第11話「至高のステーキ」

 スタンピードを鎮圧した翌日、俺はレスターさんと孤児院の子たちと共に王都の中心に来ている。

 目的はドラゴンステーキだ。俺は一応討伐関係者なので優先的に貰うことができる。もちろん、レスターさんや孤児院のみんなも同じである。

 普通の王都民は並び順なのでとてつもない行列ができていて喧騒が広がっていた。朝早いのに賑やかで良いことです。


「ディルさん、ドラゴンステーキというのは……」


 ミレイちゃんが疑問を口にする。


「ああ、この前ドラゴン退治をしてきたよね? そのときのドラゴンなんだ」

「兄貴が倒したのか!?」

「ディルにい凄い!」


 ギャランとテオが変な勘違いをしている。


「違う違う。俺だけじゃ無理だよ。みんなで倒したんだ」

「おおお! でも。そんなの関係ないって! かっけえなあ!!!」


 みんな楽しみなんだろう。目をキラキラさせていて喜ばしい。この笑顔を見るための魔龍討伐だったと思えば報われるってものだ。


「先輩! おはようございます」

「ミリアか、おはよう」

「おにいちゃん! 抱っこ!!!」


 ミリアが現れた瞬間にリリが抱っこを所望してきた。なんだろうね、ミリアは敵視でもされているのだろうか。


「ミィ、ディルにーちゃんと手つなぎたい」

「ディル様〜」

「あああ……我の場所が……」


 なんだこれは。右腕でリリを抱っこ。左手はミィちゃんと手を繋いでいて、ディーちゃんは今日に俺の背中にくっついている。サリーは何やら出遅れたから悔しがっているのかな。


「せ、先輩……」

「まあまあ、いつものことだから」


 ミリアが少し苦笑いをしていた。さすがに前方位を封じられると動きにくいので、リリとディーちゃんには離れるように説得した。

 ミィちゃんとは手を繋いでいるが、少し勝ち誇っているのは気のせいだろうか。


「始まるまであと二十分くらいみたいです」

「もう少しだな」


 ドラゴンステーキ。これは人生で一度食べることができるかどうか、という代物だ。俺はこれが二度目になる。まさに奇跡だ。

 あと二十分でその奇跡が俺の口で起こる。あ、まずい、よだれが出てきてしまうよ。


「ディルさん、あれですか……」

「お! そうだよ」


 とうとう始まる。肉の塊が運び出され、それが目の前で調理されていくのだ。ちなみに龍の肉を食べることで体に何かが起こるわけではない。

 強いて言えば超幸福になる。あの口の中で一瞬にして溶けるような感覚は忘れたくても忘れられないのだ。

 ああ、早く食べたい。そわそわしてきた。周囲もざわつき始めているから、これは本格的に始まる前兆だ。

 調理開始については取り立ててアナウンスはされない。粛々と調理され、配られていく。


『『うおおおおおおおおおお!!!!!』』


「す、凄いのじゃ……」

「本当だね……」


 サリーとテオは調理が始まると自然と始まる熱狂に面食らっているようだ。俺も最初は驚いたよ、なんでこんなに騒ぎ立てるのかって。食べてから俺は王都民と熱狂した。それくらい美味いのだ。

 前回と同じなら一人四切れ貰える。あの素晴らしい感覚を四回も楽しむことができるのだ。順番が待ち遠しい。


「次の方どうぞ〜」

「みんな、行くよ!」


 きたきた。レスターさんと孤児院の子たちとともにステーキを受け取る。五切れだと? 魔龍のサイズが前回より大きかったからか。


「じゃあ……あっちで食べようか……」

『はーい!』


 よだれが……止まらない。早く食べたい。それしか頭の中にない。


「よし、みんな席に着いたね! それじゃあ……」

『いただきます!』


 至高のステーキをゆっくりと口に運ぶ。ああ、久しぶりだ。この奇跡を二度も味わうのは。


『……』


『うんまぁぁぁあい!!!!!』


 数回噛む頃には口の中から溶けてなくなるほどのお肉。ジューシーでもう幸福感が半端じゃない。

 みんなもお気に召したようだ。最高の笑顔をありがとう。そして、俺も最高の笑顔をしていると自信があります。

 あと四切れ……特別な食べ方はない。ただ一切れ一切れを噛み締めるだけだ。


「おおおぉ……うんめえ」

「せせせ先輩……すごいです、これ……溶ける……」


 そうか。ミリアも初めてだったんだな。凄い、なんか、蕩けそうで幸せそうな表情だ。


「そうだよな。これを食べると魔龍討伐もやった甲斐があるってもんだ」


 頻繁にあるものではないので、俺は今後の人生で口にすることはないかもしれない。それを考えて一切れずつゆっくりと食べていく。

 まあ、前回も同じこと考えた気がするけどね。それに、噛み締める前になくなってしまうんだ。この儚い感じがそそられる。


「先輩、一切れどうぞ」

「へ!?」


 俺は食べ終わって余韻を楽しんでいたのに、さらに譲ってくれるだと。そんな罪深いことできない。


「この五切れはミリアが食べてくれ。俺もこれ以上欲望には耐えられない……」

「ふふ……面白い。先輩、あーんです」

「あーん……!?」

「! むっきぃ!」


 あーんされました。食べてしまいました。ありがとう、ミリア。六切れも食べれてしまうなんて。リリが怒っているようだが許してくれ。六切れ目の誘惑には抗えなかった。


『ごちそうさまでしたー!!!』


 ホント気持ちいい。身も心も気持ちいい。超幸福感。


「それじゃ、チーズケーキ、食べて帰ろうか」

『はぁい!』


 気分が良いのでまたチーズケーキを食べて帰ることにした。食べ過ぎかもしれないが気にしたら負けだ。

 ちなみに、レスターさんはこのお店の紅茶とクッキーにハマったらしい。

 もちろん、ミリアも連れてきた。一切れの価値は当分返せそうにないからな。


 今日のみんなの幸せそうな最高の笑顔も一生忘れられないだろう。明日も余韻に浸りたいな。でも、鍛練もしないと。

 本当、最高にモチベーションの上がる一日だった。

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