呼ばわりされているのはガネシャさんの心臓にも悪そうだしな。


「一回さ、俺もついていくからガネシャさんに会わない?」

「ディル、その……手は繋いでてくれるのか?」

「もちろんだよ」

「それなら、わかった……」


 ということで、すぐにサリエンテさんに相談して、ガネシャさんには娘のため無理矢理時間を作ってもらった。

 サリーには二つお願いをした。一つはガネシャさんに謝ること、もう一つはお礼をすること。


「サリー。ガネシャさんも忙しいから、すぐ戻るからね」

「ん、わかったのじゃ」


 サリーが俺の手を握る力が少し強くなった。緊張しているのだろうな。ついこの間まで虫を見たときと同じ反応をしていたほどだから。

 心の準備をゆっくりと待つ時間はあまりないからすぐにノックをする。


「入ってくれ」


「失礼します」


 ガネシャさんがサリエンテさんにどのように伝えられていたかはわからないが、サリーを見て驚いていた。


「サリシャ……」

「ち、父上……その、ごめんなさい」


 俺の手を握る力がさらにギュッと強くなる。


「! ……いや、私の至らなさが悪いのだ。こちらの方こそ許してくれるか?」

「……うん。それと、ありがとう。父上のおかげで……みんなと、会えたし、ディルにも会えた」


 ん? ガネシャさんがそわそわしている。


「……サリシャアアアア!」

「ひえ!? ディル! 抱っこ!」

「お、おう……」


 感極まったのかガネシャさんがサリーを抱擁しようとしたが、拒否されてしまった。そのまま俺の腕の中に退避してきた。

 ただ、これでこれまでのような虫と同じ扱いではなくなるだろう。あとでサリエンテさんに報告しよう。


「ガネシャさん、失礼しました」

「ああ、本当にありがとう」

「サリーも」

「ち、父上はおしごと、がんばって」


 偉い偉い。あとでちゃんと褒めないと。


「サリシャアアアア!!!」

「ひえ!?」


 急に叫ぶからサリーが驚いているんだよな。これもサリエンテさんに報告しておこう。こうして、無事執務室をあとにした。


「サリーは偉いね。ご褒美で、みんなで甘いものでも食べに出かけようか」

「ん、行くのじゃ!」

「それじゃ、みんなのこと呼んできてくれるかい?」

「わかった!」


 うん、元気なことは元気みたいだ。俺はレスターさんに声かけに行こう。

 こうして、俺たちは新たなスイーツである“プリン”というものに出会った。チーズケーキやクッキーとは違う、ぷりんぷりんの濃厚な味が癖になる。これも王都にあればいいのにな。






「あなた、サリーには会えたんでしょ? どうだった?」

「ディルのおかげで『父上』と呼んでくれたよ。抱きつこうとしたら逃げられたがな」

「それはあなたが悪いでしょ。でも、よかった。ディル君には感謝をしないとね」

「そうだな。最初に少し喧嘩腰で手合わせをしたことも謝らないとならんな」

「は? 何してるの? そういう余計なことは……やめろといつも言っているじゃない!」


 余計なことを言って、余計なことをしたことがバレた魔王でした。






「ねえ、おにいちゃん」

「なんだい?」


 夕食後、リリが部屋に来ていた。俺の膝の上でゆったりとしている。


「今日、いっしょにねる」

「え? さすがに……サリーとミィちゃんが同じ部屋だろう?」


 どうしてまたいきなり。


「いいの。だって、おにいちゃん、ディリーとねてたもん」

「え、まじ……今日の朝は、あぁそうか……」


 思い出した。昨日帰ってきてから部屋でディーちゃんが寝ていた。そのまま俺もスルーして寝ちゃったのだ。

 あれ、それならミレイちゃんも一人だったの? 不安にさせちゃったかな。

 この点については俺はまだ知らないが、ミレイちゃんはディーちゃんが『侵入者』であることを実は知っていたため気にしていなかった。


「んー……いいけど、サリーとミィちゃんにはきちんと言っておいで?」

「えー」

「リリが勝手にいなくなると不安にさせちゃうでしょ?」

「んー。わかった」


 ということでリリを部屋へ一度戻した。


「ただいまー」

「は、早いね」

「わかったって言われたよー」


 あまりにもすぐ戻ってきて驚いたが、まあ大丈夫だろう。そんなわけで、今日はリリと寝ることにした。

 ディーちゃんと寝ていたのがどうたらこうたらと言っていたが、実のところは魔王城という慣れない場所で不安だったのだろう。


「よし、寝ようか」

「ん」


 今日もまた満足の一日だった。

 明日はまた午前は訓練に参加して、午後からはフリーだ。うーん、何しようかな。

 色々と考えながら気付いたら夢の中に落ちていた。






「ああ、やっぱりおにいちゃんの匂いが一番だよ……大好き……」

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