第4話「魔族領へ! その1」
数日後、サリエンテさんからの招待状が孤児院に届いた。ガネシャさんは説得に成功したようだ。
「レスターさん、サリエンテさんから招待状が届きました」
「見せてもらえるかい?」
「どうぞ」
内容は約一週間の滞在予定。寝食は魔王城のゲストとしてお城で、ということだ。
王国の王城ですら寝泊まりしたことも食事したこともないのに、初が魔王城だなんて。俺はもう感激するしかなかった。
出発は五日後、ガネシャさんが転移で送迎をしてくれるとのこと。転移魔法を複数人対象に発動できるのはさすが魔王だ。
こちらでも複数人対象の転移魔法なんて見たことがない。王直轄の魔導師クラスなのではないだろうか。
早速みんなには夕食のときレスターさんからこのことを伝えた。サリーは少し驚いていたが、最後はみんなと一緒に喜んでいた。
旅行なんてなかなかいけるものではないからね。
それに、サリーの家族がいることも伝えたが、みんなはよかったね! というような反応で、それに対してマイナスな反応は何一つなかった。
ここの子たちは良い子すぎる。自慢の子たちだ。
「とうとう今日か……」
王都に行くときのようにみんな浮き足立っていた。前と違うのは俺もレスターさんもみんな浮き足立っていたことだ。
本当に楽しみで仕方ない。あと、サリシャはガネシャさんを相変わらず敵視している感じなので、俺が抱っこしておく。リリの刺さるような視線が少しだけ気になった。
「おにいちゃん」
「ん?」
リリさん、どうしたのでしょうか。
「あっち着いたら、わたしのこと抱っこして」
「わかったよ」
それで許されるならいくらでも抱っこしてやる。腕の筋肉が最近少しずつ増えてきた気がしたのは、もしかしたら抱っこのおかげかもしれないな。
「おぉ!?」
目の前に転移魔法陣が突如現れ、ガネシャさんが姿を現した。
「では、すぐに向かうとしよう」
一瞬視界がブレ、すぐに鮮明になった視界は外から城内へと切り替わっていた。子どもたちも頭に疑問符が浮かんでいるような顔をしている。
「サリシャ!」
「母上!」
「いっておいで」
サリシャを降ろし、サリエンテさんの元へ向かわせた。
やはり、ガネシャさん、つまり父のことは死ぬほど毛嫌いしているが、母のことは大好きなようだ。早く誤解を正して家族仲良しに戻って欲しいものだ。
「私にはあんな風に来てくれなかったな」
「……まあ、誤解されてますからね」
またしゅんとしているガネシャさん。魔王のこのような姿はレアだろう。
「悲しいことだ……あぁ、そうだ。ディルよ。もし時間があればうちの近衛兵の訓練に参加してみないか? お互い良い刺激になると思うのだが」
「是非、時間を作るのでよろしくお願いします」
と、俺はまさかの近衛兵の訓練に参加できることにもなった。剣術指南とかして欲しいな。王国騎士団とは別の流派だろうし、この機会にいろいろ経験してみたい。
「今日は城下町の観光なり好きに動いてくれ。私は執務に戻るよ」
「わかりました」
そう言い残し、ガネシャさんはこの場をあとにした。その後すぐに宿泊することになる部屋へと案内されたが、ものすごい豪華である。
一部屋が孤児院の居間より広い気がするのだが……。さすがは魔王城、感動する。
子どもたちはギャランとテオが同室で、あとはミレイちゃんとディーちゃんが同室、サリー、リリ、ミィちゃんが同室という部屋分けになった。
レスターさんと俺は一部屋ずつ借りることとなっている。今日はとりあえず休むことにして、明日は午前中は近衛兵の訓練、午後から城下町へ出かけることとした。
この日の晩御飯は見たことのない豪華さで、なんというかどう食べていいのかわからず、恥ずかしながらだいぶ混乱しました。
就寝前、部屋がノックされた。
「はい」
「サリエンテです。よろしいですか?」
「どうぞ」
サリエンテさんが訪ねてきた。サリーのことだろうか。
「まず、サリシャのことをお礼させてください。ありがとうございます」
「いえいえ、とても良い子でやってくれてますよ」
見た目だけでなく所作もとても美しい。さすが魔王妃だ。
「そうですか……よかった。それと、夫が迷惑をかけてしまってすみません」
「過ぎたことですしお気になさらず。こういった素晴らしい機会もいただけて寧ろ感謝していますよ」
サリエンテさんはとても柔和で接しやすい人柄だ。きっとこういうタイプを怒らせるとかなり怖いんだろうな。
「サリエンテさん、一つよろしいですか?」
「何でしょうか?」
俺はどうしても気になることを聞くことにした。
「サリーは、サリシャは今回、こちらに戻るような形を取るのでしょうか?」
「その件の答えは『いいえ』です。ご迷惑でなければ当初のお願いのとおり成人まであの子を見届けてくれませんか?」
「もちろんです! 俺もその辺りが少し心配でして……」
かなり安心した。サリエンテさんもそんな俺をみて笑っている。
「ふふ。サリシャは人に恵まれているようで改めて安心しました。ディルさん、今後もよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
サリーはまだ孤児院に残ると聞いてかなり安心した。心の重しが取れたような感覚だ。
これで伸び伸びと魔族領での旅行を満喫することができそうだ。
その翌日。
「なるほど! とてもわかりやすい!」
俺は剣術指南を受けていた。近衛兵から教わっていたのだが、王国騎士団での流派よりも馴染む感じがした。
それでも剣術は並程度あることは変わらないだろうけど。
「筋がいいぜ? このままこっちの近衛兵にならねえか? ディルの結界魔法はこっちでも見ないくらいの硬さだし、すぐ出世できるぞ?」
彼は近衛兵のキルトン。俺と同い年の二十歳で剣術指南をしてくれている。
「俺には孤児院があるからね……そのために王国騎士団を退団したんだ」
「そうだったのか〜……ディルがいれば近衛兵も盤石なのになあ〜」
彼は同年代ということもあり、非常に話しやすい。俺はもう会って間もないが勝手に友達だと思って接している。
王国騎士団では同い年という存在がいなかったからな。とても新鮮だ。
「そんなことないよ。それにここのみんなの洗練具合は半端じゃないし、もう盤石だって」
「そう言ってもらえると嬉しいね。まあ……近衛兵必要なの? っていうくらい魔王様も強いからなぁ」
「強いっていうのには同意だよ。俺の結界も一撃でヒビいれられたし、動きは目で追えないし……」
もう訓練は終わりの時間を迎えていた。楽しい時間はすぐに過ぎていく。
「よし、俺は孤児院の子たちの様子見てくるかな。また明日もよろしくね」
「おう! 最終日には俺もディルの結界にヒビくらいはいれてやるからな!」
体を動かした気持ちよさと、同い年の友人ができた新鮮さ。
非常に心地よい感情で午前中を終えた。また明日の訓練が楽しみだ。
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