第6話「休息日 その1」

「おにいちゃん!!!!! なんで!!!」


 リリ、ごめんな。


「兄貴いいいい! よかったあ!!」

「ディルにい、心配したんだよ!」


 ギャラン、テオ、ありがとう。


「我をおいていくなど、やめんかあ!」

「ディル様、おかえりなのー」


 サリー、ディーちゃん、ただいま。


「ディルにーちゃん、おかえり。待ってたよお」

「ディルさん、お疲れ様です。怪我もなさそうで、よかったです」


 ミィちゃん、ミレイちゃん、ありがとう。


 それにしても、そんなぐいぐいくるなよ。嬉しくなってしまうじゃないか。

 あの後、俺は団長に事情を話し、すぐに孤児院の子たちのもとへ向かった。レスターさんは付きっきりでみていてくれたようで、安心した。


「よし、それじゃ王都に遊びに行くか!」


 ちなみに色々あって王都にはあと数日滞在することになった。なんだかんだ、報奨金もかなり貰えるらしい。

 貰えるものは貰いたいからもちろん辞退などしない。いずれにせよライオネットさんが辞退なんてことはさせてくれないだろうけど。


『やったー!!!』

「ディル君、体は大丈夫かい?」


 レスターさんは俺が魔力欠乏で倒れてしたことを知っている。


「レスターさん。俺は大丈夫ですよ。丸一日寝て元気になりましたよ」

「良かった。でも、病み上がりなんだからまだ無理しないでね」

「ありがとうございます」


 ミリアは別の日に誘うとするか。今日は忙しいだろうからな。


「よし、行くぞー」

『はーい!!』


 さくっと準備を終わらせ、七人の子どもを連れて王都へ繰り出す。俺が求めていた光景なんだよ、これが。

 ああ、魔龍討伐の疲れが一気に癒やされていく。


 まだ、午前中。まずはディーちゃんとテオ、ギャランの要望からこなしていくか。櫛と服、そして武器屋だ。

 昼食後にデザートでチーズケーキとクッキーを食べにいくとしよう。これはサリー、ミィちゃん、ミレイちゃんの要望だな。

 アクセサリーは小っ恥ずかしいし、明日以降にミリアも誘って一緒に選んでもらうかな。

 なんだかんだリリはムスッとしながらも肯定してくれた。


「好きなもの買ってあげるから、好きなだけ選んでおいで」


 まずは櫛と服だ。この子たちは欲が小さいのか出来すぎているのか、櫛は二本、服も二枚、それぞれ買ってあげた。

 テオはすぐに着替えてて先ほどよりかっこよくなっている。


「テオ、似合ってるぞ」

「ディルにい、ありがと!」

「ディル様、今日はこの櫛で、お手入れいい?」

「もちろんだよ」


 そして武器屋。ギャランは剣を欲しがっていたな。


「店主さん」

「お、ディルか! 久しぶりだなあ!」

「お久しぶりです。この子の剣を見繕って欲しいのですがお願いできますか?」


 俺の剣もここの武器屋のものだったりする。


「おう! 任せろやい! 坊主、こっちきな」

「わ、わかった」

「大丈夫だよ。いっておいで」


 ちょっと不安がるギャランは珍しいな。やはり慣れていない人だと最初はそんなものだろう。子どもらしいところが見れて安心した。

 武器屋の店主は俺が剣を購入していたこともあり、顔馴染みだ。今更ながら、名前は知らない。あとで聞いておくか。


「うーん、少し調整が必要だな。明日取りに来てくれるか?」

「大丈夫ですよ。では、また明日」

「よろしく頼むぜ! おじさん!」

「任せとけ!」


 さっきまでの不安はどこにいったのか、ギャランはもう慣れていた。順応性の高さには本当感心するよ。


「リリ? どうかしたのか」

「これ、この短い剣、欲しい」


 これまた珍しい。リリが短剣か。


「店主さん、ちょっといいですかー?」

「どうしたー?」


 リリの選んだ短剣は俺の使っている剣と同じ刻印がされている。それを知ってか知らずか、でも、リリが欲しいというなら買ってあげたい。

 まあ、危ないことには一切使わせないから、これは思い出の品ってところだな。


「それじゃ、明日よろしくお願いします」

「おう、毎度あり!」


 リリの短剣も調整をお願いして明日取りに行くことにした。また外に出るしそのついでに受け取ろう。


「よし、昼食にするか。何食べたい?」

『にくー!』


 満場一致で肉だった。俺も実は肉が食べたかったんだよな。王都だと焼肉のお店があったはずだ。そこに行くとするか。


 俺も初めて入ったが、とにかく凄かったら。タレというものに付けて肉を食べるのだが、これがもう絶品だ。

 みんな腹が膨れるくらいしっかり食べていた。俺ももう食べられない。ぜひまた来たいところだ。


「美味かったなあ……デザートは食べれるか?」

『もちろーん!』


 うんうん。若いって強い。その後、お菓子のお店へ出向き、そのままチーズケーキとクッキーを注文した。俺は飲み物だけだ。お腹が満杯で何も胃に入れられません。

 余談だが、チーズケーキとクッキーは山盛り食べた焼肉より値段が高かった。スイーツ、恐るべし。


「レスターさんにもお土産を買って行こうかな」


 レスターさんにはクッキーをお土産に買った。子どもたちも大満足のようで俺も安心したよ。

 まだ時間はあるが、いつもなら昼寝の時間だ。ちょっと早いけど、そろそら帰るとするかな。


 宿、というかレスターさんが手配した一軒家に戻り、早速みんなはお昼寝の時間だ。みんな幸せそうに寝ていて、俺も心が和む。

 やっぱりこの空気は大好きだ。改めて孤児院にきたことを良かったと再認識した。


「それにしても……魔力欠乏か」


 魔力欠乏。俺が今回の魔龍討伐時に魔力を使い果たして倒れた時の状況の正式名称だ。

 まさか自分がとは思わなかったが、あの場面で倒れるのは本当にまずかった。

 魔龍が息も絶え絶えだったタイミングだったから良かったものの、状況によっては被害を広げていた可能性がある。

 俺が倒れた時点でライオネットさんとキースさんに展開した魔法は打ち止めになっているし、倒れた以上、結界魔法の展開は不可能だった。

 今回は運に救われたが、今後の課題として忘れないようにしないとな。


「魔力欠乏は魔力の限界点を上げる、なんて言うから今回はラッキーだったと割り切るしかない、か」


 なるべく魔力欠乏すれすれまで魔力を使って、休んで、またそれを繰り返す、というトレーニングも日課に加えることにしよう。

 俺にとっての魔力欠乏寸前の合図は頭痛だ。これに吐き気まで絡むと恐らくすぐに倒れる。そういう学びもあったから、うん、考えすぎないようにしないとな。

 今という時間をきちんと享受しないと。くよくよしても何も変わらない。


「俺も少し寝ようかな」

「おにいちゃん、きてー」

「はいよ」


 リリに腕枕をしてやって俺もほどなくして夢の世界へ落ちていった。とても充実した一日だったと思う。本当に。

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