幕間「新米騎士」

「本日から第一師団に配属になったミリアと言います。よろしくお願いします!」


 彼女は十五歳で王国騎士団に入団した。尤も、王国騎士団は十五歳から入団試験を受けることができるので、この歳ですぐに入団したミリアはかなりの実力と将来性を認められている。

 ちなみにディルも十五歳で騎士団に入団している。

 ミリアの教育係として、彼女の四年先輩である彼が任命された。


『あ、この人かっこいい……かも……』


 彼女のディルへの第一印象はとても良いものであった。最初はまず見た目と言うが、彼はミリアの好みにハマっていた。


「教育係のディルだ。よろしく頼む」

「ミリアです。よろしくお願いします」


 教育係は基本的に訓練の付き添いや、任務の時のフォローが主となる。

 このときのディルは魔龍討伐も経験済みで、剣術などは並みであっても十分最前線に立てるだけの実力を持っていたのだ。


「そうだ。俺は基本的に剣術もそう得意じゃないから、俺の『結界魔法』に本気で攻めるのを訓練の一つとさせてもらうね。人に剣を振るうってことにも慣れないといけないし」

「え?」


 剣術が得意ではない。これは王国騎士団では通常あり得ないことだ。

 ただ、彼女は聞いたことがあった。四年前、試験で試験官を圧倒して合格した防御系統特化の珍しい者がいると。


「あれが……先輩だったんですね」

「ん? まあ、いいよ。最初は軽めの結界から。簡易結界展開……目標はヒビを入れること。怪我するかもとか遠慮はしないで本気で来ていいからね」

「……わかりました! よろしくお願いします!」


 最初はヒビの一つも入れることはできなかった。『簡易結界』だったから、確実に最低グレードの結界だろうとは予想していたが、まさか壊せずともヒビくらいはいけるだろうと。そんな考えは甘かった。本当に手も足も出ないということを痛感したのだ。


「聞いてたけど、本当に筋がいいな。俺が剣術を教わりたいくらいだ」

「そ、そんな」

「自信を持って。そのうち俺の結界なんて壊せるようになると思うからさ」

「は、はい。精進します!」

「その意気だ」


 その後ミリアは頻繁にディルに付き合ってもらって訓練をした。任務も同行し、彼の活躍をその目に刻んだ。

 これからもこの先輩の背中を追いかけようと決めたのだ。

 そんなディルが突然退団することになった。恐らく一番驚いていたのはミリアである。


 彼は孤児院に行くらしい。ミリアはディルから妹の話を聞いていた。七歳の頃に亡くなってしまったと。

 もしかしたら、何かそのあたりで思うことがあったのかもしれない。

 彼女の予想は間違っていなかった。ただ、だからと言って何ができるわけでもなく、退団という事実を受け止めることしかできなかった。


「先輩……はぁぁ」


 ディルが去った後、ミリアは自分の無力感に打ちひしがれた。どうすればよかったのか、そもそも何かしたところでこの未来は変えられなかったのでは。


 そんな中、魔龍討伐の話が突如浮上した。聞けばディルも動員されるらしい。急いだ様子で副団長であるキースが孤児院に向かうのを見たのだ。

 副団長が使いになるほど。急なことという理由もあるのだろうが、さすがに副団長が直々に出ることはないだろう。

 退団してもやっぱり先輩は凄いな、とミリアは率直に感じていた。


 その後、魔龍討伐作戦が決行され、ミリアは二度命を救われた。直撃すれば確実に『死ぬ』ものから二度も救われたのだ。

 どうこの恩に報えばいいのか。ディルが気にしていないからいいのではなく、ミリアのけじめがつかないということだ。

 まだ二年も王国騎士団に在籍していない新米だが、騎士としての矜持もある。


 そんな中、約束を反故にされずディルに外出に誘われて舞い上がった。

 気持ちの落差が凄まじい。ディルが原因でここまで揺さぶられると考えるなという方が無理がある。


 孤児院の子たちもいる予定だったがまさかの二人きりでのお出かけにさらにテンションが上がった。


 そして、前を歩くディルの背中や食事中の姿、全てが愛しいと感じた。






「昨日とかもずっと考えていたんですけど、私先輩のこと――「おにいちゃん!!」






『好きです。本当に、大好きなんです』


 と、言う前に孤児院の子が突撃してきたのだ。さすがにもう言えるタイミングはないので、この日は想いを伝えずに解散した。


 そして、次はスタンピード。ディルはやはり頼られていた。ミリアの中で尊敬する先輩から大好きな人になった補正なのか、彼女の見るディルは本当にかっこよかった。惚れ直すほどに。


 ドラゴンステーキのときはつい『あーん』をしてしまった。リリが若干怒っている感じだが、妬いているのだろう。この子はディルに対する執着心がなかなか強いから。


「むふふ!」


 あーんできたことに、こっそりとドヤ顔をするミリアはなかなかに可愛げがある。

 さて、彼女の恋が成就するときはいつ来るのだろうか。

 

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