第2話「いざ、王都へ」

 とうとう王都へ行く日がやってきた。みんなは少し浮き足立っているが、俺は魔龍討伐に動員されるため気が気ではない。さすがに緊張しているのだ。


「忘れ物はないかい?」

『はーい!』


 元気のいい返事でなによりだ。


「兄貴は剣を持っていくのか!? かっけえな!」

「ギャランたちを守るためだよ」

「うおお! さすが兄貴だ!」


 ほとんど使うことはないが、愛剣を帯剣することも忘れない。

 ちなみに、相変わらずギャランは俺のことを兄貴と慕ってくれている。まだ一度会っただけだが、セラフィのことも相当気に入ったみたいだったからね。

 ちょっと、本当にちょっとだけ不安になったよ。これでいきなり『ディルさん』とか呼ばれたら一日は寝込むだろう。


「よーし! 出発するぞ!」

『いえーい!』


 とうとう出発だ。時間は待ってくれない。本当に嫌なことを待つ時間ってすぐに来てしまうよな。

 何をして忘れようとしても頭にへばりついているし、目を開ければほら、魔龍討伐直前だ。


「我はまたちーずけーきをたべたいな!」

「ミィはくっきーなの」

「私もクッキー食べたいかも……ディルさんは?」


 みんなスイーツにメロメロだね。


「俺か? まりゅ……俺はドラゴンステーキが食べたいかな」

「な、なんじゃそれ!? 我もたべるぞ!」


 変なことを口走るところだった。ただ、ドラゴンステーキは嘘じゃない。前回の魔龍討伐後も振舞われたのだ。今回も討伐できた場合は食べることができるだろう。

 正直、あれより美味しいステーキを俺は知らない。思い出すとよだれが出ちゃう。


「ねねディル様、ボクは新しい櫛が欲しいの」

「うんうん、一緒に買いに行こうか」

「僕はかっこいい服が欲しいな」


 そうか、王都だし櫛とか服を新調したくなるよね。


「テオは服が好きだからね。俺も一緒に見に行こうかな」

「じゃあ、そのままオレを武器屋に連れてってくれよ!」

「わかったよ」


 うんうん、どんどん予定が埋まっていくね。これは怪我しないで帰ってこないとまずいかな。


「おにいちゃん、わたしはお揃いのゆびわがほしい」


 おや? リリは少しませたことを言っているね。でもなんだ、アクセサリーに興味があるのだろうか。


「それなら、俺が選んで買ってあげるよ」

「やった!」


 俺はさすがに買わないけどね……とは言えなかったけど、まあ、なんとかなるだろう。

 ああ、王都は楽しみなんだけど、その前に控えているお仕事が本当にしんどいな。てか、みんなはちゃんと納得してくれるだろうか。

 そのあたりはレスターさんにお任せだ。俺はみんなに甘いから強く言えないし。


 王都への道中は魔物もおらず、平和だった。子どもたちは浮き足立っているものの、勝手な行動はせず、俺も安心して進むことができた。


「さて、着いたね」


 予定通りの時間に到着することができた。まずは門番兵に話をしないとな。


「ディルです。王国騎士団から話は通っているかと」

「待っていました。ささ、どうぞ」

「ありがとうございます」


「さ、みんな、王都だよ」


 やはり、王都の喧騒はみんなそこまで経験がないのだろう。見るもの見るもの全てが新鮮なものとして目に映るのだろう。目をキラキラさせていて俺もほっこりするよ。

 だが、悲しいことに俺の視界にはもうレスターさんが見えている。さあ、仕事の時間の始まりだ。


「みんな、後でたくさん見て回れるからまずはレスターさんのところに行くよ」


 その後、俺はみんながポカーンとしているままに離脱した。心苦しい。リリなんて涙目になっていたんだけども。レスターさんのアフターケアに期待して、俺は頭を魔龍討伐に切り替える。

 そして、その足でそのまま王国騎士団本部へと向かった。


「ディル、久しいな」

「お、ほんとだ! 待ってたぜ〜」

「お久しぶりです。今回はよろしくお願いします」

「頼りにしてるからな! ははは!」


 辞めたからと言って他人行儀にはなっていなくて安心した。なんかこうアウェイ感があると辛いからね。

 ただ、王国騎士団にはそういうことはしない、という暗黙のルールがある。少なくとも寝食をともにした仲間だ。それは一生ものである、という考えからだ。本当良いところだよ。


「お、来たか。おつかれ」

「キースさん、お疲れ様です。この後はどう動くので?」

「一時間後に討伐作戦会議だ」


 息つく間もない。


「承知しました」

「荷物は寮のお前の使って部屋を使ってくれ。掃除してあるぞ? ほれ、鍵」

「……ありがとうございます」


 こうして俺は再び王国騎士団に戻ってきた。臨時の動員を受けただけだけどね。寮の部屋を使わせてもらえるのはとてもありがたい。

 もう戻るつもりはないが、ここのみんなのことも大好きだ。だから、魔龍討伐でも前線に立って守備の要として魔龍に立ちはだかってやろうと思う。


「せーんぱい」

「セラフィか。少しの間よろしくな」

「こちらこそです。また先輩と前線に立てることは嬉しいですよ」


 すぐ戦闘の話だ。セラフィは戦うの本当に好きだなぁ。


「ははは、相変わらず戦闘狂だな」

「そんな言い方はしないでくださいよー」


 会議まではまだ時間があるか。もう一人の後輩にも会いに行こうかな。


「セラフィ、ミリアはいるのか?」

「あの子は訓練場だと思いますよ。好きなんですか? ねえ、ミリアのこと好きなんですか?」


 なんでそうなるのか。


「違うっての。唯一の直属部下だったからな。一応ちゃんと声かけるの」

「なんだー、つまらないのー」


 セラフィは賑やかな子だ。きっと魔龍討伐のとき少しピリついた空気が流れても、彼女が率先して空気感を変えてくれる。頼もしい存在だ。今はただうるさいだけだけど。そんなことは置いておいて、俺は訓練場へ向かった。


「ミリア」

「あ、先輩!」

「今回は参加するのか?」

「はい。私もここまでやってきましたから」


 死なせないように頑張らないとならないな。


「何があっても俺がいるから大丈夫だよ」

「きゅん。あ、ありがとうございます!」


 この子はミリア。俺と同じ人族で、十六歳だ。まだ王国騎士団に入団して一年ちょっとだな。過去に外部任務で色々あって唯一の俺の直属部下となった。

 なにせ、俺は師団長クラスじゃないから部下を持つこと自体がありえないのだが、この子は例外だ。本当にたまたまなのだ。


「ミリアは魔龍討伐初めてだよな?」

「そうですね。前回のときは私が入団する前でしたから」

「だよね。多分最前線には立たないと思うけど、気を張っておけよ。流れ弾で死ねるくらいには魔龍が暴れると厄介なことになるからな」


 脅かしすぎてるかな? でも必要な情報だ。気を抜くと死ぬ。


「……そ、そ、そうなんですね」

「まあ、そうならないように俺が呼ばれたっぽいし、なんだ、勉強だと思って前線の人たちをよく見ているといい」

「きゅん。わかりました!」

「ミリアは会議に出るのか?」

「下っ端なので……」

「そうかそうか。最初はそうだよ。俺もそうだったし、悲観することはないからな」

「はい!」


 ああ、そろそろ会議の時間か。もう頭は魔龍討伐モードだ。気を引き締めて俺は会議室へと向かうことにした。

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