魔龍討伐編
第1話「動員依頼」
「討伐の日程は確定しているのですか?」
「五日後だ。だから明後日には王都に来て欲しい。それと来る時は孤児院の子たちもな」
面白いくらい厳しいスケジュールになっている。緊急だから仕方ない。
「なるほど……そのあたりの調整はレスターさんがやってくれますかね」
「手配はすぐしてくれるらしいから、明後日なら大丈夫だろう」
明後日か。王国騎士団を離れてそんなに日も経ってもいないが、早速動員された。
魔龍討伐。また捕縛役を任されるのだろうか。まあ、それは調査結果に基づく討伐作戦の中で決められることだ。
今俺がどうこう考えることではない。
「わかりました。では、明後日のお昼あたりには王都に着くよう動きます」
「よろしく頼んだ。折角だからもう少し話したいが、要件だけ伝えてすぐ帰還しろと団長命令が下っててな。では、また後日」
しっかりと団長のライオネットさんに先読みされて釘を刺されていたらしい。
「はい。お気をつけて」
となると、すぐに準備しないといけないか。夕食のときに話して、各自の準備は俺が手伝って明日までに終わらせよう。
スケジュールが詰まりすぎているな。王都に着いてから三日後には討伐に出ることとなる。
この調子だと王国騎士団もかなり大変だろう。伝令役という実働部隊で副団長が直々に来る時点でお察しだ。
「夕食まではゆっくりするか。焦っても何も変わらないし。そういえばリリのところにいかないと」
ただ魔龍討伐作戦が進行しているということは、人里への危害が予測されるからだ。つまり、この孤児院も安全とは言えない。
そう考えたら俺は積極的に作戦に参加するほかない。この子たちのことは必ず守らないといけないから。
「リリ? ……いない、となれば俺の部屋かな」
昼寝のときも当然のように俺の部屋で寝ているからね、この子は。
「リリ、終わったよ」
「待ってたよ! 早く抱っこしてー」
「はいはい」
時々甘やかしすぎなのだろうかと思うが、そのあたりはレスターさんのおかげでバランスが取れていると信じたい。
どうしても亡き妹と近い年齢ということもあって、基本的に甘くしてしまう。
俺ってダメな大人の典型みたいだな。
「みんなまだ寝てるから外を歩こうか」
「ん、わたしは抱っこされてていい?」
「うん。いいよ」
こういうところはリリとサリーは似ている。正面が後ろかの違いだけで、本当に降りようとしない。
まあ、いつまでもこのように抱っこしてあげられるわけではないし、できることはできるうちに沢山してあげないとね。愛情だよ、愛情。
「さっきの変な人はだれだったの?」
キースさん、変な人って呼ばれてますよ。
「ああ、俺の知り合いだよ。王国騎士団の先輩、かな」
「そうなんだー」
さて、夕食前に俺はとりあえず自分の準備だけでも終わらせないとな。
あとはみんなの準備を手伝って、明後日の朝にはここを出る。だいぶ忙しくなるな。
◇◆◇◆
夕食のときに、少しの間王都にみんなで行く話をした。俺が魔龍討伐に動員されるといった余計なことは一切言っていない。
リリとサリーはとても喜んでいた。王都に行く機会なんてあまりあるものではないからな。俺としては王都の街でではしゃぐみんなをすぐに見れないことが悲しいよ。
恐らく、明後日王都に着いたら俺はすぐに王国騎士団本部へ行く。子どもたちはレスターさんが対応してくれるだろう。そして、さらにその三日後、魔龍討伐が決行される。
俺も以前の討伐時よりは強くなっているから、魔龍への牽制はそれなりにできるのではと考えている。
それが無効化されるような異常種の類でないことを祈るだけだ。
「おにいちゃんと王都に行くのたのしみー!」
「そうだね。ほら、リリ。準備するよ」
はしゃいでいるリリを横目に俺は申し訳ないと心の中で謝罪する。すぐに王都を一緒に楽しむことはできないから。
魔龍討伐がうまく終われば少し遊ぶ時間もあるかもしれないけれど。それはきっとリリのイメージと違うだろう。
本当にごめんな。
「うん!」
みんな王都へ行くのは楽しみなようだ。それの分俺の罪悪感というか申し訳なさが増長していく。
ただ、これだけみんな喜ぶなら今後は定期的に王都に遊びに行くのもアリかもしれない。
日帰りできる距離だし、比較的見通しの良い道しかないから俺一人でも十分この子たちを守り切れる自信があるから。
「さて、少し鍛練でもするか」
一通り準備が終わり、みんなが寝付いた後、俺は広場に出て鍛練を行うことにした。
付け焼き刃のようかもしれないが、時間が足りないし仕方ない。
普段から体は動かしているし鈍っている実感が今はないが、長いことダラダラしているとさすがに体が鈍る。
今回の件のようにいつ何が起きるかなんてわからないし、どんなときも万全の状態でみんなを守るだけの準備は必要だ。
「
これはいくつかの結界魔法を組み合わせた俺の創造魔法だ。これを自分に展開するだけで、意外と鍛練になる。
付与された側は自分の魔力を使うことなく身体強化を受けることができる利点がある。
あと、対人保護結界は俺のよく使う自動反撃よりも結界として強固だ。高度結界並みの耐久力を誇る。
これは魔力消費が激しいので二人に同時展開するのが限界だ。もし、魔龍討伐で使うとしたら最初に魔龍を削る役割を担った二人に展開することになる。
それまでにごっそり魔力消費をしていたら最悪一人が限界になってしまうけど。
「ふう……」
自分一人に展開してもごっそりと魔力消費をしているのがわかる。この孤児院の子たち全員に自動反撃を展開するより遥かにキツい。
無限の魔力が欲しいよ。そうすれば
「現実はそこまで甘くないんだよな〜」
ちなみにこれは魔龍討伐の隠し球の一つだが、もう一つ隠し球がある。相手が魔龍のように皮膚がガチガチのものでなければほぼ確実に仕留められる自信がある結界だ。イメージとしては拘束魔法の拡張版だな。
魔龍相手だと一時的な足止めくらいはできるだろう。
「ま、足止め程度にしかならないだろうけどな」
実際、魔龍討伐では足止めだけの役割もある。本当に戦略的に動かなければ多数の犠牲は回避できない。
そして、例え誰が死のうとも立ち止まらない精神力も求められる。
「解除……はぁぁー……ふうー」
魔力切れでもないのに、魔力切れのような現象に襲われるから好きじゃない。
「さて、孤児院の結界を確認したら寝ようかな」
鍛練もそこまで死ぬ気でやるとコンディションに影響が出るので必要なだけに留める。体力が段違いの人であればまだまだやるのだろうが、俺は凡人だ。そんなに体力もないし、あるのはこの防御魔法だけ。
魔力封じなんてされたら戦力にならないし、俺の結界は呪術を防げないからその類の相手は天敵である。
「脳筋の魔龍はそんなに相性悪くないんだよな……異常種じゃない限り」
ダメだ。考え出すと眠れなくなりそうだ。なんとか思考をリセットして、部屋へ戻る。
「よし、おやすみなさい」
「……おやすみなさい、ディル様……」
何か聞こえた気がするが、疲れているのだろう。すぐに眠れる気がする。よしよし、寝るぞ。
「……おもったより早かったの。びっくりしたあ。それじゃ、おやすみなの、ディル様」
ベッドの下からディリーがもそっと出てくる。小さな侵入者にディルは今日もまた気付くことができなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本話から新しいお話になります。
いつも読んでいただき本当にありがとうございます。
フォロー、応援、★レビューなどが糧になるので今後ともよろしくお願いします。
近況ノートにキャライメージを載せているのでそれも見ていただけると嬉しいです!
https://kakuyomu.jp/users/popoLON2114/news
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます