第4話「出征 その1」
三日という時間は瞬く間に過ぎた。俺なりにやれることはやったつもりだが、やはり期間が短すぎるな。
「では、これより魔龍討伐へ向かう」
行程は途中で野宿を挟む。つまり魔龍との邂逅は今日ではなく明日だ。本当に緊張してきた。
ミリアは大丈夫そうかな……大丈夫じゃなさそうだな。あとで声かけしよう。道中は特にやることないし、少しくらいのお喋りは許容される。
「ミリア、緊張してるのか?」
「先輩……そうですね」
「きっと死ぬようなことはないし、安心しろ。俺もいるからな」
「きゅん。は、はひ」
それにしても、参加は概ね四十人か。前回と規模は変わらないくらいの人数だ。全員が戦闘に参加するわけではないし、解体した魔龍の運搬もするから人手はそれなりに必要なんだよな。
「ただなあ、流れ弾だけには注意してくれよ」
「そんなに危険なんですか?」
「この前話したが、直撃したならよくて重傷、多分死ぬから」
冗談ではない。例えば、ブレスなんて正面から受けたら骨すらも残らない。
「は、はい」
「最前線はうちの団長と副団長だし、それだけ気をつければ大丈夫だから」
「わかりました……」
余計緊張させちゃったかな? どうしよう。
「それと、これ終わったら孤児院の子たちと王都を回るんだけど、一緒に来るか?」
「え、いいんですか? そ、それって、で、で、でー……」
セラフィもすんなり受け入れられたんだ。ミリアも大丈夫だろう。
「もちろんだ。多分あの子たちも懐くと思うよ」
「は、はい。先輩が良ければぜひ!」
「俺が誘ったわけだし良いも悪いもないよ。だから、魔龍討伐はさっさと終わらせような」
「はい!」
よし、ちょっとは元気が出たようでよかった。セラフィは……キースさんと談笑している。
悪いこと話している顔してるなあ。あの二人、団長のこといじくったりしてないよな。
「先輩も……怪我、しないでくださいね」
「大丈夫だよ。自分に対しては常に結界を展開しているから、今この瞬間に闇討ちされても大丈夫だ」
もう癖だからな。鍛練の一つでもある。
「す、凄いですね」
「逆に俺はこれしかできないからさ。みんなを守れる力だと思えば嬉しいもんだよ」
「やっぱり凄いです」
「はは、ありがとう」
道中は少し魔物と出会うことがあったが、俺が何かをするわけでもなく斬り捨てられていた。つまるところ、俺は平和だ、今は。
「ディル、野宿のときの結界はお願いできるか?」
「大丈夫です。もうこの周辺に展開していますよ」
こういうのが俺の役割だ。兵たちが十分に休める土台を築くこと。
「助かる。明日への影響は?」
「この程度ならありません。一応見張りも立つみたいなので強度もそこそこにしていますし」
「わかった。明日はよろしく頼むぞ」
「はい」
ライオネットさんは全体を統括する団長だけあって、一人一人を鼓舞して回っている。こういう気の周り方をする人が上に立てる人なんだろうな。
キースさんも軽口だが、そういう気遣いはかなりできる。だから狼人種とかそんなのは関係なく、恐らくライオネットさんの後継となるだろう。
夜は何事もなく過ぎた。結界に攻撃があれば俺も目覚めるが、そんなこともなく熟睡できた。
「では、進行を開始する。気を引きめるように!!!」
さてさて、今日が本番だ。団長の一言で全員の気が引き締まるのかわかる。ピリついているわけではないが、良い空気感だと思うよ。
「ディル」
「展開済みです」
「負担をかけてすまないな。助かるよ」
万が一魔龍の奇襲に遭った場合への対処として、俺が常時周辺に高度結界を展開している。
なので、昨日以上にまとまっての移動となる。範囲は狭い方が負担が軽いからね。
どこからが魔龍の縄張りなのか、それが厳密にわからないため、さすがに緊張する。正直、奇襲を受けると統制が少し乱れそうで怖いんだよな。
そのときは隠し球である『
この結界魔法はとにかく結界内側をガチガチにして、簡単にいうと結界内に相手を閉じ込めるものだ。
魔龍レベルの足止めとなると、
「さて、何事もなければいいけど」
今のところ、何度か魔物とは出会っているが、魔龍の奇襲はない。魔物と出会っていることは普通に考えれば安心材料なのだ。この周辺には魔龍はいない、つまり奇襲の可能性は低い、と。
それでも、あり得ない話ではないんだけどね。
「この先だ」
結局、奇襲はなかった。それどころか、魔龍は少し離れたところで食事中だ。
俺たち討伐隊はすぐに陣形の確認を取る。ライオネットさん、キースさん、俺が最前線だ。あとは三グループにわかれて待機する。最終迎撃隊だ。
「ディル、頼む」
「
ライオネットさん、キースさんに身体強化付与と自動反撃効果のある結界を展開する。魔龍の攻撃も衝撃は凄まじいと思うが、躱せずとも何発かは耐えられるだろう。
「いや〜、相変わらずすげえなこれ」
「キース、無駄口を叩くな、いくぞ」
まずは足止めと魔龍の体力削りだ。この二人でどこまでいけるか。
二人が離脱すると、隊長クラス五人を含む迎撃隊が前に出る。できれば、ここである程度やれると安心できるのだが。
「いくぞ!」
「おっしゃ!」
二人は目にも止まらぬ速さで魔龍へと向かう。さすが魔龍、二人の到達前に気配を感じ取ったのだろう。ギョロリとこちらへ振り返る。
「GYAAAAAA!!!」
あとは流れ弾に注意をするだけだ。俺はもちろん防御結界を自分に展開しているため大丈夫だが、三グループのことが心配である。
戦闘のプロたちだし、なんなら俺より戦闘力がある人たちばかりだから心配する必要もないか。ミリアは少し気になるけど。
「右ィ!!」
「へいっ」
「GYAAAAAA!GYAAAAAA!!」
魔龍に相対しているライオネットさんとキースさんの息は抜群に合っている。振り回される前脚を確実に躱して剣戟を叩き込むのはかっこいい。
着実にダメージも与えつつも体力を削るように陽動しているのは見ていて圧巻だ。
「にしても! この身体強化、前よりやばいっすね」
「無駄口を叩くな! 俺もわかっている」
二人な何を話しているかわからないが、今のところ被弾はない。ただ、怖いのは魔龍の矛先が潜んでいる隊員たちに向くことだ。
ただ、二人は魔龍の視線すらもコントロールしているように感じる。俺も安心感が凄い。これが第一師団の団長と副団長なんだな。俺には手の届かない雲の上の存在。
「憧れるな……」
「GYAAAAAA!!!」
魔龍の咆哮に怯えることなく、俺はそのまま本音を口にしていた。
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