第7話「休息日 その2」

 俺は朝一から王国騎士団本部へやってきた。目的はミリアを借りることだ。約束もあったからな。

 ちなみに孤児院の子たちは今日はお留守番だ。というか多分、レスターさんが連れ出すと思う。


「ミリア、今日は大丈夫なのか?」

「団長に話したらお休みいただけました」


 さすがにミリアにも息抜きが必要だろうから、ライオネットさんはそのあたりにちゃんと理解を示してくれる良き上司だ。


「ならよかった。それじゃ行こうか」

「はい!」


 結局ミリアと二人きりになってしまったな。彼女が嫌でなければいいけれど。


「二人きりだけど大丈夫か? なんか、子どもたちもいるって話してたけど」

「大丈夫です! むしろ、嬉しいというか」

「ん? それならよかった」


 ミリアもかなり疲れているだろうからな。特に心労は半端じゃないはずだ。二度も死ぬような思いをして、挙げ句の果てに俺がそこで倒れてしまって。

 先輩として、元直属部下のアフターケアはしっかりしてやりたいと思う。


「そうだ、帰りに武器屋に寄りたいから、それだけ俺に付き合ってくれ。あとはどこかいきたいところとあれば付き合うからさ」


 武器屋に寄るのを忘れたらギャランとリリに怒られてしまうだろうからね。


「えと……まず、お礼だけ改めてさせてください。二度も救っていただいて、本当にありがとうございます!」

「いいんだって。それが俺の仕事だからさ。こちらこそ介抱してもらって助けられたからさ。ありがとな」


 情けない姿を晒してしまったよな。


「あう……」

「今回陽お互い様だな。さ、どこ行く?」

「んー……とりあえず朝食行きませんか?」


 そうだった。今日は珍しく、朝一から出ているため朝食は抜いているのだった。


「そうだな。俺も朝食まだだった。おすすめのお店とかある?」

「それなら、一度行ってみたいと思っていたお店があって!」


 切り替えは大切だ。今日また遊ぶぞ。


「よーし、そこへ行くか」

「はい! やったー!」


 ミリアおすすめのお店へと朝食へ向かうことにする。


「ここのお店のハンバーガーというものがとても美味しいんです」

「ほうほう」


 名前を聞いてもピンと来ないが、美味しそうな響きである。早速食べてみましょう。俺はビッグチーズバーガーというものを注文した。


「うっま!!!」

「ですよね!」


 なんだこれは。パンにチーズと肉やら野菜やら色々なものが挟まっているのだが、もうなんだか全部の味がまとまっていて美味しい。

 これは孤児院の子たちにも食べさせてあげたい。忘れなければ王都を出るまでにもう一度来ることにしよう。


「他にも種類があるので、全部制覇目指してくださいね」

「これは制覇を目指したくもなるな……ほんと美味しいわ」

「よかったです」


 一気に食べてしまった。俺も長いこと王都にいたが、わりと知らないことばかりだったんだな。特にグルメ、スイーツは関心がなかったから。今はどハマり中ですけどね!


「「ごちそうさまでした!」」


 朝からお腹が気持ちいい。美味しいものを食べた後の多幸感は気持ちが良い。

 ちなみに次の楽しみはこれから確実にいただくことのできるドラゴンステーキだ。早く食べたい。


「ああ、そういえばさ」

「どうしました?」

「アクセサリー屋に行ってもいいか?」


 忘れる前に。リリの指輪だ。


「大丈夫ですけど、何か見たいものがあるんですか?」

「指輪が欲しいっていう子がいてね」

「なるほど……魔道具の指輪ならサイズも自動調整されるのでいいかもしれませんね。売ってるお店知ってるので行きましょうか」


 さすがミリアだな。色々と知っている最近の若い子って感じだ。


「ありがとう。助かるよ」

「いえいえ」


 リリからの要望である指輪を忘れてしまうところだった。きっと忘れたらかなりムスッとしてしまうだろうな。

 そんな姿も見たい気持ちはあるが、やっぱり傷つくところは見たくないので却下とする。


「ちなみに、魔道具なので、魔力を込めて一つ魔法を保持できたりします」

「ほえー……よくわからないけどすごいな」


 すまない。俺は知識がなさすぎて、その魔法を保持するとか何言ってるかわからない。

 自分の使えない魔法を行使できるってことなのだろうか。ロマンすぎないかな。そんなのさ……俺も欲しくなるじゃない。


「面白そうだな。俺も買ってみるかな。ミリアはどうだ? 欲しいなら一緒に買うぞ」

「そ、そんな……お、お揃いでも?」

「それでもいいんじゃないか?」

「きゅん。そしたら私も選んでみますね」


 デザインは色々あるようだ。俺はまずリリのものを選ぶ。あまり好みとかはわからないんだよな。可愛いものが好きとかクール系が好きとか。

 ん? このクマの刻印がある指輪は可愛いかもしれない。これにしようかな。


「ミリアは選べたか?」

「んー……もう少し待ってください……悩み中です」

「おう。そしたら俺ももう少し色々みてみるな」

「はい!」


 魔道具って便利なんだな。指輪も面白いけど、同じような機能のあるブレスレットや髪留めなど、様々なものがある。

 孤児院の子たちにそれぞれ一つずつ買ってあげたいが、さすがに予算オーバーしそうだな。

 リリの指輪は今回一番高い買い物になりそうだ。良さそうなものを選んだからね、仕方ないね。贔屓ではないぞ、決して。


「決めました〜!」


 ミリアが指輪を二個持ってきた。本当にお揃いのやつじゃないか。恥ずかしくは……なさそうですね。


「翼のデザインか」

「はい。片翼ずつになっていて、二つで一つ、みたいな感じのやつです!」

「かっこいいな。よし、買ってくる」

「ありがとうございます!」


 ふむ、あまりわからないがかっこいいので良しとする。

 ミリアはかなり顔が紅くなっているが、体調不良か、まだ疲れを引きずっているのだろう。この後少し休むかな。


「ほれ」

「わあ! 嬉しいです! 早速つけてもいいですか?」

「おう」

「じゃあ、先輩の魔力を込めてください。魔法は対人保護結界で!」


 予想はしていたが、やはり頼まれたか。


「よくわからないけど、やってみるな」


 モノに魔力を込めるなんて経験はない。だが、やってみればなんとかなるものだ。感覚的なところだが、できるものはできる。やったぜ。リリの指輪にも同じようにして渡してやろう。


「きゅんきゅん。本当にありがとうございます!」

「顔紅いけど大丈夫か? 少しあっちで休むか」

「照れてるんですけど……ん、わかりました!」


 小さい声で何やらぼそぼそ言っているが、わかったみたいだから休憩におあつらえ向きなベンチへ向かう。

 まだ昼前なので通りに人も少なく、穏やかな時間だ。賑やかなのも悪くないが、こう少し静かな感じは心が休まって安心できる。


「先輩、私って騎士団でやっていけると思いますか?」

「そりゃもちろんだ。能力は高いし、対人でしっかり実力を出せれば最高だな」


 俺よりも潜在能力は明らかに高いからな。


「うう、そんな褒めないでください」

「お世辞じゃないぞ。その指輪をお守りだと思って思い切って挑戦してみな」

「……っ。はい! あ、飲み物買ってきますね! 指輪のお礼です!」

「お、よろしく〜」


 そうだな。やはり引っ込み思案な部分が課題だと思っている。その壁を破ることができれば、ミリアは大きく成長できるだろう。何せセンスは抜群だ。それはもう、俺も羨ましいと思うほどに。

 俺は防御系統しか取り柄がないからな。綺麗な剣戟とか上級の攻撃魔法なんてロマンだよ、ほんと。


「それにしても昼食は何にするかな〜」


 それにしても食べることばかり考えてしまう。まあ、魔龍討伐で使った体力を戻すためだからね。

 うんうん、たくさん食べないとダメなんだ。


「先輩、どうぞ」

「ありがとな。ミリア、昼食はおすすめある?」

「んー……ん! “らぁめん”というものを食べに行きませんか? 最近王都で流行り始めているみたいで」

「また響きからして美味しそうなものを……昼食はそれにしようか」


 ミリアはグルメ通なのだろうか。らぁめん……楽しみで仕方ないな。

 今日の夜は少し鍛練を強度高めにやろう。きっと食べ過ぎて栄養過多になるのは間違いないから。

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