幕間「女神に賜りし自由」
魔龍討伐後、王国騎士団本部団長室の一幕。ライオネットとキースが雑談をしていた。
「何とか犠牲者ゼロで討伐できてよかったですね。助っ人のディルがぶっ倒れましたけど……」
「そうだな。それにしても、ディルのあの魔法は凄まじい」
二人はその身に魔法を展開されていたため、その性能を身に染みて感じていた。
「ああ、
ディルが二人に展開した魔法、
対人保護結界に自動反撃性能、そして身体強化付与とてんこ盛りなのだ。
ちなみに創造魔法というのは、基本的な魔法ではなく、発動者が自身の魔法を組み合わせるなどして生み出した魔法のことである。
それぞれで発動するより、どういうわけか各性能が少し上昇するという。その理由はディル自身もよくわかっていない。
「あれ、身体強化付与が自分のより強力なんですよね〜。戦ってて気持ちよかったっすもん」
「その気持ちはわかる。確かにお前は露骨に楽しそうだったな。俺も毎回あれには驚かされるよ」
身体強化魔法。これは王国騎士団員であれば全員が当然使える基礎魔法である。人によってその強化具合は異なるが、ライオネットやキースは相当な身体強化を施すことができるが、ディルの創造魔法はそれを上回るものなのだ。
しかし、これは諸刃の剣のようなもので、“強化後の世界”に順応できなければデメリット以外の何物も残らないのだ。場合によっては身体強化がしに直結することもある。
「正直、久々だったから、初動で適応できなければ二人してあの世行きだったかもしれんな」
「防御結界があるのですぐには死なせてもらえなかったかもしらないっすけどね! ははは!」
キースは笑っているが、これは笑い事ではない。適応ができない場合は、自分の強化された体の速度に頭がついていかないという最悪の状況になる。こればかりは、団長、副団長クラスの実力がある故にクリアできたことだろう。
「それより、ディルが倒れた時のほうが俺は死ぬかと思いましたよ」
「うむ……あの瞬間は全てがスローになったな。久しぶりに本気で焦ったよ」
そして、ディルの意識消失。魔力欠乏のタイミングだ。この瞬間は同時に二人の身体強化が途切れた。
世界の圧倒的な落差を感じながらも、魔龍を屠るため、再び自分に身体強化を施すことになった。
非常に器用な芸当であり、これもまた、二人の実力を如実に現していた。
「それにしても、本当にあれだけの身体強化はどうやってんすかねー」
「俺も知りたいくらいだ。ただ、あれは才能だろうな。ディル自身もよくわかっていないらしい。それに、身体強化単体だと、あれほどの強化倍率にはならないからな……」
もしそのカラクリがわかれば、王国騎士団の戦力底上げになるのは間違いない。
「妬けちゃいますねー。あれで剣術やらの戦闘センスあったら本物の化け物っすよ」
「あの防御結界の時点でディルは頭ひとつ抜けてると思うがな。拘束魔法の強度も跳ね上がっていた」
「ああ、あのときの。抜け出せそうになかったんすか?」
「身体強化込みでも怪しかったな」
「筋肉オバケなのに!?」
自然と地雷を踏むキースである。
「てめえ、殺すぞ」
「すみません。冗談です。本当にすみません」
王国騎士団の最強格二人をして化け物と言わしめる能力。剣術や攻撃魔法など本来目立つところでは並みであっても、ディルの防御魔法には目を見張る異常なセンスがある。
防御魔法は並以上だとディル本人も自覚しているが、それが団長クラスをもってして異常と思わせる領域に達していることまでは考えが及んでいない。
「あの水準が当たり前だと勘違いしないようにしないと、ほんと、将来が怖いっすよ」
「そうだな。まあ、今後はそこまでディルの力を借りることもないと思うが……」
まあ、俺が団長の間はなるべく手を借りたいけど、とは言えなかった。
「実際訓練ではかなり貢献してくれてたし、たまに手伝いのお願いはしてもいいんじゃないっすか? 時間があればあいつも来てくれるでしょう」
「うーん。話してる感じ孤児院の子たちが最優先だからな。怪しいぞ」
「そりゃもう、子どもたちも王都にウェルカムしてに決まってるじゃないですか。あいつ単体なら多分来ないですよ」
「まあ、そのあたりは考えてみる。ディルの意思が最も大切だからな」
「よろしくっす」
これほどまで王国騎士団を退団後に求められる人材はいない。ディルはそれだけ貴重な存在だったのだ。
そして、余談となるが、
これは本当に人智を超えた存在の力を借りて行使しているものだとは誰も知る由もない。この魔法を創造したディル本人でさえも。
この魔法の『創造』により、新たな女神が生まれてしまったなどという戯言を誰が信じるのだろうか。
『戯言ではないのですけれどね……』
『創造』魔法である
それに気付けないほど平和で穏やかな日々が続くことこそ理想ではあるのだけど。
『女神リーシアの加護は貴方様だけに』
『いつか、必ず会いに伺いますね』
美しい女性の瞳は、ドロリとした形容し難い感情を孕んでいるようにみえた。
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