第6話「飲み会へ!」

 ぽよぽよドームから戻ったあと、俺が夜不在にすることをみんなに伝え、飲み会に行く準備を始める。

 みんな疲れていたせいかいつものような引き止めはなかった。


 胸の鼓動が止まらない。これが飲み会に行く前のドキドキ感か。

 魔王城前で待ち合わせをしており、俺は楽しみ過ぎてだいぶ早く来てしまった。


「ディル君〜」

「ステラさん。今日はよろしくお願いします」

「そんな、かしこまらなくていいよ〜」


 ステラさんは二十一歳で俺より一つ年上だ。柔和な雰囲気で優しいのだが、訓練中は鬼のように厳しくなる。

 あとはキルトンともう一人の参加者であるハイラさんが来るのを待つだけだ。

 ちなみに、キルトンとハイラさんは男性で、ステラさんは女性だ。かなり綺麗な感じでセラフィやミリアとはタイプが違う。


「ディル君は彼女とかいるの〜?」

「いないですよ。孤児院で精一杯です」


 孤児院の前は王国騎士団だったし、恋愛経験なんてものはない。切なくなっちゃう。


「あれ、そうなんだ? かっこいいから絶対いると思ったのに〜」

「そんなことないですよ……」

「私はどーかな!?」


 な、な、な、な、まじですか!?


「え!?」

「冗談だよ〜、ふふふ」


 ドキッとしてしまいました。そんなこと言われたら少し意識しちゃうじゃないですか。これが同年代の飲み会前の会話なのか。初っ端から飛ばしていくスタイル……。


「待たせたな〜」

「キルトン! ハイラさん!」

「おう。誘ってくれてありがとうな。ステラもいるし早速行くか!」


 そうして俺たちは四人で夜の街へくりだした。ドキドキが止まらないです。






「すんすん……はぁ、ディル様……やっとたくさんすんすんできるのー。すんすんすん……ふぁあ、すき」


 ここでも小さな侵入者は健在だった。ディルの不在が確定しているため、いつもより長居していた。






「今日はここでいいか」


 なんだかオシャレな雰囲気のお店だ。人生で初めて入るよ、こういうお店。


「俺、こういうところ初めてで」

「まじ? 王都では何してたのよ?」


 王国騎士団のときはあまり心に余裕がなかったからな。


「日々鍛練! って感じで」

「それもまたしんどいだろー。息抜きは必要よ、やっぱり」


 近衛兵たちはわりと飲み会をしているのだろうか。羨ましい。もし、今王国騎士団と魔王近衛兵を選べるなら、近衛兵を選びそうになるくらいには羨ましいよ。


「うし! それじゃ、ディルとの出会いを祝して〜」

『乾杯!』


 友人と飲むお酒はとても美味しかった。ハイラさんはお酒に弱いようで控えめにするとのこと。キルトンとステラさんは浴びるようにお酒を飲んでいる。

 これまでの人生のこと、これからのことなど様々な話をした。お酒の力でみんな饒舌になっており、とても賑やかで楽しい。

 たまには俺もこういう場でお酒を飲みたいな。病みつきになってしまいそうだ。お酒そのものもとても美味しいからさ、なおさら友人ブーストで美味しくなるのだ。


「ディル君は彼女いないんだってさぁ!」

「そうなのか!? もったいねーなあ」


 キルトンがステラさんの一言に食い気味で絡んでくる。


「本当に勿体無いな。俺は妻帯者と思っていたぞ?」


 ハイラさんもグイグイくる。しかし、これが飲み会だ。これが楽しいのだ。俺の理想というか、夢見てた飲み会そのものだ!


「それでも孤児院の子たちにはすごく懐かれてるよね〜」

「俺にとっては弟や妹みたいな存在ですからね」


 保護者って感じである。巣立つとこをきちんとこの目で見届けたい。


「おいおい、それって惚れられたらどうすんだ!?」

「それはないって。子どもからしたら俺なんておじさんだろう」


 一回り以上年が離れているからな。


「いいや、ディル。案外わからんもんだぞ。特に天狐族の子がいたよな? あの子は目が本気だったと思う」

「え? リリが? そんなことないですって〜」


 そのあとは孤児院の話で盛り上がった。俺なんかの話で盛り上がってくれるのは幸せだな。今日のセッティングをしてくれたキルトンには心から感謝したい。

 それから数時間、他愛ない話で盛り上がり続けた。ちなまにキルトンもハイラさんも彼女がいるようだ。ステラさんはフリーとのこと。

 俺もそろそろそういうことを考える時期にきているのだろうか。


 そうして、明日も訓練は休みではないためお開きとなった。飲み会はめっちゃ楽しかった。

 こっちにいる間にもう一回は行きたいと思っていたら、ステラさんの提案でまた後日飲み会をすることになりました。本当にありがとうございます。


「また明日もよろしくね〜」

「よろしくお願いします」


 訓練のことだ。飲み会ではないよ。こうして、俺の初同年代飲み会は幕を下ろした。最高に楽しかった。






「あれ、なんでディーちゃんがいるんだ? まあ、いいかあ」


 酒に呑まれかけていた俺はそのままディーちゃんが眠る横で、なんの戸惑いもなく眠りについた。






「ディル様! ディル様ー!」

「ん……んん、朝か……ディーちゃん、おはよう」


 あれ、なんでディーちゃんが?




 ああ……あまり覚えてないな。朝だから普通に起こしに来てくれたのだろう。


「起こしてくれてありがとうね。よし、ちょっとシャワー浴びてくるよ」

「わかったー」


 今日も訓練だ。もうお酒は残っていない。体の調子も良い。昨日の楽しかった余韻はまだ少し心に残っているけど。


「うし、今日も訓練頑張りますか」


 時間を作って訓練に参加するみたいな話をしていたが、結局俺は毎日近衛兵の訓練に参加している。

 寧ろこちらが毎日剣術指南までしてもらえてありがたいほどだ。






「この魔力の濃さ……ディリー……おにいちゃんとねた?」


「うう……わたしだって……」


「今日はわたしがおにいちゃんを独占するもん!」


 涙を流しながら謎の決意を口にする二人目の小さな侵入者であった。

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