第10話「スタンピードの蹂躙」
「ディル、毎回すまないな」
「いいえ、ライオネットさんもお疲れ様です」
孤児院の子たちは行くな行くなと言われ、本当に大変だったが、なんとか宥めて王国騎士団本部へとやってきた。
「まさか、スタンピードとは」
「生まれたてダンジョンなので、まだマシだと思いますけどね……」
「そうだな。それだけが救いだ。みんな疲れているっていうのに……はぁ」
ライオネットさんは見事に項垂れている。かなり疲れが溜まっているのだろう。俺にはリフレッシュする時間が少しあったが、恐らく団長は働き詰めだ。それは項垂れても仕方ないというものだ。
「作戦会議は今日に?」
「あぁ。夜に行う。ディルも参加してくれ。また負担をかけてしまうことになるかもしれないからな……すまん」
「いいえ。俺も役に立てるならやれることはやります」
「助かるよ」
まあ、とは言っても俺は基本的に動きを縛る役目だ。本当に最前線で剣を振るうことはほとんどない。
剣だけなら俺は騎士団水準で言うと最低レベルだからな。下手したらその水準にすら乗っているかもわからない。
「今日は寮の部屋に泊まってくれ。前と同じ部屋だ」
「わかりました。荷物を置いて時間まで少しゆっくりしてます」
「ああ、そうしてくれ」
さて、荷物を置いたら少しミリアの様子でも見てくるか。あの子もプレッシャーがかかっているだろう。
「ミリア」
「先輩! 昨日はありがとうございました!」
「こちらこそ。また行こうな」
「はい!」
顔色とかも大丈夫そうだな。この様子であれば問題ないだろう。
「明日はよろしく頼むな。俺もまた参加するからさ」
「はい! 次はもう足を引っ張らないように頑張ります」
そうやって自分に変なプレッシャーをかけると余計に疲れるぞ。
「いいんだよ。みんなを守ることが俺の仕事でもあるし。気を遣ってくれなくても大丈夫だよ」
魔龍討伐における魔力欠乏は俺の責任だ。端的に鍛練が足りない。あの場面であれば、俺が倒れることで犠牲者が出たことも考えられるからね。
結果としては犠牲者ゼロで良かったが、俺としてはそこまでの過程がダメだった。
「次は倒れることはないだろうからな」
あとはライオネットさんたちが片付けてくれるから。
「明日からまた疲れるだろうから、今日はあまりやりすぎるなよ」
「わかりました! ありがとうございます」
さて、会議まで部屋で横になっていよう。今日は休むと決めていたし、鍛練はしない。万が一にも明日以降に響くようなことは許されないから。
「ふう、あの子たちは大丈夫かな」
頭によぎるのは孤児院の子どもたち。やはり俺にとってはとても大切な存在だ。せっかく一緒にいる時間がたくさん作れると思ったが今回も難しかったらしい。
タイミングっていうものは恐ろしいな。
今回の会議は魔龍討伐に比べると簡単なものだった。できる限り俺が拘束し、漏れは都度討ち取る。
そして、最後はこちらが一方的に拘束されている魔物を討伐するというものだ。
俺に対する負担が大きすぎる、という意見もあったが、俺からしてみれば魔物の目の前に相対するわけでもないし、一番の負担はやはり剣を振るう皆さんだと思うわけで。
そこは問題ないと俺から直接伝えたから大丈夫だと思っている。やれることをやらないと俺の存在してる意味がなくなるから。
「よし、さっさと寝よう」
夕食を軽く済ませ、英気を養うためにもすぐに眠ることにした。
翌日、王都を出発し、野営場所まで問題はなかった。野営場所はスタンピードを止めるほぼ最前線なので、やはりオークがちらほらと現れていたけど。
不思議なことにダンジョンから湧いた魔物は殺しても血肉が残らない。粒子になって消え去っていくのだ。
それが何かに吸収されるわけでもないし、このあたりもダンジョンと同じくとても熱心に研究されている分野らしい。俺の生きているうちにこの謎は解明されるのだろうか。
ちなみに、野営場所に現れたオークは粒子になった。つまり間違いなくダンジョン産というわけだ。
しかし、今日は本番にはならなかった。本当にちょこちょことオークが出てきたくらいだったから。
「総員準備ィ!」
翌日が本番だった。思ったより早かったが、スタンピードだ。物凄い音が森の奥から聞こえてくるのでわかりやすい判断材料になる。
「ディル、大丈夫か?」
「いつでもいけます」
拘束魔法の広域展開の準備をし、あとは魔物たちが姿を現すのを待つだけ。
先頭が見えてきた。調査報告のとおり、オークの大群だ。
「ディル、頼む」
「拘束魔法!」
巨大な魔法陣が上空に現れ、そこから伸びる魔力糸が見境なくオークを拘束していく。抵抗については反撃をしないようにしてある。
広域展開は余裕があるといえど、それなりの魔力消費を伴うからだ。それに今回、トドメは騎士たちが迅速に刺していくから。
「ふう……」
「圧巻だな」
「これくらいしか俺にはできませんから」
拘束魔法の範囲外に逃れたオークは逐次狩られている。群れでさえなければ王国騎士団レベルの相手にはならない。
「謙遜するな。よし、あとは俺たちに任せてくれ」
ライオネットさんは拘束中のオークたちを狩りに出ていった。その光景はあまりにも一方的すぎて、もはや虐殺としか言えないものだった。
まあ、拘束魔法で動けないオークをとにかく屠り続けるだけだから。そう見えるのは仕方ないと思う。
あと、ミリアも大丈夫そうだ。血も何もかも粒子になるからね。今回はもう不安要素はない。俺はただオークが全て粒子になるのを待つだけだ。
狩られたオークは粒子になるため、現場には何も残されていない。薙ぎ倒された木々はさすがにそのままだが、この場には俺たちしか存在しない。本当に不思議な光景だ。
怪我人ゼロで今回のスタンピードへの対処は終わった。俺自身もまだまだ元気だし、比較的楽な内容だったな。
しかし、これが王都に到達していれば、武力を持たない王都民は一方的に殺されてしまうだろう。それくらいの想像は容易いほどの規模感ではあったから。
「よし、王都に戻るぞ!」
ライオネットさんの指示で野営を片し、王都へ帰還する。
スタンピードの制圧はこの時点を持って完璧な形で達成された。
「先輩! やっぱり先輩はすごいですね!」
「ミリアか。お疲れ様。そんなことはないって。最後なんて見てただけだしさ」
あの場で剣を振りたいと思うことはない、というのは嘘になる。ただ適材適所を考えたときの役割は今回のがベストだという認識はある。
「先輩がいなければ、こんな綺麗に終わってないと思いますよ」
「そう言ってもらえるだけありがたいよ、ほんと」
怪我人ゼロというのは拘束魔法あってのことだと思いたい。死ぬ気で抵抗してくる大群の相手に対してこちらが犠牲者はなくとも、さすがに怪我人なしというのは難しい感じもする。
「ま、ひとまずお疲れ。早く帰りたいな〜」
「みんな先輩のこと待ってそうですし」
孤児院の子たちに思いを馳せながら王都へ向かった。
そういえば、そろそろドラゴンステーキが食べられるのではないか?
色々と楽しみなことを考えると頬が緩んでしまう。
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