第5話「出征 その2」
「GYAAAAAA!!!」
魔龍の視線が二人からズレた? 恐らく、誘導の結果ではない。嫌な予感がする。伏兵に気付いたか!?
「高度結界!!!」
あー……魔力、やばいかも。
俺は魔龍の視線が一瞬向いた先に高度結界を展開した。
「GYAAAAAA!」
「おい!?」
「やばいっす、何人か死んだかも」
魔龍は案の定、高度結界を展開した先にブレスを放った。俺の高度結界に一撃でヒビが入るレベルだ。
やはり直撃していたら骨すらも残らないレベルのものだ。
「ディル、ナイスカバーだ!」
「よし、キース! 続けるぞ。ディルの魔力消費もさすがにやばいだろう」
ライオネットさんとキースさんの無数の剣戟が魔龍を撹乱し、着実にダメージを蓄積しているのが目に見えてわかる。
その隙に今しがた狙われたグループは魔龍のターゲットに含まれた可能性が高いので、一旦俺の傍に避難してきた。
これは事前の計画通りだ。とはいえ、高度結界もあと一度展開できるかできないか。動悸で胸が苦しい。
「せ、先輩……」
「今は前を見ろ」
あのグループにミリアがいたのか。泣きそうになっているかもしれないが、慰めている暇はないし、前を見ろと指示するしかない。まだ仕事は残っているのだ。
しかし、少し頭痛がしてきた。次にあの二人以外がターゲットになると、俺もかなり厳しいぞ。
「GYAAAAAA!!!」
「首ィ! かってえ!?」
「よし、次は後脚だ」
「了解!」
二人の剣戟は止むどころかその勢いを増し続けている。魔龍の傷と出血も遠目にも目立つようになってきた。
あと少しだろうか。僅かだが、魔龍の動きにキレがなくなってきた。二人から合図があれば俺が拘束魔法を魔龍に展開し、一気に全体で攻撃する。
それにしても、これは隊長クラスでなければまともに相対できないだろう。身体強化込みで彼ら二人の速度に追いついている巨体は本当に恐ろしい。
「ディル!!!!!」
「!」
ライオネットさんからの合図だ。俺はすぐに前に出る。
「拘束魔法! ……ぐっ」
魔力が限界近いか、これ。ちょっと危険域かもしれない。
「せ、先輩!?」
「来るな! まだ待機しろ」
「うぅっ……」
ミリアが前に出てきても邪魔だ。まず、魔龍を拘束し、その後に一斉に前線へ出る。これは魔龍討伐作戦であり、無駄な行動は許されない。
「ナイス!」
「総員!!!」
数秒後、魔龍の一時的な拘束が完了した。暴れるたびに魔力弾によるダメージも蓄積される。
魔龍の尻尾にさえ気をつければここが最初で最後のトドメのチャンスだろう。
「いくぞ!」
「は、はい」
ミリアも最終攻撃に向かった。頼むから尻尾にだけは当たってくれるなよ。
「あと少し……ふぅぅぅ」
「GYAAAAAA……」
あと少し、あと少しだ。首に大きな傷を負っているので、ほぼこちらの勝利は確定している。あとは最後の一撃……脚は無力化できているから、あの尻尾の被害に遭わないようにすればこちらは犠牲者なしでの勝利となる。
頼む、俺はもう魔力がかなり厳しい。何事もなく……
「おい! ミリア! 高度結界!」
なんでこう、間が悪いのか。不安になったから目で追っていて良かった。
「きゃあ!」
「うぐ……おえ……」
魔力の限界はここだったか。急激にとてつもない頭痛と吐き気に襲われた。視界が半分ほど黒いもやがかっている。
「GYA……」
魔龍は、やったか? あぁ、ダメだ、意識を保てない。ミリアは、無事……な、のか。
「俺はディルを見てくる。みんなは解体を進めてくれ」
「団長、私も……」
ミリアは結果として無事だった。衝撃を受けてはいるものの、ディルの結界により無傷だ。
「……わかった、来い」
魔龍は無事撃退した。完勝である。ただ、ディルは最後にミリアを守るために魔力を使い果たし、見事に倒れたのだ。
万が一、これで魔龍にトドメが刺せなかった場合、かなり厳しい戦いになっていただろう。
「先輩! 先輩!」
「ミリア、大丈夫だ。命に別状はない。魔力欠乏引き起こしているようだ。少しディルのことをみててくれるか? 俺は一旦解体に合流する」
ディルも命の危険はない。ただ、魔力を使い切ったことによる一時的な症状だ。
「わかりました! ……私の、せいですので」
「そんなことはない。とりあえずディルには感謝してやれよ。よろしく頼む」
「はい……」
そう、これはミリアの非は一切ない。魔龍のブレスについては仕方ないし、あの最後の尻尾だってどこに飛んでくるかわかったものではないのだ。むしろ反応したディルが凄いというものである。
「先輩、ありがとうございます」
「……」
魔龍の解体は無事終わり、帰還することになったが、ディルは目を覚さない。魔力切れによる意識喪失は、一定程度魔力が自然回復するまで戻らないのだ。
恐らく、ディルは最低でも今日一日は目を覚まさないだろう。明日には目を覚ますだろうが、ミリアは気が気ではない。
「先輩、先輩……」
二度も命を救われた。憧れの先輩に二度も。それも先輩の力を限界まで使わせしまって。
「どうすれば、私は先輩に報えますか?」
その答えは誰にもわからない。ただ、彼女の心にある憧れは少しずつ別のものに変わっていた。
ディルが退団し、少し離れてから久々に会った時、妙にきゅんきゅんするようなことが増えた。頭を撫でられた時は心臓がとてもバクバクした。
「……そういうこと、なんですかね」
そういうことなんです。でも、彼女がこの気持ちにきちんと気付く日はいつくるのだろうか。
「うぐ……気持ち悪いぃ……あ、魔龍は!?」
「先輩、お疲れ様です。魔龍は、終わりました」
ミリア、死んでなくてよかった。
「そ、そうか。ミリア、怪我は?」
「……先輩のおかげで無傷です。本当にありがとうございます」
「それならよかったよ……」
目が覚めたら魔龍討伐は終わっていた。丸一日眠ってしまっていたらしい。魔力切れか……情けない。
とりあえずミリアに怪我はなかったようで安心した。頭を撫でてやるか。
あと、孤児院の子たちにも早く会いに行かないとな。
「きゅん……きゅん……」
さて、起き上がれるようになったら団長室に行きますか。いち早くここから出てあの子たちのところへ向かわないと。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
いつも読んでありがとうございます。
戦闘シーンはちょっと苦手なのでわりと端折ってしまってます。
なんとかみなさまのご想像で補っていただければと思います。
今後とも応援などよろしくお願いします。
近況ノートにキャライメージを載せているのでそれも見ていただけると嬉しいです!
https://kakuyomu.jp/users/popoLON2114/news
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます