第8話「休息日 その3」
「へい、お待ちぃ!」
これが、らぁめん。どう食べればいいんだ? スープの中に細い麺が大量に、そして肉やら野菜やらがふんだんに乗せられている。
「お二人さんは初めてかい!?」
「「は、はい」」
「よーし! 俺が食い方をレクチャーしてやる!」
店主のおじさんがらぁめんの食べ方を教えてくれた。結論から言おう、何杯でも食べれると思うほど美味しい。
ここ最近は未知との出会いばかりな気がする。良い意味でね。
「「ごちそうさまでした」」
「おう。また来てくれよな!」
「必ず来ます」
俺は即答した。朝のハンバーガーに昼のラーメン。あの子たちも連れてきてあげないとな。絶対にみんな笑顔になる。それが見たくてうずうずしてしまう。
「先輩はどこか行きたいところとかありましたか?」
「俺か?」
ミリアの気晴らしにでもなれば良いと思っていたから、あまり考えてはいなかったな。というか、王都の色々な店を知っているほど外出を沢山していたわけでもないし。
「とりあえず、飯食ったばかりだから少し歩くか」
「はい!」
昼下がり、通りも人が増えてきてより賑やかになってきている。
「なぁ、ミリア」
「はい」
「まだ食べれるか?」
「で、デザートなら……」
デザートは別腹っていうやつか。可愛いな、おい。
「チーズケーキ食べにいかない?」
俺はチーズケーキにハマってしまっていた。あの、口の中で溶けるような食感と同時に広がる濃厚な味、とてもじゃないが、忘れろというほうが難しい。
機会があるなら積極的に食べたいと思うくらいには好きになっていた。
「行きたいです!」
うん、ミリアもチーズケーキが好きなんだね。その目の輝きを見たら同志だとすぐにわかってしまうよ。
その後、すぐにチーズケーキを食べに行った。客はまだ少なめだったのでゆっくりと焦ることなくチーズケーキを堪能することができた。最高の気分だ。
もちろん、みんなへのお土産としてチーズケーキとクッキーも買った。昨日も食べているが、大丈夫だよね?
「私にまでいいんですか?」
「もちろん。クッキーなら日持ちするし、焦って食べなくても大丈夫だろ?」
ミリアにはクッキーを多めに買ってあげた。なんだか、孤児院の子たちにしてあげるような感覚になりつつある。
「ありがとうございます!」
「いいんだよ。付き合ってくれたお礼でもある」
指輪の件は本当に助かった。
「そんな、私こそ付き合ってもらってる感じで」
「お互い様だな。はは」
「ですねっ!」
魔龍討伐の空気感から解放されると本当に気持ちが晴れ渡る。ミリアも気分転換になっているよな。
まあ、朝会った時よりずいぶん明るくなっているからそうだと信じよう。
「あの、先輩」
「どうした?」
「お話ししたい……ことが!」
急に神妙な顔つきになってどうしたのだろう。何か忘れていることとか?
「昨日とかもずっと考えていたんですけど、私先輩のこと――「おにいちゃん!!」
「リリ!?」
何かとても大切なことを言おうとしていた感じだが、綺麗にリリが間に挟まってきた。
「おにいちゃん、このひと、だれ?」
ああ、ちょうどレスターさんやみんなもこの辺りに来ていたのか。少し離れたところにみんながいるのを確認した。
「リリ、ちょっと待ってね。ミリア、ごめん。続きは」
「うぅ〜! 恥ずかしいのでなしで! また今度!」
「お、おう……」
「ねえ、だれなの」
少し神妙な感じから一気に空気が崩れたな。
「この人はミリア。俺の後輩だった子だよ」
「ミリアです。リリちゃん、でいいかな。よろしくね」
「ん、よろしく。でも、おにいちゃんはわたしの! ね、抱っこ〜」
本当にリリは抱っこが好きだな。
「はいはい」
「あ、羨ましい……」
このとき、リリが最大級に勝ち誇った顔をしていたことを俺は知る由がなかった。あとさ、羨ましいって何だよ。さすがに俺はミリアを抱っこはできないぞ。
小っ恥ずかしいし、それ以前にサイズ感ね。俺とそんなに身長変わらないから。
「おにいちゃん、さびしかっのー」
「ああ、ごめんな。よしよし」
「んんん〜♪」
「羨ましい……」
変な空気感でこの奇妙なやりとりはこのあと数回続いた。
「そろそろいい時間か」
「そうですね。私も寮に戻ろうと思います」
「送るよ」
「送って欲しいですけど……孤児院の子たちもいるようなので、大丈夫です! 今度また遊んでください!」
細かい気遣いのできる後輩だよな。ただ、本当に送ってやりたいんだけど。今日は甘えさせてもらうかな。
「なんなら孤児院に遊びに来てもいいからな。セラフィも一回きてるし」
「……え? セラ先輩が? むぅ。わかりました! 今度時間ある時にお邪魔します!」
「おう。それじゃ気をつけてな」
「はい。今日はありがとうございました」
ミリアとはここで解散することにした。俺はこのあと武器屋にも行かなければならない。
「リリ? このチーズケーキとクッキーはお土産だったんだけど、先に持って帰ってもらえるかい?」
「おにいちゃんは一緒じゃないの?」
まだ用事も残っているからね。
「昨日の武器屋とかに寄って帰りたいからさ。ほら、レスターさんたちも待ってるから」
「ん、わかった! あとでまた抱っこしてね!」
「はいよ。それじゃ、お土産よろしくね」
「うん!」
リリはレスターさんたちの元へ戻った。なかなか嵐のような一幕だったな。本当は一緒に帰りたいけど、俺はこれから武器屋に行く。
ギャランの剣とリリの短剣を受け取るためだ。ここでリリを連れて行くならきっとみんなも一緒になるし、レスターさんにも負担をかけてしまいそうだからね。
リリが素直に戻ってくれて今回ばかりは助かったかも。
「さて、行くか〜」
至福の一日だった。リリに渡す魔道具の指輪も買ったし、とにかく美味しいものも沢山食べたし。
少し大変な思いをしたご褒美だと思えばちょっとハメを外して食べ過ぎたりしてもいいよね。
「こんにちは」
「お、来たか。剣と短剣はできてるぞ。ほれ」
「ありがとうございます」
「そういえばギルドから話はきたか?」
魔龍討伐後は一日意識を失ってて、昨日と今日は遊び呆けてました。
「いえ、特には……」
「そうか。詳しい中身は知らないが、緊急依頼とやらで登録者に声がかかっているらしいぞ」
嫌な話を聞いてしまったな。
「な、なるほど……情報ありがとうございます」
おいおい、緊急依頼ってなんでしょうかね。魔龍討伐で疲れた体を癒やす時間はもう終わってしまうのか。
「なんにせよ、気をつけてな。それじゃあな」
「ありがとうございます」
剣と短剣を受け取り、あとは帰るだけだ。それにしても、ここにきてまた厄介な話が持ちかけられるとさすがにしんどいな。
もちろん、緊急依頼である以上『誰かが危険に晒される』なら俺は関与していきたいと思う。
今の最優先は孤児院のみんなだが、言うまでもなくこの王都民も見捨てようとは思わない。こんな俺の力でも守れるならって、そう思うんだ。
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