第3話「討伐作戦」
魔龍討伐作戦会議は団長、副団長、そして第二から第六師団長、及び各副師団長が参加する。
第一師団はライオネット団長とキース副団長によって取り仕切られている。
そこに俺は今回臨時で動員されたこともあって参加しているのだ。
というか、キースさんに無理やり連れられて騎士団に在籍してた頃も会議に参加させてもらっていたな。発言をすることはないけど。
「では、魔龍討伐作戦会議を始める」
今回の魔龍討伐は第一師団から第六師団の全体から騎士を動員し、第二から第六師団の副団長クラスとほか若干名を王都に残すらしい。
副団長クラスで魔龍に参加できないのは残念だと思う。実際副団長クラスは少し苦い顔をしている。
ただ、このような大規模討伐作戦時は王都の警備が手薄になり、犯罪リスクの増大に繋がる。
裏返せばいつも以上の少人数で王都を守らなければならないため、優秀な人材は残されるのだ。
ただ、実力が認められているのは嬉しいが、そんなことよりも魔龍討伐に参加したい、という気持ちが顔に出ているけど。
対象となる魔龍のサイズは十五メートルほどのようだ。前回の魔龍より少し大きくらいか。
基本的に足止め役は俺を筆頭に、ライオネットさんとキースさん。二人は俺が拘束魔法で捕縛するための体力削りと誘導をする。
大人数だとかえってリスキーになるため、初手は少人数で攻める。その上で、拘束が完了次第、全体で攻め落として一気に殺すというわけだ。
あとは、俺の魔力都合によるもので、
しかも高度結界などを展開する余裕はあまりなく、後ろの騎士たちは己で流れ弾を回避しなければならない。
この点は俺の仕事に対する能力が不十分な気がして申し訳ない。
「ディル、鈍ってないよな?」
「拘束魔法」
横目でライオネットさんにそんなことを言われたので、拘束魔法を展開する。もちろん、団長に対して。
「お? 前より強度が上がったか?」
「そうですね。もっと締め上げますか?」
こういうことは不敬にならない。時と場合による。
「やめてくれ。作戦前に筋肉痛になる」
「解除。すみませんでした」
「わかりやすくて何よりだ! 安心できたよ」
他の師団長たちは顔を青くしているが、これくらいならばむしろ良い方向にいく。
言葉だけでなく、行動、結果を見せろというライオネット団長の言葉をそのまま体現しただけだ。
キースさんは小声で『筋肉オバ、オバケ、くすす』なんて笑っているが、ライオネットさんに気付かれていますよ。ご愁傷様です。
「基本的に足止め中の流れ弾はディルも防ぎきれない。犠牲を出さないためにも心してかかるように」
『承知!!!』
意外とさっぱり終わった。まあ、基本的に一度魔龍討伐を経験していることもあるから流れは大きく変わらないんだよな。
「では、作戦は三日後。それまで各団、騎士を含め体調その他の管理を徹底せよ。解散!」
『はっ!』
よし、これから三日は鍛練の時間だ。本当は孤児院の子たちと遊びたいけど、そうもいかない。
一度経験しているとは言え舐めてかかる案件ではないからだ。
「俺はミリアのこと見てきますね」
「わかった。きちんとみてやってくれ」
「承知しました」
ミリアは少なくとも王国騎士団に入るだけの実力がある。ただ、少しばかり引っ込み思案で実力を存分に発揮できていないのだ。
これは団長、副団長も言っていたので、俺の考えは恐らく正しい。なんとか自信をつけてもらいたいんだよな。
「ミリア、おつかれ」
「先輩! 会議はもう終わったんですか?」
「そうだね。流れは前と同じだから長引かなかったよ」
「なるほど……」
「久しぶりに俺の防御結界に打ち込みするか?」
「お願いできますか?」
「簡易結界……よし、いいぞ」
そして、何を隠そう、ミリアは俺の防御結界に打ち込みをする時、明らかに剣筋が良くなる。この点は周りの意見も同じだ。ただ、他の対人訓練だとそうもいかない。
これ、引っ込み思案なわけじゃなく、俺のこと嫌いなのでは? なんて団長に相談した時は腹を抱えて笑われた。危なく筋肉オバケって悪態をつくところだったのは忘れもしない。
あ、ちなみに、キースさんは会議後、ライオネットさんにどこかへ連れて行かれた。本当にご愁傷様でございます。
「良い剣筋だな。俺より全然上だ」
「そんなことっ……ありません!」
「なあ、ミリア」
「はっ、はい!」
こう、話しかけている間も剣を振るのをやめないのだ。嫌われてると思ってもおかしくないよね。
「どうして俺に対しては剣筋が良くなるんだ?」
「は、はひ!?」
「心が揺れたか?」
「そっ、そ、そそ、そんなこと! ないで、す!!!」
「俺のこと嫌いか?」
「へ、ふぁ!?」
「また心が揺れたな……」
え、本当に俺のこと嫌いなのか?
「い、い、いいいいいあ、いえ……やぁ!」
ふむ。そこまで強度を上げていないが、簡易結界にヒビか。二年後には今のセラフィより戦闘火力が高くなってそうだな。
動きはやっぱり人と狼人の差がどうしてもあるけれど。
「うんうん。やっぱり良い剣筋だ。対人ではやっぱり厳しいのか?」
俺に打ち込むのもある意味対人なのだけど、それは口にしない。
「そう、ですね。なんだか萎縮しちゃって」
「まだ慣れないのかもしれないな。相手の怪我だとか、そういうのも不安になるか?」
「なりますね。もちろん、自分の怪我も怖いですけど」
なるほどな。王国騎士団は訓練で怪我など当たり前で、肋骨が折れたりなんてことも日常的に起こる。
そのために王国騎士団で回復魔法師を抱えているのだが、ミリアはまだあと一歩を踏み出せていない感じだな。
「まあ、無理はするな。少しずつ慣れればいいさ、まだ時間はある」
つい孤児院の子たちにするように頭を撫でてしまった。
「あ、すまん」
「きゅんきゅん。いいえ、う、嬉しいです。ありがとうございます!」
やっぱり嫌われていないのかな? それならよかったけど。
「お、おう。それならよかった」
セクハラとか言われたら魔龍討伐どころじゃなくなってしまうからな。
「それじゃ、俺はちょっとセラフィとかのところ行ってみるわ」
「はい、ありがとうございました」
次はセラフィかな。俺の防御結界をとても殴りたそうな顔をしていたからね。
「あわわわわ……せ、先輩に、なで、撫でられちゃったあ……」
ミリアは蕩けた表情でディルの背中を見送っていることを彼は知らない。
「セラフィ、やるか?」
「先輩! よろしくお願いします!」
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